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モモンガ・リリの変なレンジャー魔法  作者: HILLA
サンリカ国 ウスリー・コモウェルの街
23/64

1.入国手続き

ウスリーの街の門に向かう途中、私の籠になってしまっている帽子の中で食事を終わらせ、運動不足にならないように2人と並行するように枝伝いに移動した。ちなみに、食事はルカくんから胡桃を貰っている。


「リリは、何を食べられるの?」


「果物と野菜が中心ですね。でも、モモンガは雑食なので、結構なんでも食べますよ」


「胡桃は食べられる? 今、果物も野菜も無いんだ」


ネギ類とか、チョコレートとか、他にも食べてはいけない物はあるけど、胡桃はもちろん食べられるよ。


「これからは、果物や野菜を切らさないように買わないとだね」


申し訳なさそうに胡桃を取り出したルカくんの頭を優しく撫でながら、フェレルさんがそんなことを言ってくれた。


とても有り難い言葉なんだけど、私としては「ん? この2人、いつから新鮮な物を食べてないの?」と少し心配になった。


食事の問題は、私1匹だけならどうとでもなるから大丈夫なんだけど、ルカくんやフェレルさんが食べられないっていうのは栄養上問題がある。バランスよく食べないと病気になりやすいからね。一応、目を光らせておこう。


とまぁ、こんな感じで胡桃を貰って食べたのである。


ちなみに、ポッケのことは打ち明け済み。ルカくんが親切に胡桃を出してくれたので、お礼を言って受け取り、「実は……」と人間の一口大に切られた林檎を2人に1つずつ渡している。


一口大な理由は、熊獣人さん達が私の大きさを気遣って切ってくれていたからである。優しい。ありがとう。おかげで、手に持って食べられます。


気を遣われる分野のことは初手で話しておかないと、言い出しにくくなるかもだから。タイミングによっては、ルカくん達の親切を仇で返す形になるかもしれない。秘密にするならするで、死ぬまで口を割らない覚悟じゃないと。


となると、ポッケに関しては、私はすぐにボロが出そうなので、秘密にするという選択肢はなかったのだ。


「リリって、本当にすごいね」「もうモモンガではないのでは?」という感想を2人からもらっているので、隠さずに言うと判断した私は正しかったと思う。


そんなこんなで17時過ぎに門に到着した。


2人がもうすぐ門という所でフードを被ったので首を傾げたら、「街に入られるかどうか分からない時は、顔を隠すの」「私達は見目がいい方でね。困ったことに狙われやすいんだ」と説明された。


だから昨夜は念の為、門近くでテントを張らず、隠れやすい森の中に入ったのかと合点がいった。そして、この2人のことは私が守ろうと、強く心に決めたのだった。


長い行列だなぁ。馬車もあるし、車っぽいのもあるし。だから、列を長く感じるのかな?


ん? 急に影?


不思議に思い、仰け反るように顔を上げると、上空に羽が生えている船が飛んでいた。


ホワッッッツ!? ファンタジー! これぞ、ファンタジー! 乗ってみたい!


船の羽は透明ではなく、皮なのか布なのかの素材で、羽よりも棒の先にヒレがついているという表現が近いかもしれない。錨も付いている。降りる時に使うんだろうか?


私が口を開けて、空を見上げていたからだろう。ルカくんの可笑しそうな笑い声が聞こえてきた。見ると、フェレルさんも肩を小刻みに揺らしている。


私は両手で口を隠し、丸まって寝たフリを決め込んだ。まぁ、笑い声を大きくされたけどね。並んでいる暇な時間に、笑いを提供できてよかったよ。


長い列だったが、何とか18時前に受付に辿り着いた。受付所は3ヶ所あり、長机の上にパソコンらしき物と、その横に長方形の透明の板が置いてある。


「こちらに身分証を置いてください」


警備員のような服を来た受付のお姉さんの言葉に、フェレルさんがパスポートくらいのサイズの1枚の厚紙を、そこに置いた。


身分証の大きさを勝手に免許証くらいだと思い込んでいたから、驚きで声が出そうだったが、帽子の中をくるくるっと回って誤魔化している。


危なかった。1枚のみってことは、2人分の証明書なんだろう。


「親子ですね。目的はありますか?」


「ありません。色んな街を観光しながら、冒険者として細々と生計を立てていますので」


「細々ですか? Aランクとなっていますが……」


「積極的に依頼を受けていませんので。生活に困らないくらいでいいんです」


「分かりました。では、本人か確認をしますので、手を置いてください」


うわー! うわー! 気になることがありすぎて、じっとしてられない。親子? Aランク? なにそれ?


でも、私は気を使えるモモンガ。話してくれるまで聞かないぞ。それに、今は指紋認証っぽい確認作業が気になるぅ!


「確認ができました。それと、そちらの動物はいかがされますか?」


「ペット登録をお願いします」


「ペット登録は、2,000マルーになります」


マルー? 通貨名なのかな? どれくらいの価格なんだろ? 高かったら申し訳なさすぎる。


フェレルさんが、長方形の赤色の紙を2枚出した。受付のお姉さんが枚数を確認し、工具箱のような箱に入れている。


「ペットの手を、板の上に置いてください」


自ら動いてもよかったが、怪しまれないためにフェレルさんにお任せしている。


フェレルさんの左手に体を軽く包まれ、私の右前足を右手で誘導するようにして、板の上に置いてくれた。


「名前は決まっていますか?」


「『リリ』でお願いします」


「登録できました」


私は帽子の中に戻り、板を触った右手を見やる。


板の感触は硬く、ひんやりと冷たかった。ただ一瞬電気のようなものを感じたので、その時に情報を記録したんだと思う。


「大人1名、子供1名、ペット1匹となりますので、1,750マルーになります」


なぬ!? 入国にもお金が要るだと!? まぁでも、前世でも出入国税がある国もあったもんね。それと一緒なのかも。


ただ私はお金を持っていないし稼げないから、全て頼ることになってしまう。稼ぐとしたら……大道芸でもやってみるか? ううん、目立つの禁止。怖い。


だとすると、他の所でお返ししないとな。レンジャーさん達がいらっしゃるから、私優秀なんですよ。ふふ、頑張るぞ。


またフェレルさんが赤色の紙を2枚渡し、黄色と白色の硬貨っぽい物を合わせて7枚受け取っていた。


私が「赤い紙を仮に1,000円だとして、2,000円渡した。で、戻ってきたのは7枚で250円の硬貨だとしたら、100円2枚と10円5枚?」と考えているうちに、「よい旅を」みたいな一言二言の会話が、人間達によって交わされていたようだ。


帽子が揺れたので意識を戻すと、そこはこの世界で初めての街だった。






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