21.フェレルさんからの提案
「なるほど……では、リリ、提案があるのですが」
フェレルさんに、人差し指で頭を撫でられた。顔を向けると、にっこりと微笑まれる。
「私達と一緒に旅をしませんか?」
「師匠、本当に! いいの?」
「こら、ルカラウカ。まだ決まってないよ。リリの返事待ちだからね」
「うん!」
え? ちょっと待って……ルカラウカくんにキラキラした顔で、熱い視線を送られているって、めっちゃ分かるんですけど。これ断ったら、罪悪感で胸が押し潰されるやつじゃないですか。
いや、まぁ、真剣に考えてみよう。
門があるなんて思わなかったから、今のところ対策はない。たぶん見ておったまげていたと思う。そして、門の種類によるけど、飛び越えられない物だったら街に入られないということになる。そうしたら、そこで詰むことになる。
フェレルさんの申し出は、無知な私には渡りに船状態だ。とても有り難い。
困ることがあるとすれば、自由に移動できなくなることくらいか。話せることもレンジャー魔法のこともバレているから、気を張らなくて済むし。
「聞いておきたいのですが、どうして私を仲間に誘ってくださるんですか?」
「理由はいくつかあります。まず、ルカラウカが気に入っているという点。そして、リリは自分で考え話せますので、ルカラウカの相手になってもらえるという点ですね。私は熱中すると、時間を忘れてしまいますので」
自覚があるのね。それでも抑えきれないと。
「後、打算もあります。リリは強いですので、いざという時は守ってもらえるかなと」
これは本気で思っていなさそう。理由付けっぽい。
「最後に、話すモモンガを初めて見て感動しました。リリと旅をしたら、楽しい事がたくさん起こりそうだなと思ったんです」
「僕もそう思う!」
そう言ってもらえて悪い気はしない。むしろ、嬉しい。
フェレルさんは顔がいいし、物腰が柔らかそうなので、穏やかな時間を過ごせそう。
ルカラウカくんはまだ顔は見ていないけど、可愛いと断言できるほど、行動も雰囲気も話し方も全てが愛らしい。合格。
「分かりました。ぜひ仲間に加えてください」
「やった!」
「あー、よかった。ありがとうございます。これからよろしくお願いします」
フェレルさんに手を摘まれ、上下に振られた。きっと握手をしてくれているんだろう。こちらからも腕を上下に動かしている。
「ふぁあぁぁ」
大きな欠伸。小さい子供は眠っている時間だもんね。起きている、さっきまで走っていたルカラウカくんは偉いよ。お姉さんがグレーさんにお願いをして、寝床作ってあげようか?
「ルカラウカ、荷物を取ってくるよ」
「うん。リリと待ってる」
フェレルさんは、ルカラウカくんの頭を優しく叩いてから、現れた方向に走って行った。
私は、三角座りしたルカラウカくんの膝の上に乗せられた。
「ルカラウカくん、ルカくんって呼んでいいですか?」
「うん。ルカでもいいよ」
うつらうつらしているルカくんは、きっと頭で私を潰さないように眠らないでいるのだろう。膝に頭を置いて眠ってしまいたいだろうに。優しい子だ。
ぴょんと膝から飛び降りたら、コテンと首を傾げたルカくんに膝の上に戻される。
「丸まって眠って大丈夫ですよ。フェレルさんが戻ってくるまで、私が守りますから」
「うーん、リリと一緒がいい……」
仕方がない。私が膝の上で丸まってあげよう。
体が傾いているルカくんが「へへ」と嬉しそうに笑った。と思ったら、後ろに倒れたので、咄嗟にグリーンレンジャーを呼んで、結界で受け止めてもらっている。
『まったく。子供に無理をさせるなんてダメよ』
「はい、ごめんなさい。次からは気を付けます」
グリーンさんが器用に結界の角度を少しずつ変えて、丁寧にルカくんを地面に寝転ばせた時、フェレルさんがリュックを背負い、大きな肩掛けバッグと小さめの肩掛けバッグを持って戻ってきた。
「先程の緑色の方ですね。ルカラウカを助けてくださって、本当にありがとうございました」
深く腰を折るフェレルさんに、グリーンさんはニコニコ顔だ。
『プププ』
「えっと……」
「グリーンさんが朝まで守ってくださるそうです。ですので、フェレルさんも安心して眠ってくださいって言われています」
「いいのですか? ここではテントを張れないから、どうしようと悩んでいたところでした。グリーンさんとおっしゃるのですね。本当にありがとうございます」
『プププ(そんなに恐縮しなくていいのよ)』
さては、グリーンさん。あっさり顔が好きなん……あ、調子に乗ってごめんなさい。睨まないで。
3つの鞄を地面に下ろしたフェレルさんは、リュックから寝袋を2個取り出した。その1つにルカくんを寝かせている。
「リリ、狂花した虎なんですが、もらってもよろしいでしょうか?」
「いいですよ。でも、食べない方がいいと思いますよ」
ボアアーノでは、ランランさんが浄化して、はじめて食べられるみたいだったから。きっと何かあるんだと思う。
「私達は食べませんよ。素材として冒険者ギルドに売りたいのです。特に頭に咲いている花は、高く買い取ってもらえるんです」
へー、確かに真珠みたいに光沢ある白で綺麗だなとは思ったけど。でも、狂花していた動物の一部分だよ。怖くない? 私は無理だなぁ。
そんなことを思いながら動くフェレルさんを眺めていると、なんと肩掛けバッグの1つに虎を丸々入れたではないですか! びっくりだよ!
「フェレルさん……そのバッグって……」
「ああ、私もどういう仕様なのか分からないのですが、このバッグには物置小屋くらいの量を入れることができるんですよ。リュックはその倍くらいですね」
「魔法ですか?」
「みたいですね。毎日魔力を補充しないと鞄が破れて、中の物が飛び出してきますから」
えーっと、ほーん、そっかー……。
オーケー、オーケー。異世界スゴいねって受け入れよう。魔法なんだもん、なんでも出来る。だってほら、よく読むじゃない。イメージが大事だって。きっとその賜物なんだよ。
「絶対に魔力補充は忘れられませんね」
「そうですね。何度か忘れてしまい、大変でした」
苦笑いの後に「痛い出費なんですよ」と小さく聞こえて、お高いのだと想像できた。
虎を片付けたフェレルさんが眠りにつき、私もルカくんのお腹の上、寝袋の上で眠ったのだった。




