11.ググ先生の評価
「私、モモンガのリリと申します」
片手を上げて、元気よく自己紹介。
「ダオちゃんが迷子だということで、一緒に来ました」
「リリ様。ダオを救ってくださり、ありがとうございます」
族長さん(クークーさんのお父さん)が答えてくれる。他の人達は、固唾を飲んで息を殺している。そんな中、今、不思議そうに近付いてきた村人達は、慌てて土下座をさせられていた。
なんだか申し訳ない。さっさと終わらせよう。
「皆さんの話が拗れてきていたので、ダオちゃんに尋ねてみたのですが、ダオちゃんを外に出したのはリンリンさんだそうです。ランランさんではありませんので、そこの人とリンリンさんが嘘を吐いたということみたいです。私からは以上です」
「なっ!」
私と同じように事の成り行きを見守っていた族長さんが、鬼の形相を嘘を吐いた男性に向けた。男性は尋常なくらい震えていて、顔を上げることができないでいる。
だが、もう1人の嘘吐き野郎、いや、嘘吐き女子? は、ボロボロと涙を流しはじめた。
「ひどい! 私は嘘を吐いていません! そもそもこのタイミングで、聖獣様が現れるなんておかしいじゃないですか! お姉様の術じゃありませんか?!」
まぁ、確かに聖獣様じゃないけどね。ごめーんね。
でもさ、術ではなく存在してますから。人間と魔物の言葉を話せる、ハイスペックモモンガなだけですから。
「止めろ! 聖獣様を貶しては、バチが当たるぞ!」
ほほーん。土下座をされたから相当上位なんだとは思っていたけど、聖獣様って想像しているよりも神様的存在なのかも。
「私は嘘を吐いていません!」「何を言うか!」「おとう、ローローの話も聞いてみましょう」って揉めはじめたから、少しだけググらせてもらおう。
ジオさんの視線は無視だよ、無視。キラキラしていて、なんか怖いもの。
ググ先生、教えてください。カチャカチャカチャっとな。
【聖獣】→魔物の上位存在。動物の姿を持ち、あらゆる言語を扱え、祝福を与えることができる。龍・鳳凰・猫・鹿などがいる。
なるほど。結構幅広いのね。それに、“などがいる”ってことは、ピボノーアの移住に関わったフェンリルも狼で入るのかも。驚きながらも、喋るモモンガを受け入れてもらえたことに納得だわ。
そういえば、ググ先生は、どんな人物についても教えてくれるのかな? 前世では著名人だけだったけど、この世界ではどうなんだろう?
うん、試してみないことには分からないよね。すみませんが皆様、ご協力をよろしくお願いします。カチャっとな。
【クークー】→熊獣人。20歳。ボアアーノ族長の後継者。好物は肉。動物が好きだが、なぜか怖がられる。触らせてくれるピボノーアに感謝している。好きな人はランラン。もうすぐ結婚できるとあって、心の中はいつもランラン♪だ。
いや、最後のダジャレ……さむっ!
【ランラン】→熊獣人。19歳。巫女。ピボノーアのジオ・シオ・ダオの世話係。好きな人はクークー。家族を恨んでいない。獣人にしては珍しいケース。
どういうことだろ?
【リンリン】→熊獣人。18歳。クズ。
ん? クズ? これって、ググ先生の感想なんじゃ……
ええ!? さっきは寒いって言ってごめんなさい! で、で、つづきを……
【リンリン】→熊獣人。18歳。クズ。自分が誰よりも1番可愛いと思い込んでいるバカ。性格終わってる。族長の嫁になりたくてクークーに近づく。自作自演でランランを追い込み、家族はリンリンの嘘を信じている。全員死んでいいレベル。
えっと、「そうですか」というコメントにとどめさせていただきます。冷や汗で、ふわふわの毛が湿ったら大変。
気持ちを切り替えて、もう1人名前出てたよね。
【ローロー】→熊獣人。20歳。リンリンの協力者。夜な夜なキスを報酬に協力している最低野郎。クークーが目の上のたんこぶ。ランランが好き。気持ち悪いゲス。
なるほどね。うん、なるほど。ググ先生の推しは、ランランさんてことね。分からないでもないから、物申すつもりはない。
ただこれは、今後は人物においては取り扱い注意かな。ググ先生の意見が入っているとはいえ、勝手に知りすぎるのはよくないよね。
今回は試しを兼ねてだから「ごめんなさい」と謝っておくとして、リンリンさんとローローさんの悪事を暴けそうなエピソードが、書かれていたらよかったんだけどなぁ。夜な夜なのキス現場を発見ってのは、揉めてる今となっては無理だろうし。どうしたものか……嘘をぶっ込んでみるか……
「あのー、少しいいですか?」
「はっ!」
族長さんの信仰心半端ないな。すぐに言い合いを止めて、姿勢が正しくなるんだから。
「私の予想なんですけど、リンリンさんとローローさんからお互いの匂いがしますので、2人は恋人みたいなんですよ」
匂いがするなんて嘘ですよ。モモンガの嗅覚はとても敏感で、飼い主の匂いを覚えられるほどだけど、こんなに距離があって、昨日の夜に引っ付いたどうかの匂いなんて分からないからね。
だから、心の中だけでごめんなさい。ギョッとした顔を見られたので、話の方向性としてはいいのでしょう。
「それで、たぶんなんですけど、クークーさんとランランさんが邪魔なんですよ。ダオちゃんを使ってランランさんを陥れて、ランランさんを愛してるクークーさんが、ランランさんを庇って印象を悪くする。そんな計画だと思います。だって、どう考えても、ランランさんがダオちゃんを外に出す理由はありませんから。監督不行届きで怒られるだけですからね。何も得はありません」
ん? クークーさん、全身真っ赤だな。おや、ランランさんも? ちょっとちょっとー、婚約者だからって想いを告げずにいたの? ダメだよ。いい機会だから正直に言っちゃいな。ふふふ。
「せせ聖獣様、いい今の話は本当ですか? クークーがランランを……」
族長さんにワナワナされながら聞かれている意味が分からない。唾飲み込まれちゃったよ。なんで?
「はい。クークーさんはランランさんを、ランランさんはクークーさんを愛しています。もうすぐ結婚されるんですよね? 許嫁とか婚約者とかじゃないんですか?」
「けっ、こん……」
消え入るような声で呟いた族長さんは、勢いよくクークーさんを見た。クークーさんは真っ赤なままランランさんの側まで行き、ランランさんの手を取っている。2人は恥ずかしそうに見つめ合った後、族長さんと向き合った。
「おとう。俺はランランを愛してる。数日前に結婚を了承してもらった。おとうとおかあには来週にでも報告しようと、ランランと話していたんだ」
「そういうのは直ぐに報告せんか! めでたいことだろ! 相手がランランとか! これほどめでたいことはない!」
ちょ、ググ先生ー! 内緒事は注意事項マーク付けててー。やっちゃっ……いや、むしろ村人達の前での発表はよかったのか? どうせ村をあげての結婚式になるだろうしな。周りにもお祝いムードは……数名の男女が泣いてるけど……恋に敗れた人達と、ランランさんに冷たくしていたっぽい人達以外は祝福してるからね。よきかな、よきかな。でもさ、騒ぎ出す前に1つだけ。
「私の話していることは本当だと、証明されたと思います。リンリンさんとローローさんをどうするかは皆様にお任せしますが、できればランランさんを今日からでもお引越しさせられませんか?」
「かまいませんが……どうしてでしょうか?」
「日常的に、でっちあげの罪を被せられているみたいですので」
リンリンさんが何かを言ってきそうだったが、批判的な視線を浴びると、悔しそうに唇を固く結んだ。
クークーさんは眉尻を下げながらランランさんを見るが、ランランさんは辛そうに目を伏せただけだった。
「クークーさんは、ランランさんから全部話してもらってください。そして、落ち着くまで、四六時中一緒にいてあげてください」
「分かりました。ランランを支えられるよう努力します」
うんうん、幸せになっておくれ。
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今は毎日1話投稿ですので後書きに記入しておりませんが、読んでくださっている皆様に本当に感謝しております。
第1章の完結までは、次話以降も後書き記入は控えさせていただきます。
ですが、とっても嬉しく思っています。ありがとうございます。




