なまもの
猫を手に持っているつもりだった。ふわふわの。
だけど鏡越しにみた猫は、大きなイモムシで、僕の両の手を這い回っていた。
虫は苦手だったから、ゴミ箱に放り投げた。すると黄色い液体を出してその頭が潰れた。
どのくらい生きるのかと思って、死ぬまで見といてやろうと思ったら、なかなか死なない。
なんだか妙に愛着が湧いて、自由に這い回れなくなったイモムシをまた手に取った。
イモムシの首がフサフサしていて気持ちが悪かったから、毛を剃った。
命は大切だと誰かが言っていたけど、そうなのかもしれない。
潰れた頭に止血剤を塗って、ラップをまいて輪ゴムで固定した。
また愛せなくなったら、足をちぎろう。
愛は一定じゃない、補給がいる。
学生時代、友達の話を聞いて感動した。
小さい頃から大事にしていたぬいぐるみと、今も一緒に寝ているという話だった。
間違いなくそれは愛情だと感じた。自分も愛してみたいと思った。
まずはベッドの上にイモムシを置いてみた。
逆さまにしたからか、足がウゾウゾと動いている。
起き上がらせてやると、ベッドの上をウゾウゾと這い回って、縁に近づくと落ちないよう真ん中に戻る動作を何度も繰り返した。
なんでこんなもの、愛したいと思ったんだろう。
欲しいものと違うだけで愛さないのはちがうと、どこかで自分の良心が言った。
だけどそれは理性であって、本心じゃない。
イモムシを持ち上げると、ベビーパウダーのような匂いがした。
白くて、足がいっぱい生えていて、頭が潰れている。
どうせなら名前を付けようと思って、「ネコ」という名前をつけて床に下ろした。