第5話 校則騒動2
委員会決めが終わった後、俺は昼休みに足利さんに話しかけた。俯いている姿を見て、どうしても放っておけなかった。
「足利さん、ちょっとお話ししてもいいかな?」
「前田君どうしたの〜?」
「いや、さっきの委員会決めで京極さんが足利さんの権威で生徒会に対抗するみたいな話をしていたから、足利さんはそれでいいのかなって思って...」
「もしかして、心配してくれてるの〜?大丈夫だよ、前田君は何があっても私が守るからね〜」
「だけどもし生徒会から何が報復でもされたら...」
「その時は私に責任を押し付ければいいよ〜」
「足利さん...」
この人はどうして自分を犠牲にしようと考えてしまうのだろうか。本当はみんなの前で無理してるのではないのだろうか。
「足利さんは、本当にそれでいいと思っているのか?」
足利さんは少し間を置いてから答えた。
「...本当はね、逃げ出したいって考えちゃうこともあるんだよね〜」
「だったら京極さんの提案断ってもよかったのに...というか京極さんも自分の家柄で生徒会に対抗すればいいのに」
「それは難しいと思うよ〜私と京極さんじゃあ家柄の価格が全然違うからねぇ」
「えっそうだったの?でも京極さん、初対面の時に家柄アピールしてたような...」
「京極さんと私はどっちも貴族クラスの家柄だけど、官位に差があるんだよね〜。そうだ、前田君に分かりやすく説明するために官位の表を書いておくね。」
足利さんは、ノートに官位の序列と有名な名字を書いていった。
正一位 藤原 橘
従一位 足利 豊臣 徳川
正二位 織田
従二位 大内
正三位 北畠
従三位 山名 伊達
正四位 新田 大友
従四位 細川 斯波 畠山 北条 武田 今川 朝倉 三好 毛利 島津
正五位
従五位 京極 楠木 上杉 尼子
「これを見れば貴族の中でも序列があるのがわかるよね?」
「ああ、京極さんって名前の響きの割にそんなに偉くなかったんだな」
「...本人には絶対に言わないでね〜。」
「いや言わないって、面倒くさいことになりそうだし」
きっとまた思想を押しつけられるんだろうなと考えてしまった。
「話が長くなっちゃったけど、この役目は私じゃなきゃいけないと思うから。」
俺は足利さんの目を見て覚悟を決めたことを察知した。
「足利さんがそこまで言うなら止めないけど...でも辛かったら遠慮しないで頼ってほしい。」
「前田君って優しいんだね〜。私の名字を聞いただけで朝敵、逆賊、裏切り者って言ってくる人もいるのに...」
この人、過去に何があったんだろう...?と思ったが特に触れないことにした。
「でも、生徒会にどうやって対抗するんだ?ただでさえあの人たちから目をつけられてるのに。」
「やっぱり不安だよね...そうだ、前田君ちょっと手出してもらっていい?」
「こうか?」
俺が手を出すと足利さんが俺の手を握ってきた。
「足利さん!?」
「どう〜?あったかいでしょ〜?」
足利さんがニコニコしながらこちらを見つめてくる。周りの視線が痛い。
「私からの恩賞だよ〜。これで不安も和らぐかな〜と思ってね。」
俺は別の意味で動揺していた。その時、教室の扉が開いて京極さんが入ってきた。どうやら学級委員の集まりから戻ってきたようだ。
「あれ?どうして前田君と足利さんが手を繋いでいるの?」
「いや、これはその...」
面倒くさい人に見られてしまった...。
「これはね〜私が前田君に恩賞を与えていたんだよ〜」
手を離した足利さんが京極さんに説明をした。
「なるほどね...前田君は女の子と手を繋ぐのが好きと...」
「誤解を招くからその言い方はやめてほしい」
京極さんは俺をスルーして続ける。
「とりあえず、生徒会に対しては私が頑張って交渉してみることにしたから楽しみにしててね。あと前田君、足利さんを狙うのはいいけど、傷つけたりしたら許さないからね。足利さんを敵に回したら大変なことになっちゃうからね!」
「大変なこと...?」
「そう!足利さんは源氏長者だからね。あっ源氏長者っていうのは、源氏の中でも嫡流の家を指す言葉よ。つまり、他の源氏も敵に回すことになるの。この表に書いてある人だと山名、新田、細川、斯波、畠山、今川さんが足利一門になるわね。」
京極さんが、ノートに指を差しながら言った。
「京極さん、今川さんはもういないよ〜」
「あっそういえばもう滅亡してたわね。」
京極さんの話を聞いて、俺はある疑問が浮かんだ。
「源氏って源って名字の人だけだと思ってたけど、源さんはどこいったんだ?」
「ああ、源さん(源頼朝の子孫)なら全員北条さんに殺されたから、今はもういないの。」
「マジかよ...」
「そのあと足利さんが北条一族(得宗家)を全員自殺に追い込んでいるから、北条さんもほとんど残ってないわ。」
「えっ?じゃあ俺も足利さんの機嫌を損ねたら消されるってこと?」
「も〜そんなわけないじゃん。今は昔と時代が違うんだからね〜」
足利さんは、俺に笑顔を向けた。
「ちなみに前田君に伝えておきたいことがあるんだけど、私の恩賞が欲しかったらいつでも言っていいからね〜」
「いや、俺は大したことしてないって」
足利さんは急に立ち上がると、俺の耳元に顔を近づけてきた。
「生徒会の問題を解決できたら、もっとすごいことしてあげるね〜」
「...っ!?」
俺は足利さんの言葉に動揺を隠せなかった。
「おおっ!足利さん攻めるねー!」
京極さんも足利さんの動きに目が離せないようだ。
「それじゃあ今後も頑張ろうね〜」
足利さんは平然とこちらを見つめながら言った。この日の昼休みは、俺にとって忘れられない時間となった。