第4話 校則騒動1
〜翌日〜
「お兄ちゃん、起きてー」
妹の夏希がいつものように起こしにくる。今回は太ももではなく尻を乗せて座ってきた。
「おい、俺を椅子にするな」
「お兄ちゃんってこういうプレイとか好きじゃないの?」
「俺はMじゃねえんだよ!」
「じゃあどんな起こされ方がいいの?お兄ちゃんにどこを押し付ければ喜ぶのか知りたいんだけど...」
「教えられるわけないだろ、なんでそんなに俺の性癖を知ろうとするんだよ」
俺は夏希をどかして朝の支度をした。
家を出て校門に着くと、玲那たちがいた。
「ん?あそこにいるのは玲那か、誰と話してるんだろう?」
「だから、これくらい許容範囲でしょ?」
「いけません。あなたたちが直すまでここは通しません。」
「生徒会長さんはウチらとやりあおうってつもりですか?こっちは3人いるんですよ。」
川口さんが生徒会長らしき人物にむかってガンを飛ばしている。だが向こうも負けていない。
「こちらも3人います。大人しくスカート丈を直せば通しますよ。」
隣にいた細川さんが言い放った。
「この領域に入りたければ、あなたたちが決められた格好で入るのは当然のことでしょう?」
会長の隣にいる先輩が決めポーズをしながら言った。ちなみに、なぜ先輩だとわかるのかというと、リボンの色が俺たちの学年と違うからだ。
どうやら、玲那たちは校則違反をしていて、生徒会長がそれを注意しているようだった。
「あっゆっきーじゃん!ちょっとこっちきて〜」
俺に気づいた玲那が手を振ってきた。
「玲那、一体何があったんだ?」
「それがさ、生徒会の3人があーしらのスカート丈が短いから直せって言ってくるの。特に会長さんがうるさくてさぁ。」
「会長さん?」
「私が生徒会長の月野朱莉です。」
「僕が副会長の早乙女綾だよ。」
「2年の前田幸晴です。」
会長と副会長が俺に向かって自己紹介をした。この2人と細川さんが生徒会メンバーなんだな。
「ねえ、そろそろ通してくれませんか?アタシらだって暇じゃないんです。」
小林さんが生徒会メンバーを見つめながら言った。
「でしたら早くスカート丈を直してください。」
細川さんが同じことをもう一度伝えてくる。
このままでは埒が開かない。一体どうすればいいのだろうか。
「ゆっきー、強行突破するよ!」
「え!?」
玲那が俺の手を掴んで走り出した。それに続いて小林さんと川口さんも走り出す。
「あっ待ってください!」
玲那は月野さんの言葉を無視して走り続けた。
〜教室〜
「やっと着いた!ここまでくればもう安心だね。」
「そ、そうだね」
「おはよう!」
「みんな随分急いでるね〜何かあったの?」
教室の扉を開けると、京極さんと足利さんが話しかけてきた。
「実はさ...」
俺はこれまでの状況を2人に話した。
「それは災難だったね〜」
「でも、権力者に歯向かうことができるのはとてもいいことだと思うよ。前田君も反骨精神を身につけたんだね。」
「いや俺はそんなつもりでやったんじゃ...」
「私も寺社仏閣には敬意なんて持ってないし、しきたりや道理なんてクソくらえだと思ってるから。」
京極さんはサラッととんでもないことを言い出した。
「京極さん、そういう話は口に出さないようにね。」
足利さんが京極さんの話しを止めた。
「おっとごめんなさい。いつもの癖が出ちゃってたわ。」
俺は今回の件で、目をつけられていないか不安になるのだった。
「ゆっきー安心して、生徒会に見つかってもあーしたちはゆっきーの味方だからね。」
玲那は微笑みながら言った。
「やっぱり2人って仲良いよね」
「ずっと手繋いでたし、愛の逃避行って感じだったよな」
「ちょっだからそんな関係じゃないって!」
小林さんと川口さんにからかわれて、玲那は慌てて俺から手を離した。
(玲那の手、暖かかったな)
そんなことを思いながら、俺は席に着いた。
〜1時間目〜
「今日は委員会決めをしたいと思います。最初に学級委員を決めたいので、誰かやりたい人はいますか?」
担任の先生が黒板に委員会の名前を書いて説明をした。
どうやらこの時間は授業時間を使って委員会決めをするようだ。でも学級委員やりたがる人ってあんまりいないよな...
「はい!私が学級委員やります!」
と思っていたら京極さんが手を上げていた。
「私が学級委員になって、このクラスを強くして、生徒会をぶっ壊せるくらいの勢いをもつ組織にしたいです!生徒会長は金持ちの財閥出身なので、大きな権力を持っています。ですがこちらには足利さんという権威があります!」
「え...?」
クラスのみんなが足利さんに注目した。
「足利家は昔、神と仏と皇帝と太陽の全ての力を持っている天皇という存在を打ち破っています!天皇が足利さんの持っていた官位を全て剥奪した上で討伐命令を出した時も、足利家は自らの武勇で全てをひっくり返して見せました。」
京極さんが足利さんの功績を語った。
「もし、生徒会が権力を振りかざすようになったとしたら、私たちは足利さんを擁立して対抗しましょう!」
「でもさ、そんな反発するような真似して大丈夫なの?」
「...下手したら、私たち全員が何かしらの処罰を下される可能性がある」
小林さんと川口さんが不安そうな声を上げた。
「安心して、足利さんはみんなを裏切るようなことは絶対にしないから!こういう逸話があるんだけど、1340年に私の先祖が生花を作ろうとして、家臣に命令してお寺に勝手に入って枝を盗んできたの。そしたら寺の人が怒って家臣を殴りつけちゃったの。私の先祖は怒り狂ってお寺を全焼させて仕返ししたんだけど、裁判沙汰になって島流しにされちゃったのよ。でも足利さんがすぐに駆けつけて島流しから救い出してくれたの。どう?すっごくいい話でしょ?」
「それって最初に手を出した京極さんが逆ギレしてるだけじゃん...」
玲那が正論を言い放つ。たが京極さんはそのまま続けた。
「という訳で、私が学級委員をやりたいというお気持ち表明でした!」
「えっと、京極さんはすごい熱意を持っていますね。他に学級委員をやりたい人はいますか?」
先生がみんなに聞いても何も反応がなかった。元々学級委員は面倒ごとが多いイメージがあるからやりたがらないのも当然だろう。
「では、学級委員は京極さんに決まりました。みんな拍手〜」
「みんなありがとう!」
京極さんは笑顔で手を振っていた。
「おいおい幸晴、これでよかったのか?」
神崎が俺に話しかけてくる。
「いや、俺も正しいとは思ってないけど...不安だよな」
足利さんの方を見ると、下を向いて俯いていた。