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第20話 看病

〜朝 教室〜


色々あった5月も終わり、今週から6月に突入した。6月は雨が多い上に祝日がないので気分が下がる人も多いのではないだろうか。


「ゆっきーおはよー」


席に着くと、玲那がいつものように挨拶してくれた。


「おはよう玲那」

「最近雨多いよね、テンション下がるわー」


玲那も同じことを考えていたようだ。


「濡れたら大変だよな」

「ん?ゆっきーもしかしてあーしが雨で濡れた姿想像しちゃってるの?」

「いやいやしてないって!」


玲那が微笑みながらからかってくる。そう言われると余計に意識してしまうじゃないか。


「前田君おはよ〜、今濡れ透けの話してたの〜?」


足利さんも挨拶をしてきた。


「足利さん、いや濡れたら大変っていう話をしているだけで、決して透けてる話をしてたわけじゃないよ」

「ゆっきー動揺しすぎでしょ」

「前田君も男の子だから意識しちゃうよね〜。私の先祖に仕えてた執事も濡れ透けが好きだったらしいし、別におかしいことじゃないと思うよ」


欲に正直すぎる執事だな。

そこで俺はあることに気づいた。


「あれ?今日は京極さんは一緒じゃないのか?」


俺の中で、足利さんと京極さんはいつも一緒にいるイメージだ。


「実は熱出しちゃって休んでるんだよね〜」

「え!?いつも元気なのに珍しいな」

「前田君、私からのお願いなんだけど京極さんのお見舞いに行ってくれない?」

「え?俺が?」

「京極さんはああ見えて寂しがり屋だからね〜、きっと喜んでくれると思うよ〜」

「本当か?」

「ゆっきー、行ってあげたほうがいいんじゃない?」


玲那も勧めてきた。


「京極さんは思想ネタが言えなくて辛いと思うし、次学校来た時にいつも以上に思想ネタを炸裂させてきそうだから」


確かに、それなら行ったほうがいいな。他の人に思想が飛び火したら大変なことになりそうだ。


「わかった、今日の帰りに寄って行くよ」

「ありがとう、あとで京極さんの家の場所教えるね〜」


俺は足利さんから京極さんの家の場所を教えてもらい、京極さんに今日俺がお見舞いに行くことをメッセージで伝えた。


〜放課後〜


「じゃあなー幸晴、無事に帰ってこいよ」


拓人が俺の無事を祈っていた。おそらく朝の会話を後ろの席で聞いていたのだろう。


「そんな大袈裟に言わなくても...」

「だって京極さんの家に行くんだろ?もしかしたら幸晴が左翼に目覚めちゃわないか不安なんだよ」

「いや心配するのそこかよ!」

「だが安心しろ、たとえ幸晴が左に寄ってしまったとしても俺たちは友達だからな」


拓人が俺の目を見て言う。よっぽど京極さんの思想が苦手なんだな。

その後、学校を出た俺は近くの薬局で風邪によさそうなものを買って京極さんの家へ向かった。


〜京極邸〜


「ここが京極さんの家だな」


俺は京極さんに電話してここまで来たことを伝えた。


『前田君、来てくれたんだー。家空いてるから入っちゃっていいよ』


京極さんと電話したまま部屋まで案内してもらった。部屋の襖を開けると、布団の中にいる京極さんを発見した。


「京極さん、大丈夫?」

「うん、何とか...」


京極さんはだいぶ弱っている感じだった。まだ熱があるのだろう。


「でも頭痛いし、なんかぼーっとするんだよね」


この様子なら、今までみたいな思想の押しつけをされる心配はなさそうだ。


「とりあえずここにゼリーとか置いておくから、あとで食べてね」

「前田君、ありがとう...あの、もう少しここにいてもらってもいいかな?」

「えっ?いいけど...何かしてほしいこととかあるのか?」


京極さんは布団から右手を出した。


「寂しいから、手...握っててほしいの」


予想外のお願いだった。


「そんなことでいいのか?てっきりいつもの思想ネタを聞いてほしいのかと...」


俺は不思議に思いながらも、京極さんの手を握った。


「もー前田君は私のことを何だと思ってるの...でも握ってくれてありがとう。こうしてると、何だか看取られてるみたいだね。」

「京極さんまだ若いでしょ...」


思ってたよりも心が弱まってるみたいだ。


「でもさ、人はいつかこの世から消えちゃうんだから若いとか関係ないと思うの」

「...」

「どうせ死ぬ時は一人で天に召されていくんだから、今だけはこうしていたい...」

「京極さん...」


俺は足利さんが言っていた、京極さんが寂しがりだという話が本当だったということを認識したのだった。


「前田君...改めて伝えたいことがあるんだけど、いつも私の話を聞いてくれてありがとうね。私って思想強いから、周りからはヤバい人扱いされることが多かったの。でも前田君はずっと付き添ってくれたから、本当に感謝してるよ。それとこれは断ってもいいんだけど、これからも私の思想聞いてくれる...?」


京極さんは俺の顔をじっと見つめていた。


「俺、歴史苦手だからあんまりついていけないと思うけど、今まで通りでいいなら全然大丈夫だよ」

「前田君...ありがとう。私今から寝るからもう帰っちゃっていいよ。」

「わかった、お大事にね」


この日、俺は京極さんの新しい一面を知ることができたのだった。


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