第18話 体育祭5
〜昼休み 体育館〜
午前の部が終わり、昼休憩の時間となった。
俺たちは体育館で弁当を食べることにした。両隣に体操服姿の美少女が座っているというシチュエーションなのに、あまり喜べなかった。
「先に京極さんから話していいよ」
玲那があぐらをかきながら京極さんに質問させる。俺の目線は玲那の太ももに吸い寄せられていた。
「私から聞きたいことはね...さっきの借り物競走のときに、前田君は足利さんを擁立してたでしょ?足利さんを擁立して権力を握りたかったの?」
どうしてそうなるんだ。
「それはただ、足利さん自身がお題だっただけだよ。『運ぶ』っていう指定があったんだし」
俺は借り物競走のルールを京極さんに話した。
「逆に足利さんを擁立してどうやって権力握るんだよ...」
「日本の政権は権威と権力が切り離されているから、足利さんという神輿を担ぐことによって、その下で実権を掌握する感じだよ」
「俺にそんな胆力あるわけないだろ...」
「でもトップに立つゆっきーはちょっと見てみたいかも...」
玲那は俺を何者だと思っているんだ。
「足利家を支えてきた人たちはたくさんいるんだけど、高師直、仁木頼章、細川清氏、京極高氏、細川頼之、細川勝元、畠山政長、斯波義廉、細川政元(
ほそかわ まさもと)、細川澄之、細川澄元、細川高国、細川晴元、六角定頼、細川氏綱、三好長慶、三好長逸、三好宗渭、岩成友通、織田信長が有名だよ」
京極さんが足利家を補佐してきた人たちを教えてくれた。俺が知ってるのは信長だけだった。
「信長って室町幕府滅ぼした人じゃなかったっけ?」
玲那が指摘してくる。
「最初だけは協力してたよ。でも途中から方向性の違いが出て決裂しちゃったんだよね」
京極さんが玲那の疑問に答えた。
「確認だけど、前田君は権力者になりたくて足利さんを擁立したわけじゃなかったんだね」
「まあそれであってるよ」
京極さんからの質問が終わり、玲那の番になった。
「あーしからの質問なんだけど、ゆっきーの借り物の題名って何だったの?」
「えっと、『闇を照らす存在』だったよ」
「そんなお題だったの!?」
お題を聞いた玲那が驚く。
「それなら足利さんが適任だね。足利家には神と仏と皇帝と太陽の全ての力を持つ天皇を打ち破る能力があるもんね」
「何で京極さんが自信満々に言うの?」
急に笑顔になる京極さんを見て、玲那が困惑する。
「だって先祖の主君なんだから堂々と言うべきでしょ?」
その主君を2回裏切った一族が言うのか...
「それに足利家は将軍でもあるし、公方、大樹、御所、日本国王みたいに色々な呼び方があるから、十分な権威があると思うよ。当時の武家の棟梁だからね」
足利家って少し前まで名前しか知らなかったけど、今回の俺の判断は間違っていなかったようだ。
「まあ無事に終わってよかったよ。あとは団体戦だけだし」
「団体戦って綱引きだったよね?」
玲那が聞いてくる。
「そうだよー、これで全部決まるから頑張ろうね!」
その後、昼食を食べ終えた俺たちは応援席に戻った。
〜応援席〜
綱引きは団体種目でトーナメント形式で行うことになっていた。
「みんな、綱引きは力こそが全てだから全力でやってね!」
京極さんがみんなに呼びかける。何故こんなにやる気満々なんだろうか。
そして1回戦の時間となり、俺たちはグラウンドの真ん中に移動した。
「私がスローガンを言って士気を上げるからね!」
「スローガンって何を言うんだ?」
俺は京極さんに質問した。
「造反有理、革命無罪って叫ぶよ。革命無罪っていうのは革命を起こすためなら犯罪だって合法になるっていう意味だよ」
何だか嫌な予感がした。
「あの、京極さん...流石にクラスのみんなに思想を主張するのはどうかと思うんだ」
「え?そうなの?いい作戦だと思ったんだけどなー」
京極さんは意外にも俺の意見を素直に受け入れてくれた。
「では1回戦を始めるので、両チームは綱を持ってください」
細川さんの指示で全員が綱を持つ。
「始め!」
パンッ!
ピストルの音が鳴り、俺たちは一斉に綱を引っ張った。
しかし、いくら引っ張っても綱は動かなかった。俺は踏ん張ろうと必死になるが、砂利に足を取られて滑ってしまった。
「しまった!」
「ゆっきー危ない!」
後ろにいた玲那が綱から手を離して俺の背中を支えた。玲那の胸が俺の背中に当たっていたのでドキドキしてしまう。
「ありがとう、玲那」
「ゆっきーが怪我でもしたら大変だからね」
玲那のまっすぐな瞳を見て、俺は頼もしさを感じた。
パンッ!
試合終了のピストルが鳴る。当然だが俺がコケたことによって俺たちのクラスは負けてしまった。
「負けちゃったね〜」
足利さんが残念そうに言うが、あまり深刻そうには見えなかった。
「また来年頑張ればいいでしょ!ゆっきー、今日はお疲れ!」
俺のミスで負けたのに玲那は全く気にしてなさそうな感じだった。
これで俺が出る種目は全て終了した。団体種目は点数が高いので、この敗北で俺たちは優勝を逃してしまった。だが、誰からも責められなかったのが不幸中の幸いだった。
「ねえ前田君、ちょっといいかな?」
グラウンドから応援席に戻る途中で京極さんが話しかけてくる。
「今年は負けちゃったけど、来年はきっと勝てると思うよ!私が優勝へ導いてみせるから!」
京極さんは自信満々に言う。
「一体どこからそんな自信が湧いてくるんだ?」
俺は京極さんに質問した。
「私の親戚に尼子晴久っていう出雲(現在の島根県)の戦国大名がいるんだけど、その人が一度大敗を喫してからの大逆転を見せてくれたの!」
また新しい人物が出てきたな。
「晴久は吉田郡山城の戦いで安芸(現在の広島県)の戦国大名である毛利元就相手に負けるんだけど、その後の月山富田城の戦いで逆転勝利を収めたの!だから親戚である私もその一連の流れを再現できると思っているよ!」
毛利元就は俺でも聞いたことがある。
「あとは前田君の存在が鍵になってきそうだね」
「俺が?」
「前田君は、名前に『晴』の字が入ってるから晴久と同じ偉業を成し遂げられると思うよ!」
「いや無理やりすぎるだろ。『晴』の字使ってる人なんてたくさんいるだろうし」
「ちなみに晴久の『晴』の字は室町幕府12代将軍の足利義晴からもらったものだよ」
「そこでも足利家が出てくるのか...」
相変わらず京極さんの発言には驚かされる。
「でもそれだけ使っている人が多いっていうことは縁起のいい字なんだろうね」
「...まあ悪い意味は無さそうだよな」
綱引き終了後、閉会式も終わり応援席のイスも教室へ戻した。




