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煽る気満々で言い放った私に怒りを露わにしたのは、目の前で肩を落としているイケメンではなく、それまで静かに私たちの愉快な会話に聞き入っていたはずの護衛の一人だった。


「下手に出ていればどこまでも無礼な!礼どころか謝罪まで強要するとは……ッ!本来なら、この方はお前なんか口も聞けないお方なのだぞ!?」


とうとう我慢の限界を超えたらしい。怒りに燃えた目でこちらを睨み、怒鳴りつけついでに剣を突きつけてきたのだ。


「生臭聖女め、いいか、このお方は……っ」

「よせ!」


もう一人の年嵩な方の護衛が、私に突きつけられた剣を奪い、暴走した若手を抑える。ちなみに私は自分自身に守護魔法をかけていたので傷一つ付いていない。風圧で若干スカートがめくれたくらいだ。でも誰も見てくれなかったので、ラッキースケベにもならなかった。


「お前の気持ちはわかる、だが落ち着け!」

「くっ、隊長……っ、俺は悔しくて……っ!」

「堪えろ!」

「ううっ」


なんだこいつら。

なんか前世のマンガとかでよく見たようなやり取りをしている護衛二人組を横目にチラリと見る。そのまま詳細を暴露してくれても構わないんだけど、ちゃんと黙るのねぇ、残念。まぁ、別にいい。本人に聞くだけだ。


「なによ、やっぱりお偉いお貴族様なのね?」

「……い、いや」

「まぁ髪の艶も肌の艶も良すぎるし、洋服はめちゃくちゃにお高そうな生地に細かい魔石まで縫い付けてるし、武器にも服にも盛りだくさんの加護魔法が付与されてるし、見れば分かるけどね」

「う……いや、まぁ、そうだな」


私の的確な審美眼と観察眼に恐れ入ったのか、男は一度否定しようとしたものの諦めたらしい。悔しげにこちらを睨んでくる。私はハハンと鼻で笑いながら男を見返した。


「で……なのになんで、こんな片田舎で死にかけてるのよ」


まるでイタズラをした悪餓鬼に反省を促す教師のように腕組みしながら「言いなさい」と促すと、イケメンは少し気まずそうに口を開いた。


「うっ……ちょっと、事情があって、……家から飛び出したのだ」

「は?家出?くはっ、バッカ〜!それで家臣クンを死なせかけたの?あまりにも馬鹿でウケる」

「やめろ女!アルベルト様は命を狙われたのだぞ!?仕方なかったのだ!」

「おいっ!」

「あら、お家騒動かぁ」


それでお名前はアルベルト様って言うのね?なんか聞いたことあるようなないような名前ねぇ。まぁよくある名前だしな。


「で、差し向けられた刺客にやられたわけでもなく、たまたま遭遇した魔狼(ワンちゃん)に殺されかけた、と。……運が悪いのねぇ」


しみじみと言うとイケメンは顔を赤くしながら表情を歪めている。随分と悔しそうだが反論出来ないようだ。やっぱり可愛いところがあるわね。そう素直な反応をされると、つい虐めたくなってしまうではないか。


「ふーん、情けなぁい」

「なに!?」


私がクスクス笑いながら言えば、若いだけあって血気盛んなイケメンはカッとなって顔を上げた。


「やられっぱなしで、勝ち目もないって言って逃げてきたってことでしょー?強そうな見た目して、軟弱なのね」

「そんな簡単な話ではないのだ!戦を起こすわけにはいかん!そうなれば、たくさんの弱き民が犠牲に……」

「なんで?」

「は?」


滔々と語ろうとするのを、私は小首を傾げて一言で止めた。


()()()()()()()()()、さっさと勝てばいいじゃない」

「そ、んな無茶苦茶な……出来る訳が……」

「だって、トップの首を獲れば戦はおしまいでしょ?教科書に書いてあったわ」

「……は?」


適当な発言だが、こちらの世界では少なくともその通りのはずだ。いくつかの戦争は国王の戦死や病死であっさり終結している。だって乙女ゲームの世界(この世界)に血生臭い戦争なんて似合わないもの。()()()()()()無駄な血が流れないようになっているのだ。

しかし目の前の人達は逆に、私を過激派だと捉えたらしい。


「く、首!?なんて過激な女だ!」

「なんでよー!正々堂々に拘るからダメなんじゃないの?暗殺でもなんでも、一人の首で終わるならソレで良いじゃない」

「そんな卑怯な真似をして、民草がついてくる訳がないだろうが!為政者が信頼を損なう真似をしてどうする!」

「え、理想論〜!そんなの説明の仕方次第でしょう?というか、平民はみんなイイヨって言うと思うわよ?」

「えっ!?そ、そうか?」


なにを物凄く意外なこと聞いた、みたいな顔をしているのよ。平民は自分の暮らしが維持出来るなら上がすげ変わっても全然気にしないわよ。むしろ改善するなら積極的に変更して欲しいと思うわ。


「お家騒動で領地が荒れたら、平民はたくさん死ぬのよ?トップの首一個で終わらせる方が良くない?それとも平民が死ぬのはどうでも良いって?命の重さは違いますってやつ?そりゃもちろんその通り、フゥ〜ッ!正論〜っ!」


適当なことを言いながら煽り立てると、褐色の肌をさらに濃く染めて、イケメンは美貌をぐしゃぐしゃに歪めながら喚いた。


「うるさぁああい!お前の話し方はイチイチ気に障る!やめろ!」

「そりゃあ神経逆撫でしようとしてるもの」

「なんでだよ!」

「だってアナタ、なんだかムカつくんだもの」

「はぁ!?なんだその理不尽な理由は!?」


おっしゃる通り、理不尽で申し訳ない。でも仕方ないのだ。だって。


「なんか、無性に虐めたくなるタイプなのよねぇ……?」

「はぁあああ!?」


なんとも言えずこのイケメン、生意気だった前世の弟に似ているのだ。今世でもこんなにムラムラと泣かせたくなる対象に出会うとは思わなかった。

そう、私には()()()()()()()()()()()()()()()という最悪の悪癖がある。今気がついたが、どうやらこの捩じくれた性癖は、私の魂に刻み込まれてるらしい。死んで生まれ変わっても全く変わっていなかった。残念だ。


「えへっ♡ごめんね♡」

「ぅぐっ」


テヘペロ、と古き良き美少女仕草をすると、イケメンはぐっと呻いてから押し黙った。今世は最強の美少女である私がすると、めちゃくちゃハマるのよね、このテヘペロ。前世でやったら死罪だったと思うけど。


「くそっ……だがまぁ、その通りか」

「へ?」


イケメンはなにやら腹を括ったように顔を上げると、なぜか挑むような目で私をまっすぐに見た。


「え?なに?」


私の疑問には答えず、そのまま視線は静かに主人を見守っている護衛二人に移り、そして地面に横たわったままの眠れる護衛クンをじっと見つめた。数秒の後、イケメンは顔を上げると妙に凛々しい表情で山の向こうを睨みつけた。


「おい、お前たち。……聞け」


低くよく響く声がその場を支配する。なんの魔法も使われていないのに、私ですら彼の声にうっかり囚われてしまった。


「ここに宣言する。大帝国第十八代皇太子アルベルトは、父バルトルト皇帝を斃し、帝位を簒奪することを決意した!」


…………はい?

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