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さて、ご想像の通り。

帝国に着くまでの道中も、帝都に上洛するまでの間も、帝城に着くまでの()()()の最中も、大っっっ変だった。





「お、果実酒か、気が利くな!」

「あーーっ、お待ちください!そんなに簡単に口にしては」


休息のために立ち寄った酒場で、給仕の娘に差し出されたグラスを躊躇いなく口にするアルベルト様を慌てて止める、が、間に合わない。


「ん?……ぐっ、ゴホッ」


アルベルト様の口から吐き出される大量の鮮血。


「ぎゃああああ血ぃ吐いたキモイッ!」

「殿下ぁああああーーーあ?」


悲鳴をあげて飛びのく情のない聖女と、号泣しながら飛びつく俺たち臣下三剣士。しかしアルベルト様はふらりと傾いだものの、結局血まみれの地べたに膝をつくことはなかった。それどころか、口元を真っ赤に染めながら顔をあげ、あっさりと笑った。


「あー驚いた」

「んもぉおおおコレ毒じゃん!飲んだらダメよ!?」


ぷんぷんと怒りながら、ユリア様がアルベルト様を叱りつける。そして嫌そうにアルベルト様の飲んでいたグラスを手元の焼き肉にひっくり返す。すると。


「う、……げ」


じゅわぁ、と嫌な音とともに、肉が溶けた。

これがアルベルト様の喉の中に流れ込んだのかと思うと、あまりの悍ましさに俺は改めて意識を失いそうだった。なんだこの殺傷能力の高い毒、蒸気だけで胃に穴が空きそう。


「さっさと血の掃除して!ご迷惑でしょ!」

「おおすまん」


しかし俺が吐き気を堪えている間に、アルベルト様はユリア様の叱咤に従って、右手を掲げた。指先から溢れる魔力が周囲に広がる。


「ほら、完璧だ」

「まぁまぁね。アルベルトもそこそこやるじゃない」


あっという間に周囲に一体に浄化魔法をかけたアルベルト様は、飛び散った血液と、ついでに埃やゴミを清掃してみせた。そしてユリア様の褒め言葉に機嫌良く笑って、ひょいと肩をすくめた。


「いやぁユリア、助かった。喉が焼けて死ぬかと思ったぞ」

「いや死にかけてたわよ普通に、アンタ今食道と胃に穴が空いてたからね?」

「もう塞いでくれたんだろ?」

「塞いだわよ塞がなきゃ死ぬでしょ」

「……え?」


あまりにもいつも通りの情景に、俺たち三人は固まっていた。

この一瞬で何があった?もしや悪い夢だったのか?

そんな現実逃避じみたことを考えてしまう俺たちの前で、アルベルト様は浄化し忘れたらしい真っ赤な口元のままで苛烈に笑う。怖い。もはや魔物のようだ。


「ってことで、コイツは暗殺者だな」

「そうね」


いつの間にやら拘束されて地べたに転がされていた娘を見下ろして、アルベルト様が言い切ると、ユリア様が当然のように返す。


「で、暗殺者は切るの?殺すのならば目の前でやらないで、癖で助けちゃうから」

「いや、コイツ使えそうだし洗脳して俺のものにしようかな」

「あー、確かに。毒の知識は欲しいわね、私もないし」

「何でそんな悪役みたいな台詞を!?」


思わず突っ込んでしまう。


何故この二人は、か弱そうか娘をわざわざ縛り付けて、グリグリと容赦なく踏んでるの?それ必要?休息を邪魔された腹立ちをその子にぶつけているだけでは?いやまぁ死にかけたと考えると妥当どころか穏当?ん?なんかもう分からないぞ?


「とりあえずこれでこの辺の敵は全部始末したかしら?」

「おそらくな」

「だから何なんですか、その悪役台詞!?」


あなたたち二人ともヒーローヒロイン側のはずですけど!?

あなたたちの言動のせいで周りがシンと静まり返っていて恐怖ですけど!?

全然ワクワクドキドキキャーキャーできる感じの絵面と音響じゃないんですけど!?


「じゃあ暫く安心ね。寝るから起こさないで。死んだら起こして」

「死ぬ前に起こさせてくれ」

「じゃあ私が起きるまで死なないようにしといて」

「善処する……あ、しまっ」


油断したアルベルト様が、足元の娘に長針を吹かれてくずおれる。きっと毒だ。


「アルベルト様に毒針に刺されたぁああああ!?」

「刺されてんじゃねぇよボケッ」


俺が泣きながら駆け寄ろうとした瞬間、ユリア様の手から光の扇……というかハリセンが飛んだ。光のハリセンはバシンッと音を立ててアルベルト様の頭を叩く。意識をなくしかけていたはずのアルベルト様は、つんのめった状態から二、三歩前にタタラを踏んだだけで、軽快に踏みとどまった。


「おぉ、助かった。油断した」

「油断しすぎなのよッ!何回死にかけたら気が済むの!いい加減にしろってのよ次に死にかけたら罰として私直々に半殺しにしてあげるからね!?」

「うーん、その小さな手で俺を殴るのか?攻撃系の魔法が不得意なユリアが?……それは俺にとって()()()()()()可能性があるな」


ニヤニヤしながら変態じみた発言をするアルベルト様に、ユリア様は真顔で淡々と言い切った。


「飲まず食わずでも死なない状態にして体内から水分と養分抜き取ってあげる」

「それはきつい、頼むやめてくれすまなかった、今後は気をつける」

「ろくろく睡眠も取れないのは本当に勘弁して欲しいのよ!睡眠不足はお肌の大敵なんだからね!?」


ひたすら死にかけるばかりのアルベルト様のせいで睡眠が足りていないユリア様は、本当に苛々している。バチバチと本来なら柔らかく輝くはずの光の魔力が魔力漏れを起こしているのだ。もう相当()()()()らしい。


「お前の肌は十分綺麗だぞ?」

「努力の成果なのよふざけんな!私のこの玉のような肌にシミやニキビが出来たらアンタのせいだからね!?」

「あ、あの喧嘩はやめてくださいませ……今日は必ずやユリア様以外のメンバーでアルベルト様の愚行を抑えてみせますので!」


俺は泣きながらユリア様に土下座した。足元の娘はもう意識を手放して白目を剥いているから心配の必要はない。ユリア様が的確に頸動脈を足で締めたからだ。……怖い。アルベルト様と喧嘩しながら、そんなことを片手間の足技でこなす、この聖女が怖い。ユリア様、シンプルに怖い。


「だからどうかその手の中の光の玉を戻してください!」


気づけばユリア様の手の中で光っていた光の玉。どんどん真っ白に輝きだすソレに本能的な恐怖を感じ、俺はあまりの眩しさに視力を失いかけながら捨て身で頼んだ。


「どうかお許し下さい!」

「お願いですユリア様ッ!」

「光が強すぎて、もう俺たちの目は焼けそうです!!」


他の護衛二人も必死にユリア様の足元に土下座して許しをこう。しかしアルベルト様は、愉快そうな笑い声ひとつで、俺達の捨て身の献身も簡単にふいにしてしまった。


「はっはっはっ、光魔力の塊を俺に投げようってのか!?さすがユリアは剛毅だなぁ!」

「黙れこのオタワケ脳筋皇太子がッ!花の乙女の貴重な睡眠を妨害する馬鹿は聖なる光に焼かれて死ねッ」

「光魔法で死ぬのは魔物だけだから俺は死なないなァ」

「知ってるわよ魔物よりもタチ悪いコイツもう嫌ッ!許されるなら聖魔法で神の名の下に滅したいっ」


確実に本気の声に、俺たち三人は本気で号泣しながらユリア様の膝に縋りついた。


「ユリア様やめてーー!!」

「悪夢のような帝国では貴重な人材なんです!」

「アルベルト様を殺さないでぇえええ」


なんなのこれ!?

二作目の(この)世界とこの二人、相性が悪すぎないか……!?



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