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41話 魔鉱産業


 さて、魔鉱産業についてより深い造詣を学びたいという理由で、私は再び黒百合商会へと足を運んでいた。


 アカネからは「まさか将来あそこに勤めるつもりですか!?敵対派閥間のキャラ同士の交流は確かに乙女ゲームあるあるですけど!」とか「一人でなんて危ないです!逆恨みされて監禁ルートとかヤンデレありのゲームだと鉄板ですよ……?」とよくわからない心配……心配?をされたが。


 見学のアポイントメントだけは予めとっていたが、私の名前はイェシルが以前言っていた通りありふれたものなのだろう。実際に受付で私の顔を見たものが三度見の後、待合で待つようにと告げて駆け出した。


 それから数分も立たぬ間に、数週間前にも耳にした駆け足の音と共に、目の前に影が現れる。


「これはこれハ、白聖人様!魔鉱産業の見学にいらっしゃるのでしたら私めの名前を出してくれれば良いものを!」


「お久しぶりです、マルグレリン様。此度は聖女の名代ではなく俺個人の来訪ですから責任者である貴殿のお手間を取らせるのもいかがと思いまして」


 表面上は和やかな歓談。一方で向こうは笑みの裏でこちらの意図を探ろうとしているのが見てとれた。


 商会からしたらアカネの風評を落とした、あるいは落ちそうになっている時にこちらを揺さぶり陥落させるのが目的だったはずだ。

 それが目論見が悉くくじかれた上で私が単独で乗り込んできた。後手を重ねている向こうからすれば焦るのも無理はない。


(まあ、そもそもバグの原因を探るという目的自体、余人には理解しがたいものだしね……)


《否定はしません》


 先日同様カバンにしまっているバラッドが囀った。


 目的はもちろんマルグレリンが受けているバグの要因探しだ。黒百合商会や商工推進派の面々の中に根幹の要因があるのなら、早期に対処しなければ将来的なアカネの動きに影響が出てもおかしくない。


 当のマルグレリンはと言えば、一瞬だけ周囲を睥睨してから咳払いと共に再びにこやかな笑みを見せている。


「失敬しました。それで、本日は魔鉱産業についてお話を知りたいということですネ?アテンドの者はおりますが、もし宜しければ私めも同席させていただいてモ?」


「マルグレリン様のご都合が合うのでしたら喜んで。俺としても商会幹部の方の知見を拝聴できるのはまたとない機会ですから」


「ありがとうございまス。本日のアテンドはラウディカが務めさせていただきますネ」


 その言葉と共に現れた男は、浅黒い肌と黒髪の男だ。日に焼けたとはまた異なる肌は異国の血が流れているのだろうか。

 そう考えていれば、カバンから無機質な歌声が流れてくる。アカネが先日バラッドに教えていた曲だ。


「……?……??」


 無論明らかにマルグレリンの挙動は不審になるが、浅黒い肌の男は意にも介さずに微笑みを浮かべて一礼をする。


「ご紹介に預かりましたラウディカです。本日は魔鉱産業についてご案内させていただきます」


「ご丁寧にありがとうございます。ヴァイスと申します。魔鉱石やそれに類する産業については何分不勉強なところもありますので、お手柔らかにお願いします」


 胸に手を当てて一礼を返せば、「それではこちらへ」と先導して歩みはじめた。

 その後を追いかけながら、先ほどの青い鳥の歌を思い出す。あれは予めバラッドと決めていた合図だ。


“商会内でマルグレリン以外のバグ発生者と思わしき存在を見つけたら歌を奏でるように。”

 カバンに入ったままの青い鳥は、外の光景を判別する前にその異様さに気がついたということになる。


 先導するラウディカと名乗った男をまじまじと見る。彼の特徴もまた、すでに聞き及んでいた特徴そっくりだった。ポールが酒の席で多くのことを訊かれ、感情を揺らされたという男と。


(まさかここに来た目的の一人が自ら来てくれるとはな)


 どうにかして会話の手段を作るべきかと思いながら、一先ず表の目的である魔鉱産業についての説明を聞くべつ、資料室へと向かう手筈となった──。



 ◇



「ですが、その場合鑑定から加工まで一挙に魔月の民が担うことになる。頭数の偏りと人的負担についてはどのようにお考えで?」


「それについてはすでに過去に魔月闇管理地区ルーメン・オーエン・ルナ在住者のリストを確保しており、彼らに対して職の斡旋と従事を行なっています。負担はないとは言いませんが……過去に受けていた所業に比べれば、まだ楽な方でしょう」


「成る程。……こちらは参考に教えていただければと思いますが、彼らへの褒賞はどれくらいでしょうか?これだけの綿密な作業を行うとあれば、それなりの対価を支払っているかと思いますが……」


「ハハハ、白聖人様は魔月の民へも慈悲深いのですネ」

「……あいにく従業員の皆様への給与体系については秘匿とさせていただいています。魔鉱産業は商会にとっても重要な者であり、万一にも引き抜きによる漏えいがあっては困りますからね」


 …………うーん。


 魔鉱産業についての概要と、それがもたらす技術革新については、正直私の想像を超える素晴らしさだ。

 何せ空を飛び人を乗せられるような機関すら作成できるということだ。それを発展させれば、グレイシウス皇国にどれだけの利益をもたらすかは想像に難くない。


 一方で魔鉱石の選別と加工については、現状魔月の民──ネグロと同じように魔力を持った人々の存在に依拠している。そして話を聞く限り、彼らの扱いが必ずしも良いとは言い切れない。


 魔月の民の待遇改善については()も以前より取り組んでいた施策だった。幾らかの策を打ち出しはしたものの、当時は彼らに対する偏見も未だ根強く、完全な改善までは果たせなかったのも事実。

 彼らの産業を通じて職を与えることによりその問題を解決できるのではないかという期待の一方、独占する能力の結果多くの皇民と軋轢が生まれないかという懸念もあった。


 …‥話を聞いている限り、そもそも十分な待遇を受けられているかが怪しい気もしてくるが。現状の在り方にいくつも指摘をしたい思いと、それをすべき時が今でないことへの歯痒さで胸が詰まる。



「失敬。不躾なことをお聞きしました。実加工はさておき、せめて選別だけでも魔月の民以外ができれば良いのでしょうが……まだそれらしい知見はないということですね?」


「はい。ワタシも歯痒くはあるのですガ、それらしい報告は未だ上がっておらず……」


 報告?その言葉に思わず首を傾げる。


「失敬ですがその指先の硬さと近くのものを見る時の癖、マルグレリン様も目利きに優れた方かと思いましたが」


「……!! っ、これはこれは……嬉しいことを仰りますネ。ですが今の私は彼らをまとめる側でス。表に出ては彼らの仕事を奪うことになりますヨ」


 指先と声が浮いたものの、指を横に振られてしまう。


(……確かマルグレリン自身はゲームに名前も何も出ていなかったのだったな)


 だとしたら本編との差異を彼から探るのは無理だ。

 ゲーム中に出てきた商会について、バラッドから聞いていたことを思い出す。


《──ゲームでも魔鉱産業は商会の要ですが、それだけで立ち行くものではありません。魔月の民たちや魔月闇管理地区ルーメン・オーエン・ルナ復活派の各領主との兼ね合いもありますから。

 ですので、他の製造業……特に布や鉱石類や、各地への輸出入業も幅広く手掛けています。》


 そのあと具体的な魔鉱石の年間算出量や加工にかかるコスト、各事業別の利益内訳についてを質問攻めにしてしまったのは少し可哀想だったか。

 とはいえ、そのおかげで本来あるべき世界よりも圧倒的に魔鉱産業の実績が高いことがわかる。バグの要因もここにあるのだろうか……?


「それにしても、ヴァイス殿は随分と博識でいらっしゃる。商売に携わっていないなどとても信じられません」


「いえいえ、俺の知識など表層をなぞるのが精一杯で。これだけ理解が及ぶのはマルグレリン様とウディカ殿のご説明が分かりやすいからですよ」


「まさか。今回は少々専門的な説明を入れさせていただきましたし、凡人が話を聞いたとしてもモノの半分も理解できないでしょう。マルグレリン様にも伺っておりましたが、その才能を商会(ここ)で活かすおつもりはありませんか?」


 その言葉と共に扉に鍵が掛けられる音が聞こえた。

 ……やれやれ、典型的な脅迫仕草だ。軽く肩をすくめると、表情の異なる笑みが重なった。


「……そうですね。その辺りも含めて詳しくお話をさせてもらいましょう」

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