THIRTYFIFTH:配信者二人
時は遡り少し前。
柊と雪国付近で別れた少し後。
「えーっと、繋がってる?じゃ、今日の配信いくよー。
あ、初見さん?こんちは、幸村です。ここでは恋する少年って名前でプレイしてます。
末永くよろしく。あ、レイレイさんスパチャ¥5000ありがとね」
適当に森をぶらつきながら配信。
「今日はまだ行けてないとこに行くか」
真上に矢を撃ち、最高高度で位置交換、そして空中で弓を構え、まだ探索できてない山に向かって矢を撃つ。
「あ、メリュウさん¥10000!多すぎじゃないですか?自分の為にも使ってくださいね?」
下方向に矢を撃ち、木に刺さった矢と位置交換して落下ダメージを無効化する。
ついでに降ってきた矢もキャッチ。
10秒ほど経った後、山に向かって撃った矢と位置交換。
「神業?いやいつもやってるし。本当の神業見たかったらチャンネルの動画欄から【自己最高神業集】っての見てね」
視聴者と会話しながら、「恋時雨」というおしゃれな名前の森を探索する。
「鳥型のモンスター多いね。ここってレアモンスターとかいる?」
流れるコメント欄をみてみると、ちらっと「怪鳥」という単語が見えた。
「怪鳥?」
詳しく聞くと、どうやら鳥の大型モンスター、「怪鳥エルクス」というモンスターがでるそうだ。
そいつの肉は旨く、飾り羽根は色々な武具や装飾品に使えるが、攻撃力が高く、且つ上空を取ることが多いので非常に倒しづらいらしい。
「僕HPに全然振ってないから喰らえば瞬殺だろうn…
コメント欄に「うしろ!」というコメントが大量に出る。
咄嗟にしゃがむと空気の斬撃が頭の上を駆け抜ける。
「あっぶな。コメ欄見てて気づかなかった。ありがと皆」
青い、二対の翼を持ち、三つの目を持つ鷹の様な巨大怪鳥。
多分エルクスという奴だろう。
遠距離攻撃撃ってくんのかい。
「レベルどのくらい?」
84、という数字がいくつか出る。
「じゃ、僕より7上か。うーん…5分で」
コメント欄が盛り上がる。
配信はつまんなくなりやすいから、サービスしなければ。
映像視点を少し離れた三人称視点に変更し、戦闘開始。
【怪鳥エルクス がスキル《狩鳥一刃》を使用】
先程の飛ぶ斬撃。ログは配信の邪魔だからオフにしとくか。
躱す。特段躱しにくい訳でもないが、地面の抉れ方から喰らえば即死級だろう。
小石を5つほど拾い、投げる。
「《位置交換》」
場所はエルクスの上。脳天に矢を一撃。
直後別の小石と場所を交換し、着地。
OVERCRITICALいかなかったということは頭蓋骨が硬いか脳が小さいか。
ゼロ距離射撃の貫通力を防ぐほどの防御力があるのか。
エルクスが広範囲斬撃。先程より威力は低いが躱しづらくなってる。
別の小石と位置交換し、回避しつつ攻撃を入れていく。
しばらく撃ち続けると、叫び声を上げ、第二形態。
目が赤く染まり、頭の飾り羽が三本に増える。
そして、こんどは突進攻撃。躱しつつ小石を拾い、ばらまく。
エルクスは四本の斬撃を放つ。威力は先程より高い。
「《貫嵐一矢》」
風属性の矢で相殺…しきれなかったがスピードが弱まったので、躱せる。
するとエルクスがまたも突進体制へ。すぐさま矢を構え、
「《分散矢》」
撃つ。
矢は空中で3本に分裂。
エルクスは学習したのか、更に高く舞い上がり、今度は風魔法を撃ってきた。
風に矢が逸らされ、変な方向へ行く。脳が小さい訳ではないらしい。
「ま、フェイクだけど。」
一瞬だけ先程の小石と交換。
エルクスがこちらを向いた瞬間にもう一度交換し、後ろを取る。
「《速射》」
エルクスは一瞬見失うも、すぐさまこちらに向き直す。
しかしそこにはもう僕は居ない。
場所はエルクスの背中の上。
「《滞空》」
3秒間滞空できるだけのスキルだが、十分。
「《分散矢》」
エルクスがこちらに気づき、こちらを向く。
完璧。
劈く悲鳴。
分裂した3本の矢が、3つの目を全て一撃で貫く。
「《位置交換》」
地上の小石と場所を交換し、カメラ目線で指を鳴らす。
同時に僕の後ろで矢が爆発。
ログをON。
【OVERCRITICAL! 怪鳥エルクス に81000のダメージ】
ちょっとかっこつけて呟く。
「4分15秒」
◆◇◆◇
【レベル100到達条件:夜魔子竜 の単独討伐】
【 成功 】
【詠唱を開始しなさい】
長かった…レベル100到達めんどくさすぎだろ…
まず「詠唱文」を4つ集め、更に素材を集め、そして召喚されるボスを討伐して、漸く。
配信中。コメント欄盛り上がってるな。
「よっしゃ。やっとレベル100だな」
眼の前に現れた、少し痛い詠唱文を読み上げる。
「〚魔剣士の誓 碧玉の雲は夜闇に吸われ 赤い月に照らされる 悠々剣に 滾るは魔力 其を繰る我も 又魔也 剣は己命を蝕みて 力は彼命を叩き斬る その道はただ 血海のみ〛」
【条件完全達成】
【レベルアップ 99 → 100】
\ピコン/
【ワールドイベント:現、人類最強 を強制受諾しました】
ひらりと、眼の前に金色に光るカードが出現。
―――――――――
このゲームは、リリース半年とそこそこ時間が経っているのに未発見要素が多いのはいくつかの理由がある。
一つは、話題になったタイミング。
このゲームが爆発的に売れ始めたのは約2ヶ月ほど前。それに対して俺が始めたのは5ヶ月前なのでそこそこのリードがある。
当時はマイナーなゲームだったので配信する気はなかったくらいだ。
花一郎…「恋する少年」の配信で大ヒットを起こし、配信を開始したが。
二つ目は、レベリングの大変さ。
大衆向けとは思えないレベルで、全体的に敵が強い。経験値高めなレアモンスターはいないことはないが、それでも「高め」程度。銀色のスライムの様な桁外れ経験値な奴は居ないため、真面目に努力するか一か八かでジャイアントキリングを狙うかくらいしかない。
三つ目は、移動の大変さ。
ワープ登録していない街へ行くには基本徒歩。
馬車も馬もあるが扱いが難しい。さらに道が必ずしも平らとも限らない上、普通に敵も出るので、初心者にはそもそも次の街へたどり着けないという人までいる。ソロでそれだとレベルを上げるしか無いため、ゲーム慣れしてない奴は諦めて別のゲームで特訓する奴も多い。
そして最後は、莫大な要素の多さ。
狂ってんのかと思うほどの要素の多さ。運営によると100を超える正ダンジョンに加え、生産され続ける簡易ダンジョン。サブストーリーも濃厚、大量かつ面白い。切なさあり、迫力あり、感動ありの、最早なんでもあり。
これまで70を超える隠し要素が発見されてきたが、個人で隠してる奴も加えればもっといるだろう。
「だからといってこれは…デカすぎだろ…」
\ピコン/
【称号:SKY WORLD を獲得した】
マップが…二倍に増えた…
雲の上の国。当然の様に上空には巨大な龍が泳ぎ、空中に川が流れ、翼の生えた住民が宙に浮かぶ家々の隙間を飛び回る。
配信も忘れてその美しい光景に呆気にとられていると、後ろから突然声。
『”転移者”最初の第一節到達者は君かな?』
【天神 に発見された】
驚いて振り返ると、誰も居ない。
混乱して正面に向き直すと眼の前にそれは居た。
翼が四対、手のひらサイズの小さな龍。
『しかも特異職かぁ。君、中々だね』
今度は金色の模様が入った白い鳥の姿に変化。
「…ここはどこなんだ?」
『うーん。その前に、敬語』
突如ガクっと視点が落ちる。
ふと足元を見ると、右足が消えていた。
『いつまで突っ立ってるのやら。神が眼の前にいるんだから跪きな』
剣に手を伸ばすと、今度は右手首が消えた。
どうやら勝てる相手ではないようだ。
『全く。まあいいか。約束を違える訳にはいかないしね』
「約束…ですか」
今度は大きな美しい蝶の姿になったそれが喋る。
『そ。太古の約束。詳しくは言えないけど、初めに第一節に達したものにこれをあげないといけない』
【天神祝酒「悠々と聳える大樹は月下日下に幾億年」 を獲得した】
名前長。
『我らが母の木の実からできた酒だ。人の身には過ぎた品だね』
「これは?」
『人が飲むと死ぬから。君用じゃなくて僕の下僕に渡してご覧。さらなる道が開けるだろうよ』
なんか重要そうな意味深セリフだらけだな。
『じゃ、僕はこれで。あ、第一節到達者は僕の街へ滞在する資格があるから、この街では好きにして良いよ。
ま、飛空できないとだいぶ不便だとは思うけど。地上に降りたきゃ飛び降りればリスポーン地点にワープするよ。また来たいならそのカード使いなね』
コメント欄は大騒ぎ。
こりゃすぐ情報伝わるな。
恋くんの位置交換は、アイテムに触れた後一定時間以内であることが条件。数は問わない。
扱いが難しく、戦闘中に使うときは特に交換対象の咄嗟の選択が難しいが、使いこなせたら最強級。




