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魔王城攻略  作者: 有為
3/5

決戦・追跡

 魔法陣の中央には、何かがいた。

「こんなところまでご苦労なこったのぉ」

 魔法陣の中央に現れた何かからは、老人のものと思われる、ずいぶんとしわがれた声がしてきた。性別はおそらく男。

「あなたがこの城の魔王ですか?」

 ミリアが丁寧に問いかけると、いまいちやる気の感じられない返答が返ってきた。

「難しい質問じゃのぉ」

 敵の全貌が明らかになると、僕は正直拍子抜けした。どこにでもいそうなじいさんが、黒いマントをかぶって無理にコスプレしているようにしか見えなかったからだ。確かにその何年も生きたことを示すしわや、曲がった背中は魔王っぽく見えなくもないが、何というか、強者のオーラがないというか、絶対にこの城の主って感じではなかった。

「しゃべっている癖に魔王でないわけあるか、寝言は寝て言えっ!」

 敵の姿を確認するなり、ドーザがおしゃべりは無用だとばかりに向かっていった。

 しかしいきなり戦闘態勢に入る覚悟ができていない僕が、ついぼやいてしまった。

「ってかいきなりそこらの部屋でボスに会うか?普通」

 しかし戦いはもう始まっていた。ドーザが一気に魔王との距離を詰めると、その巨大な斧を振りぬいた。敵はまったく余裕のないかわし方で、辛くも避けたものの、ドーザがすかさず追撃を加えた。敵は必死に避けたり、魔法で防いだりしていたが、やられるのは時間の問題だろう。どこからどう見ても悪役はドーザにしか見えなかった。

 僕の中で魔王のイメージが思いっきり壊れていった。なんか弱いぞ、この魔王。

「くっ、やりおるな。やはりまともに戦っては少々分が悪いようじゃ」

 そう言うなり、魔王は片手でポケットをまさぐると、何本もの怪しげな液体の入った瓶をつかみ、ドーザに向かって投げつけた。すぐにドーザは反応して、うまく斧ではじいたり、かわしたりして、液体に触れることはなかった。おそらくあの液は麻痺の呪文が付加されたアイテムだろう。触れたらミリアか僕が解毒しないといけないところだった。

 と僕がのんきに眺めているすきに、敵はドーザと距離をとることに成功し、呪文を唱え始めた。どうやらさっきの瓶はドーザと距離をとるための牽制だったらしい。

「code:6312b・光の壁よ、我に仇なす敵を防げ。code:9012a・見えざる道を作れcode:9745:d・定められし文様の下、世界を渡れ」

 すると部屋に最初からあった魔法陣が再び輝き始め、魔法の壁が敵を囲い、そして輝き始めた。

「しまった、二回も使えるのか、この魔法陣!」

 基本的に魔法陣は特定の用途のために作られ、、難しい魔法を完成させるためのものなので、この魔法陣の利用方法はおそらく最初と一緒、つまり転移系の魔法が発動するのだろう。

「くそっ、逃げられる!」

 しかし焦っていたのは僕だけで、ドーザは魔法陣を囲んでいる壁を破壊しようとしていたし、ミリアはなぜか余裕たっぷりの表情で、笑っていた。

 次の瞬間、

 ばちぃ

 と、激しい音と光を出して、なぜか魔法陣がはじけ飛んだ。

「こんなこともあろうかと思って、先に魔法陣は壊しておいたわ」

 ミリアがしてやったりといった感じで、説明してくれた。

 魔法陣の崩壊と同時に、壁も破壊されたため、魔王はひどくうろたえていた。

「まさか、いつの間にっ」

 言うが早いか、魔王はすぐさま別の行動に出た。頭の回転の速い魔王だな。

 敵はまたポケットからいろいろなものを取り出すと、なりふり構わず僕たち三人に投げつけてきた。どうやら相当切羽詰まっているらしい。

 見たことのないような色合いの液体が詰まった瓶やら、どう見てもたまたまポケットに入っていたようながらくたなど、得体の知れないものがたくさん飛んできた。

 なんか危なそうなものがかなり混じっていたので、僕たちは必死で避けた。

 そのすきに敵は僕たちに背を向けて走り出した。なんかワンパターンだな……。

 僕たちの後ろに入口があり、ざっと見たところ入口はこれしかなかったので油断していたのだが、どうやら反対側の壁に隠し扉があったようだ。魔王は必死の形相で扉を突き抜け、そのすぐ後ろにあった階段を上っていった。

「逃がすかっ」

 僕らもすぐさま追いかけた。もはや出し惜しみすることなく、全力で走ったが、疲れているせいか、あまり差が縮まらない。

「くそっ、あんな老いぼれにっ」

 ドーザが加速し、僕たちを突き放して追いかけていく。二階分くらい上がったあたりで階段は終わり、なんだかたくさん魔獣のいる部屋に来てしまった。

「くそっ、あと一歩で追い付くってのに」

 ドーザが向かってきた敵を次々と倒しながら、悪態をついた。

 僕たちもすぐに加勢し、目の前の敵だけ倒して再び魔王を追いかけた。部屋の扉をくぐり、魔王の姿を探し求めると、まだそんなに遠くに入っていないようだった。

 途中邪魔な敵を蹴散らしながら追っていたので、なかなか追いつかない。

 魔王が入って行った部屋に三人でなだれ込むと、いつの間にか魔王がいなくなっていた。

「くそっ、どこ行きやがった」

 ドーザが息を切らしながら悪態づいた。

「どう見ても扉は一つしかないように見えるのだけど、また隠し扉があるのかしら」

「とにかく他の出口を探そう。きっとまたおんなじような仕掛けだろうから」

 僕たちはすぐさま隠し扉の類を探し始めたが、いかんせん、部屋が広すぎる。

「ったく、面倒くせえことしやがって」

 ドーザが速攻で嫌になった。かくいう僕も焦っているせいか、作業に集中できない。

「code:9310b・封印せよ、扉は岩の如く、不動なる壁となれ」

 突然、ミリアが僕たちが入ってきた扉を封印して開かなくしてしまった。敵から逃げている時ならわかるけど、追っているときに使うような呪文じゃない。

「なんかいい方法でもあったの?」

 僕が期待して聞いた。

「あったわ。多分これで見つかると思うから、部屋の中央に集まって」

 僕たちはすぐに部屋の中央に集まった。すると、ミリアが魔法陣を敷いていたので(魔法で魔法陣を書いたため、魔法陣そのものは魔法の発動前から光り輝いていた)、僕たちは促されるままに魔法陣の中に入った。

「code:9113b・鍵を開けよ、制限を解け。code2409c・風よ激しく、思うがままに、すべて破壊せよ」

 なぜか風の系統の呪文でも高位の攻撃呪文を使ったので、僕らはいぶかしんだが、すぐに効果が出た。

 密室の状態で、魔法で空気が生成されたため、部屋の気圧が上がり、隅のほうにあった隠し扉が弾け飛んだのだった。

「おお、あんなところにありやがったかぁ」

 真っ先にドーザが駆け出した。

 僕らもすぐさまあとを追い、隠し扉に飛び込んだ。

 さすがに隠し扉の先だけあって、そこの通路には魔獣はいなかった。不経済なことに、うっすらとだが明かりがついていた。

 もうだいぶ放されたであろう距離を詰めるため、ドーザは僕らを待つことなく突っ走った。

 通路を抜け、魔獣のたくさんいる部屋に出て、急いでそいつらを叩き伏せて反対側の扉から通路に出たところで僕たちは立ち止った。どうやら魔王に逃げられたらしい。どこを見渡しても、魔王の姿は見当たらなかった。

「どうしよう?これじゃどこを探したものか、考え物だね」

 僕の言葉に、二人とも黙りこむ。

 そうやって考えこんでいる間にも、また魔獣が襲ってきた。僕らは疲れた体に鞭打って倒していくが、疲労は蓄積していくばかりだった。

「そろそろ限界っぽいよね……」

 僕がつぶやいたが、今度は二人とも同意見のようだ。

「よし、それならさっきの隠し通路に戻って休もうか」

 僕が言うと、二人はすぐに従ってくれた。

 通路に入り、扉をしっかり締めると、僕たちはゆっくり休むことができそうだった。一応警戒は怠らずに、ミリアを真ん中にして僕が扉を、ドーザが通路の先を見張っていたが、何も襲ってくる気配はなかった。

「どうやったら魔王を倒せるだろう」

「んなもんきまってるだろうが。首切り落としちまえばさすがの魔王だって生きちゃいられねえだろ」

「いや、そういうことじゃなくてさ」

「今度見つけた時にはしっかり三人で包囲したほうがいいわね」

「しかし転移魔法を使えたなんて、さっきの実力からは全く想像できないんだけどな。何者なんだ、あいつは」

「近接戦闘には向いていない魔法使いタイプかもしれないわよ。戦うときは変なことされる前に倒したほうがよさそうね」

「しかしどうやってあいつを見つけよう。もしかしたらここから逃げ出して別のところに城を構えるつもりかもしれないよ」

「そこまで弱気な魔王がいるとは思えねぇんだが」

 そんな感じで僕たちが小声で相談していると、いきなり城が震え始めた。

「え?地震?こんなときに??」

 僕がパニックになっていると、通路の壁が崩れ始めた。

「やばいっ、とりあえず通路から出るぞっ」

 ドーザの叫びに従って、僕たちはすぐに通路を出た。

 広い部屋に入って初めて気がついたのだが、崩れているのは壁だけで、天井は特に崩れている気配はなかった。僕たちはとりあえず部屋にいた数匹の魔獣を手早く始末して、壁から離れて安全を確保した。

 揺れはすぐに収まった。

 僕たちは少しずつ落ち着き始めた。ところが、

「ねぇ、あれは何?」

 ミリアの動揺した声で、初めて気がついた。

 壁の表面は崩れていたのに、どうやら壁が完全に崩れたわけではないようだった。何が言いたいのかというと、崩れた壁の跡には、無数の目玉がくっついた板がそそり立っていたのだ。

 僕の混乱が頂点に達したのを見計らったかのように、一つの壁モドキを覆っていた目玉たちがうごめき始めた。

 僕たちが必死に吐きそうなのを堪えていると、目玉が魔法陣のようなものを形作り始めた。

「なんかやばくね?」

「やばい……気がする」

「どうかしら……」

 あまりの気持ち悪さに僕たちの思考が正常に働かなくなっているうちに、それは完成し、輝き始めた。

すでに物語は中盤です。

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