魔王城侵入
巨木に背を預けて、僕らは一息ついていた。
その巨木の向こう側には、毒々しい気配を放っている城が見える。
あたりは常に暗雲がたれこめ、時折雷が鳴っていた。
雷に照らされたその城は、決して美しいお姫様が住んでいそうなお城ではなかった。そこにいるのは魔獣の中でも相当厄介な、言語を理解する魔獣。一般に「魔王」と呼ばれる奴であった。
「魔王」はたまにしか生まれない魔獣の一種で、そこらの脳みそのない魔獣とは違って集団で人間を襲ってきたりと、とにかく厄介な存在だ。
こいつを倒せば世間にもかなり認められるようになる。なんてったって、やつらは頭がいいだけでなく、その力も半端でないのが多いからだ。
「そろそろ行きましょうか」
そう言ってゆっくり立ち上がったのは、銀色の流れるような髪を持ち、身長も結構高い、凄腕の女魔法使い、回復魔法と攻撃魔法を使いこなす、ミリアだ。彼女は近接戦闘はできないのだけれども、魔法の腕は、世間でもかなり強いほうだと思う。このチームで一番の頭脳派でもあった。
「正面から突っ込むか?」
そしてこの超巨大な斧を振り回す大男こそ、我らがチーム最大の攻撃力を誇る、ドーザ。そのごつごつの筋肉と、ぼさぼさの髪、おおざっぱな作りの顔は、いかにも戦うために生まれたような外見だ。ミリアの最大魔法の威力よりはさすがに劣るけど、力技で彼に勝てる人はまずいない。ただ最大の難点は、いつも後先考えずに敵に突っ込むこと。作戦も何もあったものじゃない。
そして僕は、クルー。青っぽい色の目に、髪もやや青みがかっている。よく外見年齢が幼いといわれるのを、ひそかに気にしている。もしかしたらこのしゃべり方が悪いのかもしれないけど、これはなかなか変えづらい。一応魔法も使えるけど、普段は前衛として、ロングソードで戦っている。このロングソードは、切れ味抜群、そこらの武器屋じゃ絶対売っていない高級品。
僕の実力は……、剣技だけじゃドーザに勝てないし、魔法だけじゃミリアに勝てないけど、両方合わせたら、結構強い自信はある。もしかしたら三人の中で一番強いかもしれない。難点は、考えすぎること。らしい。
ちなみに僕たちはみんな18歳。同期で学校を卒業した仲間だから、仲は結構いいほうだと思う。
「たぶん正面以外に出入り口もないだろうから、正面から行こうか。いちいちぐるりと回ったところでまた魔獣に襲われるのがオチだし」
そしてなぜか僕がこのパーティのリーダーになってしまっている。僕はミリアに頼もうと思っていたのだが、ミリアもドーザも、僕を推薦してくれた。パーティ作ろうって言い出したのは僕だったから、断るに断れなくて、結局僕になってしまった。
正面にある門の近くまで来てから、僕らは近くの木に隠れた。
門番らしき魔獣が二匹、どっちも力の強い、オーガだった。
「私が一撃で倒すしかないかな?」
ミリアが確認をとってきた。僕らが軽くうなずくと、彼女は呪文の詠唱に入った。
「code:6306b・光の矢よ、疾く飛んで行け」
彼女の手から放たれた二筋の光が、気づかれるよりも早くオーガの心臓を貫いた。あいも変わらず恐ろしい精度だ。
魔法は、その種類や威力、属性によって特定のコードが決まっていて、それらをつなげたあとに、魔法のイメージを具体化するための言葉による呪文を唱えることによって発動することができる。
魔法使いは、最低でも自分の使う魔法のコードは覚えなければいけないから、けっこう大変だ。
僕らはすぐに門まで走っていって、最初に着いたドーザが、力で門をこじ開けた。絶対開かなさそうなかんぬきが掛かっていたのに、肉体強化の魔法を使ったとはいえ、恐ろしい力である。
中に入ると、城の入り口まで結構な距離があることが分かった。僕らは見つからないように祈りながら、全力で走った。すると入口のほうにも護衛のようなやつがいた。
「しまった!」
一番視力のいい僕が思わず叫んだ。そのせいで余計に僕らは目立ってしまった。
「ギャアァァ!」
入口にいたリザードマンらしきやつが奇声を上げた。おそらくこれが侵入者が来たという合図だったのだろう、なんだか城の中が騒がしくなった気がした。
「この野郎!」
ドーザが一気に加速した。こうなると僕らの足では追いつけない。リザードマン?たちも戦闘の構えに入った。が、ドーザがあっという間に蹴散らしてしまった。
僕らが息を切らせてたどり着いたころには、ドーザはすでに入口を開けようとしていた。
「はぁっ」
気合を入れてドーザが体当たりすると、かんぬきを掛けられていたらしい扉は無残にも破壊された。
その衝撃で扉のすぐ後ろに構えていた敵も吹き飛ばされた。
すぐに僕たちもドーザの後を追った。今度は完全な乱戦になった。四方から押し寄せる敵を、休みなくたたき切った。僕とドーザがひどい傷を負うたびに、ミリアが回復呪文を唱えた。僕も剣で戦いながら、同時に攻撃呪文を唱えた。
「code:0544c・炎の海を、我が手より解き放ち、敵を飲み込め」
そんなことを、何十分も続け、ようやく僕たちは敵を掃討した。そのころには、僕たちはボロボロ。魔法の節約のため、細かい傷は治していなかった。
「畜生が、こんなんじゃ魔王に会う前にぶっ倒れちまう」
ずっと重たい斧を振り回していたドーザも、かなり疲れているようだ。しかし休んでいては、また、敵が集まってくるかもしれない。
「仕方ないさ。とにかく少しでも早く魔王を見つけようよ。長期戦はこっちが不利になるだけだよ」
僕の提案に、皆頷いて、歩き始めた。とりあえず道がわからないので、端から順番に道を調べていった。
部屋を調べながら、僕は悩んでいた。
扉をあけるたびに魔獣が襲ってくるので、正直いうと僕らの疲労は激しかった。今この状態で魔王と戦っても、勝てるかどうかわからない。
一度引き返すべきだろうか?
そんなことを考えながらも、体は城の構造の把握に努めて休みなく働いていた。しかし三人とも疲労の色は隠せなかった。
リーダーであるがために、僕が決めなければいけない。二人の命を預かっている以上、安易な決定をするわけにはいけない。どうしよう?
思考が堂々巡りを始めた。気がつけばまったく同じことを考えているだけだった。これでは永久に答えが出ない。
「どうしたの」
不意にミリアが話しかけてきた。
「いや、本当にこのままいって大丈夫かなと思って……」
僕の答えは、尻つぼみになってしまっていた。
「なんだよ、んなもん、いちいち悩むだけ時間の無駄だろう。今更引き返したら、それこそ無駄に危険な目にあっただけで終わっちまうじゃねぇか」
そんな僕の悩みを、ドーザが吹き飛ばした。というより踏みにじった。
「それでいいのかな……?」
「よくなかったら誰がこんなこと言うかよ。悩む余裕あったら、なんか一発逆転の方法でも考えてくれや」
「そうよ、そんなこと考えていても、今更意味がないわ。今は先に進むことを考えましょう。いざとなったら、その時どうにかすればいいし」
「そっか……」
二人に励まされて、納得したかどうかとか関係なく、なんか考えているだけ無駄な気がしてきた。どっちみち二人は特攻する気満々だし。
しばらくあてずっぽうに扉を開けていくうちに、怪しい魔法陣が敷かれている部屋を見つけた。
「何だろう、この部屋……」
僕は呟いて、慎重に観察を始めた。
「これは転移系の魔法陣じゃない?」
ミリアがざっと見て予想を立てた。多分それで合っているんだろう。僕よりもミリアのほうがはるかに魔法関係の知識は深い。
僕らが休憩も兼ねながら魔法陣の細かいところまで観察していると、突然魔法陣が光り始めた。僕らはあわてて魔法陣から離れ、壁によった。
僕らの見守る中、魔法陣は強烈に光り輝いた。
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