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落ち葉のゆ

作者: 郁章
掲載日:2022/02/15

5才の陽太くんの家は都会に建つマンションの七階にあります。陽太くんは、お父さんに抱っこしてもらって、ベランダからの景色を眺めるのが大好きです。昼間は遠くのほうまでよく見えるし、夜は家の明かりがキラキラときらめく夜景がとってもきれいです。だから、陽太くんが一番好きな景色は、ベランダから見る景色です。


ある秋のことです。お母さんが病院に入院することになったので、陽太くんはお父さんの田舎へ一週間ほど行くことになりました。田舎には、おじいちゃんとおばあちゃんが住んでいます。でも、陽太くんは、あんまり行きたくありませんでした。お母さんと離れたくないし、ベランダの景色も見られなくなるからです。

「行きたくないよう」

と、駄々をこねる陽太くんに、お父さんは言いました。

「おじいちゃんが素敵なものを用意してくれているってさ」

「素敵なものって何だろう?」

陽太くんは素敵なものが何だか知りたかったので、ちょっとだけ田舎のおじいちゃんの家に行くことにしました。


おじいちゃんとおばあちゃんは、陽太くんを大歓迎してくれました。陽太くんは、たくさんのお菓子とジュースでおもてなしされました。

でも、陽太くんは、素敵なものが何だか知りたかったので、お菓子もジュースもちょっとだけ食べただけで、おじいちゃんを急かしました。

「おじいちゃん、早く素敵なものを見せてよ」

おじいちゃんは、

「そうか、そうか」

と、言って陽太くんを連れて庭に出ました。

おじいちゃんの家の庭にはたくさんの木が生えています。楓、桜、梅、藤、松・・・・・・。

陽太くんが名前を知らない木もたくさんあります。それらの木の葉は、赤や黄や茶色にに色づいて、庭のいたるところに落ちています。


おじいちゃんが案内してくれたのは、庭のすみの温室の隣でした。そこには大きな大きな四角い穴が掘ってあって、落ち葉がいっぱい入っていました。」

「おじいちゃん、これ何?」

「落ち葉のゆだよ。ちょっと時間が足りなくてね、これから素敵なものにするんだよ。はるくんも手伝っておくれ」

「ええ・・・・・・何をすればいいの?」

「落ち葉をいっぱい集めるんだよ」

その日から、さっそく落ち葉集めが始まりました。ほうきでさっさか集めて、両手で抱えて穴の中に落ち葉を落とします。何回も何回も。おじいちゃんと陽太くんだけじゃなくおばあちゃんもときどき手伝って、落ち葉を落としました。


六日目のことです。

「入ってみるかい」

おじいちゃんが言いました。

陽太くんは、

そっと落ち葉のゆに入ってみました。

落ち葉の上は、フカフカです。陽太くんは楽しくて、何度もジャンプしました。それから、寝転んでみました。

おじいちゃんも入ってきて、落ち葉を両手で持ち上げました。

「おじいちゃん、それ、どうするの?」

陽太くんが聞くと、

「こうするのさ」

と、言って手を離しました。ハラハラと落ち葉が降ってきます。何回かそれをくりかえすうちに、陽太くんは半分落ち葉に埋もれてしまいました。

「座ってごらん」

おじいちゃんに言われて、座ってみると、なんだかほかほかして、お風呂に入っているみたいな気分になりました。

すると、そこにサルがやって来ました。

「入れてくださいな」

「どうぞどうぞ」

おじいちゃんが言いました。陽太くんもあわてて、

「どうぞどうぞ」

と、言いました。

「ありがとう。ああ、気持ちいい」

サルが言いました。

しばらくすると、今度はイノシシがやって来ました。

「入れてくださいな」

「どうぞどうぞ」

陽太くんとおじいちゃんとサルが言いました。

「ありがとう。ああ、ごくらく、ごくらく。」

イノシシが嬉しそうに言いました。

また、しばらくすると、

「入れてくださいな」

今度は、タヌキが来ていいました。

「どうぞどうぞ」

陽太くんとおじいちゃんとサルとイノシシが言いました。

「ありがとう。ああ、しあわせだなあ」

タヌキが言いました。

またまた、しばらくすると、

「入れてくださいな」

シカでした。

陽太くんとおじいちゃんとサルとイノシシとタヌキは、

「どうぞどうぞ」

と言いました。

シカも

「ありがとう。ほっこり、ほっこり」

と、言いました。

みんなが気持ちよく落ち葉のゆに浸かっていると、

「わたしも入れてくださいな」

どこからか声が聞こえました。

「誰だろう?」

みんなが首を傾げていると、

もうすぐ沈みそうなお日さまでした。

陽太くんもサルもイノシシもタヌキもシカも、

「どうぞどうぞ」

と、言いました。

「ありがとう。」

お日さまが入ると、辺り一面がオレンジ色に染まりました。みんな、とってもいい気持ちでした。

「ああ、あったかいなあ」

お日さまが言いました。


空がゆっくりとうす闇色に変わりはじめたころでした。

「陽太くーん。おじいちゃーん。晩御飯ですよ」

おばあちゃんの声が聞こえました。

すると、サルもイノシシもタヌキもシカも、お日さまも、みんな

「そろそろ帰ります」

そう言って、それぞれの場所に帰って行きました。

陽太くんとおじいちゃんも、おばあちゃんが待っている家に入りました。

陽太くんは晩御飯を食べながら、今日あったことをおばあちゃんに話しました。おばあちゃんは、嬉しそうに陽太くんの話を聞いてくれました。


次の日は、陽太くんが都会の家に帰る日でした。

「もっとここにいたい」

陽太くんは思いましたが、お母さんが家で待っているので、帰ることにしました。帰り道に、車を運転しているお父さんがサルとイノシシとタヌキとシカを見つけて、教えてくれました。陽太くんは、みんなに手をふって、別れの挨拶をしました。


マンションの家に帰ると、病院から戻ってきたお母さんが家にいました。陽太くんはほっとしました。

お父さんが、陽太くんを抱っこして大好きなベランダの景色を見せてくれました。すると、ちょうどお日さまが沈むところでした。

「また落ち葉のゆに入らせてもらってもいいかい?」

お日さまが陽太くんに聞きました。

「いいよ」

そう言って、陽太くんは手をふりました。

「また明日」

お日さまがいいました。

「また明日」

陽太くんも言いました。


おしまい







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