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プロローグ「破滅の救世主」【2】

「このような男に世界の命運を委ねるとは……、人間どもはこの世界を滅ぼすつもりか」

 エルフの女王アーサリアは冷ややかに呟いた。

 氷でできた宮殿の奥、氷の台座に鎮座する頭より大きな水晶球には欲望のままに振る舞うレイの姿が映っている。女王は顔色一つ変えず、水晶球から視線を外した。途端に映像がかき消えて、遠見の宝珠はただの球状の鉱石に戻る。やはりあのような未熟な種に聖剣を託すべきではなかった。わらわも耄碌したものよ。アーサリアは胸中で自嘲した。

 傍らに控える護衛騎士が慎重に口を開く。

「では、魔王軍との同盟を……」

「いや、それはならぬ。我らエルフに未来はない。たとえ人間と魔族の双方が滅びたとしてもエルフが再びこの地で繁栄する日は二度と訪れぬ……」

 アーサリアは小声で答えながら、窓の外に視線を移した。そこには少女の姿があった。癖のないプラチナブロンドをなびかせ、一人で剣の稽古に励む、人間の少女だった。彼女はエルフから生まれてきた。彼女だけではない。この数百年、エルフ同士の交配で生まれてくるのは人間のみ。数千年の時を生きるエルフの寿命は千年も保たず、この非常時に際し、エルフは同族間での紛争を繰り返すようになった。それはエルフの歴史上初めてのことだった。寿命も精神も人間に近づきつつある。エルフは種の終焉を迎えつつあった。

「しかし」──護衛騎士が反論する。「エルフの中には魔王軍に下った者も少なからずおります。このままでは同族殺しは悪化する一方かと存じます」

「ランスロット。そなたはわらわに魔王軍との同盟を決断せよと申すか」

「滅相もございません。わたくしはただ、エルフ族の行く末と女王陛下のお心を案じているに過ぎません。出過ぎた真似をいたしました」

「……あくまでも己の意向は述べぬのだな。ならばわらわが命じてやろう。ランスロットよ、あの娘に聖剣術を伝授せよ」

 エルフの女王はプラチナブロンドの少女に視線を向けたまま言った。

「あの娘は確か……」

「アプサラだ。あの娘には聖剣の『影』を扱う力がある。聖剣術を体得すれば人間どもの選んだあの愚か者に比類する……、いや、それ以上の勇者となるであろう」

 アーサリアは振り返り、傍らのランスロットを見上げた。ランスロットはしばし無言でアプサラの姿を追っていたが、やがて得心が行ったように視線を主へと戻した。エルフの女王は淡い色の両目をすっと細めた。口元にかすかな笑みが浮かぶ。宮殿を形作る氷のような、冷たい笑顔だった。

「古来よりエルフは自然と調和し、世界と共に歩んできた。種の滅びが自然の理、世界の意思であるのなら喜んで従おう」

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