066-自由に遊ばせてあげなさい、それがゲームだ
本日は2話更新となっております。
まだ未読の方は前回も合わせてお楽しみください(今回は一話目がメインなので是非!)。
「ヤバくないですか?」
大画面のモニターに映る金髪の少女を見ながらひとりの男が呟く。
「アリシアはやっぱ強いなあ、名字付けてるだけのことあるよ」
「確かに『フェイタルエッジ』は強めに設定したスキルだけど、あれで綺麗に急所を狙えてるプレイヤースキルは凄いですよねえ~」
個人用の小さなモニターに映した栗色の髪の少女……アリシア・ブレイブハートが、鋭い剣捌きで自らを囲む男達を鼻歌混じりに断頭していく様を見ながら別の男達がわざと大き目な声で言う。
「あの、湖底の騎士惨殺されましたけど」
アリシアは凄いなあ、本当にすごい! 俺達がプレイヤーだったら絶対に近寄りたくないけどな、あはは! と騒ぐ男達へちらりと視線を一度やりつつも、すぐに再び金髪の少女……カナリアへと目を戻して男は言う。
「女の子ばっかり強くなって、なかなか良い男が出てこないわねえ」
「XXくんは頑張ってるわよ! アリシアを倒すために必死になってて……可愛いの!」
「ちょっと小さすぎるのよねえ……私としてはもう少し大人のほうが……」
別の個人用モニターに、片腕になりながらも自分よりも遥かにレベルの高いモンスターに勝利し、膝を折りながらも勝ち取った勝利に喜びの雄叫びを上げる少年を映しながら、アリシアを見ているグループとは別のグループである女達がこれまた大き目な声で言う。
「ヴィレインも問答無用で殺されて、呪いの装備5種揃っちゃいましたけど」
でもきっと、可愛い女の子に惹かれて良い男達も集まってくるわよ! そうに違いないわ、私たちの春はこれからね! と騒ぐ女達にもちらりと視線をやり、再びカナリアへと目を戻して男は言う。
「この『松竹梅を見る会』とかいう、おじいちゃんおばあちゃんの『連盟』さ、ギャグくさい外見の割に実力高ェよな」
「ったりめえだろ、そのジジババ共、どいつもこいつも高齢ゲーマーってのをウリにして動画投稿して老後の生活豊かにしてる連中だぞ。学生や社会人の何億倍遊ぶ時間あると思ってんだよ」
これまた別の個人用モニターに、完璧な連携で雪嵐の王虎を封殺する老いた男女三人組を映しながら、更に違うグループである男達が大き目な声で言う。
「田村主任! ヤバいですよ!!」
「うるせえ! 俺だってヤバいとは思ってるけど神崎さんが問題ないつってんだから問題ないんだよ!」
流石に我慢ならなかったのか、カナリアがヤバいと何度も口にした男は頭を抱えて『俺のコントロール下にある必要はないから問題ない』と繰り返し呟いていたオニキスアイズの開発部主任……田村の肩を揺すって叫ぶが、田村は田村で泣きそうな表情で叫んだ。
「そうだ! 神崎さんがオーケーつってるからいいんだよ! カナリアはあれでいいんだ! 俺は初日にレプスを落下死させた時点でヤバい終わったと思ってたけどな!」
「そうよ! 別にいいのよ神崎さんがオーケーって言ってるんだから! そもそも私言ったじゃない! レプスちゃん死なせるようにするのはいいけど『シュテレーの指輪』はドロップしないようにしようって! 世の中絶対指を切り落とす奴ひとりぐらいいるって!」
田村の絶叫を切っ掛けに、それぞれお気に入りのプレイヤーを見て現実から目を逸らしていた他のスタッフが口々に、神崎さんがオーケーって言ってるからオーケー! と言い出す。
それは現社長である神崎が作品制作において絶対的な権力を持っているクロムタスクでは全てを許す免罪符であった。
「っていうか、おかしいだろ……この子……目と鼻の先の利益のために容易くNPCぶっ殺すし、神崎さんの指示で一応用意していたとはいえ、誰もやらんと思ってた『フィオナ・セル』爆破で王都セントロンド吹き飛ばして第一回イベント優勝するし……」
「シヌレーンちゃん殺されちゃいましたね……うぅ……かわいそうに……」
「凄いよな……俺達がヤバいからやめようって言ったのに、神崎さんが『いや、フレーバー的に欲しい』って言って追加したアレなの総なめしてくんだもんな……」
遠い目で大画面のモニターを眺めるスタッフたち。
そこではカナリアは欲狩を呼び出して中に入ることで『水泳』のスキル無しでも水上の移動が可能であることを発見していて―――スタッフは思わず顔を青くした。
ヤバい……あのステータスであんなことされたらただの不沈艦だ……海を渡られてしまう……。
「い、今すぐ海になんかヤバいの追加しろ! デカくて不死身にしとけ! じゃないと殺されて終わりだ!」
「そんなの神崎さん許すかな!? あの人、殺せない存在作るのめっちゃ嫌がるじゃないですか!」
「海にはいにしえの時代より未だに生き続ける古き竜が存在している方がロマンあっていいじゃないんすか? ……とか言っとけ! 古き竜は神崎さんが本人が不死身って言いだしたんだから文句言われないだろ!」
田村が叫ぶ。
海だけは……海だけは渡らないでくれ! 頼む! そこから先は来年の夏のエリアなんだ……! 今年はその大陸で我慢していてくれ……! いろんな要素早めに解放するから……頼む……! 頼むよ……!
頭を抱えた田村の悲痛な祈り、それは神に届くのだろうか……それは誰にも分からなかった……。




