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061-二人で歩む街中 その1

「本当に僕でよかったんですか?」


 ……アリシア(一難)去ってまたカナリア(一難)

 クリムメイスがなぜか危険な少女達からの好感度を次々と稼いでしまい、徐々に死に至ろうとする中で『ギルドハウス』を後にしたダンゴが自分の隣を歩く少女、ウィンへと問う。


「うん! 折角見て回るなら、やっぱ誰かと一緒のがいいじゃん!」


 それに対し、ウィンは屈託のない笑みを浮かべて当たり前だと返す。

 まあ、確かに……ひとりで見て回るよりも、誰かと一緒のほうが楽しいだろう。

 だが、ダンゴが気にしているのはそこではない。


「えっと、そうじゃなくて。僕じゃなくても、カナリアさんとか、クリムメイスさんとか、なんならハイドラとか……」


 ようは我々が所属する『連盟』―――『クラシック・ブレイブス』には他にもメンバーがいるのだから、そっちの方がいいのではないか? と

 もっと直接的に言えば、異性の自分よりも、同性とのほうが気兼ねなく歩けて楽なのではないか、と……そう思ったのだ。

 ちなみに無論ウィンは既にダンゴを異性として認識していないのでそこは全く気にしていない。


「ちょっとー、なに? ダンゴさんってばウィンと歩くのヤなわけ~?」


 ウィンが不満そうに頬を膨らませながら言う。

 ダンゴとしては良かれと思って言ったことだったが、まあ、捉え方によってはそういう風にも取れてしまうかもしれない。


「あ、いや! 違うんです! 僕としては、そりゃあ、ウィンさんと一緒に歩けるならそれだけで嬉しいですけど……」


 気分を損ねたか、と思って慌ててダンゴは取り繕って、直後、失敗したと思った―――これではまるで口説いているみたいではないか。

 ……確かに、これでダンゴのことをウィンが異性として見ていたならば口説かれているようにも感じただろうが、残念ながら以下略である。


「でっしょー!? じゃあ問題なーし!」


 そんな心配をダンゴがしているなどは露ほども思わず、ごー、ごー! と拳を突き出しながら進むウィン。

 当の本人がそんな様子なので、ダンゴも、まあ、彼女がそういうなら別に気にしなくていいか、と結論付けた。

 『一緒に歩けるならそれだけで嬉しい』というのは、確かに取り繕うため咄嗟に口から出た言葉ではあったが、別に嘘ではない。

 なにせ、ウィンは明るくて楽しい子だ……それでいて『クラシック・ブレイブス』の中ではクセが大人しく、親しみやすい、一緒に歩いていて楽しいタイプの少女なのだから。


「あっ! ひとつだけ問題あったや、その『ウィンさん』ってのなんか固いからやめよ? ウィンでいいよ、ウィンで! みんなそう呼んでるし」

「ええっ!?」


 恐らくは『クラシック・ブレイブス』最後の良心であろうウィンが、急に歩みを止め、自分のことは呼び捨てにしろ……と、ダンゴに告げる。

 基本的に自分の妹以外には下手に出ることが多いダンゴはその提案に戸惑い、どうしたものかと思いながらも足を進めていると。

 ……動かない、ウィンが一歩も動かなくなってしまった、そして、ずっとニコニコとした表情でダンゴを見ている。


「ええっと……ウィンさん……?」

「ぶっぶー」


 もしや、と思って名前をいつも通り読んでみるが、ダンゴの想像通りウィンは手でバッテンを作るだけで一歩も動かない。

となれば、やはり―――。


「う、ウィン……」

「はい、オッケイ!」


 ―――仕方がないので呼び捨てでダンゴはその名を呼んでみることにした。

 結構な気恥ずかしさが彼を襲うが、ウィンは一切気にする様子がない……むしろ満足そうで、先程よりも足取りが軽い。

 一方、ダンゴは気恥ずかしさからやや足が重いように感じたが、このままでは置いて行かれてしまうので、抱えた恥ずかしさをそのままに少し駆け足でウィンの隣へと並ぶ。


「ウィンも、ダンゴさんのことダンくんって呼ぶね!」

「え、あ、はい……お願いします?」

「あはは、なにそれっ」


 ダンゴが隣に並ぶと、今度はウィンが自分もあだ名で呼ぶことに決めたと言う。

 短い人生の間ではあるが異性からここまでフレンドリーに触れられたことが無かったダンゴは、なんて返せばいいのか分からず……苦笑と共に疑問形の言葉を返し、そんなダンゴを見てウィンは楽しそうに笑った。

 なんとも楽しそうに明るい笑みを浮かべるウィン―――彼女のようなタイプの少女は、今までダンゴの周囲に居なかったタイプの少女だ。

 なにせ、ダンゴの周囲へと集まってくる女子といえば基本的に食虫植物みたいな女子ばかりであり、こういう明朗快活なタイプは寄ってこない……食虫植物みたいな女子たちが周囲を常に威嚇しているが故に。

 ちなみに、その食虫植物の頂点に立つ存在こそが彼の妹ことハイドラなのだが、それを彼は一切気付いていない。

 流石は食虫植物の頂点、獲物に本性を見抜かれないことにおいては他の追随を許さないようだ。


「あ、それとも……ンゴっちがいい?」

「ダンくんでお願いします」

「あはは! そっか!」


 食虫植物以外の植物を始めて目にしたようなダンゴの反応を見たからか、少しばかり固くなってしまった場の空気を解すべく、ウィンは恐らく一瞬考えて『無いな』と思ったほうのあだ名を神妙な面持ちで持ちだす。

 だが、それがあまりにも酷いあだ名だったのでダンゴは即座にきっぱりと断り―――そして、そんなダンゴの様子を見てウィンは再び声を上げて笑う。

 なんとも楽しそうに笑うウィンの姿を見て……本当に楽しそうに笑うんだな、と、ダンゴは思う。

 そして、そんなにも楽しそうに笑われると自分まで楽しくなってきてしまうな、とも。


「で、どこ行こっか! まだまだ情報が出回ってないから、なにがどこにあるかとか全然なんだよね~」

「僕の知り合いは生産職の方ばかりで、みんなまだハイラントですから。僕もなにも……」


 それはさておき、ふたりはお互いが特になんの情報も持っておらず、一切目的地がないことを再確認する……当然だろう、なにせ、第一回イベントで第二戦まで残ったプレイヤーたちはこの街『魔学都 オル・ウェズア』に関する情報を意図的に伏せて占有しているのだ。

 だが、彼らを誰も責めることはできない……オンラインゲームとは情報が全てであり、自らの優位性を保つためには隠せる情報は隠しとくのが普通なのだし。

 とはいえ、先日動画投稿サイトにアップロードされたハイドラの戦いぶりや、用いている装備を見た何人かは雪鹿の討伐までは成功しており、もう少し装備や戦術、パーティーメンバーなどを煮詰めればぽつぽつと攻略者が出てくるだろうという段階までは来ているので、その内秘匿された情報も徐々に明かされていくだろう……が、それでも、いま出てないものは出てないことには変わりない。


「それじゃあお互いが欲しいものに関係しそうな場所を巡ってみるとか? ウィンはINTで補正が乗る近接武器辺りが欲しいんだけど……」

「なら僕は『武器組み立て』に使えそうな部品とか、そういうのが欲しいですね」


 ウィンの提案に対し首を縦に振りながらダンゴが指差すのは、街の治安を守るために上空を巡回するドローンのような小型のゴーレムだ。

 ダンゴは考える……ゴーレムというものを作る『操魔術』は『武器組み立て』等の生産系のスキルに近いものではないのか? と、であれば、ああいったものを生成するのに使う部品や機構などは、そのまま自分も扱えるのではないか? と。


「ほほお~、また妹さんに武器作ってあげるわけだ」

「ええ。銀聖剣シルバーセイントは確かに良く出来た武器だけど、あくまで雪鹿を相手に考えた武器だから。もっといろんな所で使えるヤツ、考えてやらないと」


 自分の作った武器を握り、圧倒的ハンデをモノともせずにカナリアやクリムメイスと肩を並べていたハイドラを思い出しつつ、優しげな表情を浮かべるダンゴ。

 そんな彼の微笑みを見て、ウィンはにやりと怪しい笑みを浮かべ―――。


「普段こんないい身体貸してもらってるんだもんねえ~」

「ひゃあ! ちょっと!」


 ―――直後、背後から腰へと軽く抱き着いて肩に顎を乗せる……そのウィンの仕草は、もう完全に小鳥の妹こと、海月を相手にしている時のそれだった。

 普段こそ年上のカナリアとばかり一緒に行動しているから鳴りを潜めているが、本来ウィンはボディタッチが激しい少女なのだ、こと、特に同性に関しては。

 ちなみにダンゴは凡そ異性である。


「ちょっと! 近いですよっ!」

「んふふ~、意識しちゃう~?」

「な、もう……からかわないでくださいっ!」


 気恥ずかしさからか、頬を赤らめてウィンの手から逃れようとするダンゴだが、残念ながらダンゴのSTRはウィンと同じ0なので効果はなく……もぞもぞと居心地悪そうにもがくダンゴに対し、ニヤニヤとした笑みのままウィンは意地の悪い問いを飛ばすばかりだ。


「ハイドラも見てるんですからっ!」

「あっ、ごめん」

「えっ」


 クロムタスクの作り上げた恐ろしいほど高精度な疑似感触演算が伝えてくるウィンの身体の暖かさや、柔らかさに良くないものを感じたダンゴが、堪らず悲鳴に近い声で言うと、それを聞いてなにかをヤバいと感じたらしいウィンはパッと離れる。

 結果、そのあまりにも高速の離脱にダンゴは逆に驚いてしまった。


「あの、え? いや、さっきの、そこまで効果があるのおかしくない?」

「あはは、いやいや……あはは……ごめんごめん、悪ふざけが過ぎたね、さ、行こ?」

「いや、あの」

「行こう……」


 これ以上は追及しないでくれ、自分が軽率な行動をしてしまっただけだ……そう背中で語るウィンに戦慄しつつ、再びダンゴは駆け足で彼女の横に並んだ。

 いったい自分とハイドラはどういう目で見られているんだろう……顔が似すぎてたり、兄が妹に間違われたりすることはあれど、そこ以外はごく普通の兄妹のはずなのに……と、疑問に思いながら……。

 一方ウィンは自らの軽率な行為を酷く恥じ、そして明日の我が身を心配した。

 少なくともウィンはダンゴとハイドラは―――不用意にダンゴへと近付いた存在をハイドラが惨殺する程度の関係に見ていたが故に。


「んー……でも、武器も部品もどこで手に入るか分からないね……」

「普通に売ってる……って感じじゃないんですもんね、この街」


 たった一言で熱を帯びていた二人の雰囲気は一瞬で平常通りへと戻り―――ダンゴは、まあこれぐらいの雰囲気のが気負わなくていいか、と考えつつ、並ぶ建物に次々と目をやり……この街で自分達の望みのものを手に入れるのは案外大変そうだと考えた。

 なにせ、ここは『魔学都 オル・ウェズア』……中央に存在する『王立イリシオン学院』のためだけに作られた街であり、並ぶのは宿舎や実験棟、あるいは倉庫ばかりであり、一切商売っ気がないのだ。

 恐らくこの街を支える資金源は、その巨大な学院で丁寧に育成した魔術師そのものであり、商人や職人が自由に商売をするのには適していない。


「そうだ。街中で完結してそうなクエストをやりながら回ってみるのはどうかな?」

「……ああ! そっか、そういう手もあるのか。オンラインゲームだもんね、これ」


 ふと、以前ハイドラが口にしていたこと―――街の歩き方に困ったならば、とりあえずはNPCから受けられるクエストをやって回ってみるのが定石だということ―――をダンゴは思い出して、そのまま口にしたところウィンは目を丸くして驚いた。

 どうやらウィンの中にその発想は一切無かったらしい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 確かにウィンの見てる世界に人いないですもんね(笑)
[一言] 基本行動してた所なんて人が居ない(居たとしても直ぐに…うん。)って感じだったからね
[一言] まあ民度があれだしね
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