表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/162

049-兄+妹=美少女 その2

本日更新分であった48話が、少々アレだったお詫びとして本日は二話更新させて頂きます。

前話も修正済みですので、未読の方は合わせてお楽しみください。

「というか、そもそもこの装備はあいつの要望に沿って作っただけですっ!」


 ぷんぷん! という擬音が似合いそうな雰囲気で腕を組んでそっぽを向くダンゴ―――カナリアとウィンは無言で戦慄した。

 ……前回出会った時は(そもそも服装を気にする余裕が無かったからかもしれないが)ハイドラは別に露出が高い装備をしているわけではなかった、だのに、自分の兄も同じデータを使うことになった途端、ここまで挑発的な服装をし出すとは……。

 間違いない、自分の身体を操作する兄に極めて女性的な格好をさせることで、周囲からのそういった視線を集めて兄を孤立させると同時に、彼の男性としての尊厳を踏み躙り、より一層男としてのダンゴを独占するつもりなのだ……獅子身中の虫とは間違いなくこのことだろう。


「それに、僕がそういうことをしないようにって、視界の共有してあいつずっと監視してますから!」


 続くダンゴの言葉にふたりの戦慄具合は加速した。

 オニキスアイズは一部のアプリと連携することで、プレイヤーの視界を配信することが出来る―――シェミーやフレイのように無作為な相手にライブ配信することも、ダンゴの言うように個人向けに配信することも。

 だが、今回の場合、間違ってもダンゴ配信をハイドラが見る理由は違うだろう……恐らく、そういう方便で見て楽しんでいるに違いない、己の身体を使って女扱いされる兄の姿を。

 そしてまた、監視しているとすれば別のことを監視しているのだろう。

 例えば、兄が女性に気を持つようなことがないか、とか……。

 と、そこでふたりはふと気付く。

 そもそもダンゴがこのゲームを始めた理由は確か、彼が上級生の女子に振られたことをハイドラに話したからで……。


「やあですわねえもう、冗談ですわよ冗談! ねえ、ウィン!」

「あはは……ごめんね……」


 これ以上は危険だ。

 ハイドラはダンゴの視界を通してこちらを見ている……下手なことはしないほうがいいだろう。

 カナリアとウィンはそう判断し、この話題を終わらせることにした。

 ……このふたりは適切な距離をもって見ていれば仲睦まじくて愛らしい兄妹なのだから、適切な距離をもって見ておけばいい。


「それより。あなた、その装備……随分と羽振りが良いのではなくって? 自作とはいえ、素材やらお金やら、全く不要というわけではないのでしょう?」


 深淵を覗く一歩手前で引き返したカナリアが、先程までとは別の意味でダンゴの装備を見回しながら言う。

 ダンゴの身に纏う装備は、その扇情的なデザインにばかり目が行きがちだが、使われている素材はどれも安っぽい雰囲気はなく、所々に散りばめられた宝石等も中々に高価そうだ。

 それに、背中に背負っている大剣も長身ながら細身なフォルムは洗練された雰囲気があり、そもそもDEXばかりを高める必要がある生産職が背負って意味がある大剣という時点で(ただの飾りでないのであれば)普通の装備ではない。


「あっ! そう、そうなんですよ! そのことでカナリアさんにずっとお礼を言いたかったんです!」

「ほ?」


 自分の装備を興味深そうに見るカナリアに対し、ダンゴが花の咲いたような笑みを浮かべて急に感謝の言葉を口にした。

 非礼を詫びたほうがいい記憶こそあれど、礼を言われるようなことをした記憶が全くないカナリアが小首を傾げていると、ダンゴは自らの左手の薬指に装備している指輪……ピジョンルビーのような宝石がはめ込まれた、シンプルながらも美しいデザインをした指輪を嬉し気な表情で見せつけてきた。


「これですよ、これ! 反毒の指輪! 前に蛇殻次で頂いたボスドロップの指輪です!」

「ああー……」


 そういえばそんな綺麗なゴミ押し付けましたわね……とカナリアは思わず漏らしそうになったが、どうやらゴミではなかったらしいので口を噤む。

 効果は確か、毒状態の時に力を増す……とか、そういうふんわりした感じだったはずだが、たかが生産職が此処まで羽振りよくなるほど強力な装備だったのだろうか?


「毒に掛からないといけない手間はあるんですけど、凄いんですよ。なんと与ダメージ2倍です!」

「2倍!? 1.4倍とかじゃなくて!?」

「武器による攻撃だけですけどね……、でも、凄い、本当に凄いんです!」


 強力な装備だった。

 なんと雑に倍掛けである。

 思わず目を丸くしてダンゴの反毒の指輪を見たそのウィンも、晶精の錫杖によって自らの魔術に物理属性のダメージを付与できるので実質魔術のダメージを2倍にしているようなものだが、あくまでウィンの2倍は『物理属性』と『魔法属性』が同値での2倍だ―――実ダメージ的には相手の物理防御と属性防御の両方で減算されるので2倍とまでは行かない。

 一方で、ダンゴの攻撃は単純に与ダメージが2倍……ということは、もしもダンゴの武器が物理属性と魔法属性の2属性を持っていたとすれば、それがそれぞれ倍掛けとなるわけだ。

 この2倍という数字は字面よりも遥かに大きい。


「ちなみにそれはどうして左手の……しかも薬指に?」

「ああ、これですか。ある程度の男避けになるから、あいつがしとけって」

「ほーん」


 一方でカナリアはダンゴが指輪を装備している場所が気になって仕方がなかった。

 ダンゴはハイドラの言っていた理由を疑いもせずに鵜呑みにしているようだが、果たしてそれだけの理由でそこに装備されているのだろうか。

 カナリアとしてはもっと深い意味で……ダンゴが想定してないような理由でハイドラがそこに装備しているように思えてならないのだが。

 しかし、それ以上その秘密には触れないことにする……愚かな好奇は死で罰せられてしまうのだから。


「とにかく、この指輪のお陰で欲しい素材もある程度は手に入れられるし、とっても助かってるんです。この間なんて、グロウクロコダイルをソロで撃破したんですよ!」

「ええっ!? ソロで!? ダンゴさんが!?」


 カナリアが再びハイドラの底なしの恐怖に戦慄する中、そのハイドラに全幅の信頼を置いてしまっているらしい優しき兄、ダンゴが実に自慢気にグロウクロコダイルをソロで倒した、と口にすれば、当然ながらウィンが大仰に驚く。


「……そこまで驚かれると若干傷付くけど……確かに語弊があったかも。実際戦ったのは僕じゃなくてハイドラなんです」


 そのウィンの(ある種ここまでで一番酷い)リアクションを見て、若干言い辛そうにダンゴが自分の発言を訂正するとカナリアとウィンは、ああそれなら……と納得し、そんな様子のふたりを見てダンゴはより一層落ち込む。

 生産職がソロでグロウクロコダイルを撃破した、という場合ではなく、自分がソロでグロウクロコダイルを撃破した、という場合のが驚かれるぐらいには自分のプレイスキルは評価されていないことに改めて気付いてしまったのだ。


「そ、そんな落ち込まないでよ! 人には向き不向きがあるから……ほら! ダンゴさんもこんなに可愛い装備作ってるじゃん! 比べてみなよウィンの装備と! 雲泥の差だよ!」

「そうですか……?」


 目に見えてしょんぼりとしてしまったダンゴに対し、自分の失言が原因であると気付いたウィンが(割とフォローになっていない)励みの言葉を口にし……言われてダンゴはウィンと自分の装備を見比べてみた。

 ……確かに、ウィンの装備はニッチな需要が激しそうで一部では盛り上がるだろうが、一般的な感性からすれば『可愛い』からはかけ離れている。

 一方で自分の装備は少々露出が多い気もするが、まだ常識の範囲内だし普通に可愛いといえるだろう。


「確かに、結構可愛いかも」

「…………」

「…………」


 うんうんと頷きながらスカートを翻したり、ちょっとしたポーズを取り始めるダンゴ。

 装備が可愛いのを再認識しているのは分かるのだが、どうしてもウィンとカナリアはダンゴが自分自身の可愛さを再認識しているように見えてしまって罪悪感を覚える。

 そしてこの様子を裏で笑いながら見ているのであろうハイドラに恐怖する。

 ……兄を独占しようとする妹とは、容赦のないものよな……。


「うん、よし!」


 なにが『よし!』なのだろう……男としてそれでいいのかお前、と笑顔で頷くダンゴを見てカナリアとウィンは思ってしまうが口にはしない。

 そういう風に仕向けたのはそもそも自分や連れなのだし、またなにか言って変に落ち込まれても困るので、もう自信を取り戻してくれたのならなんでもいい。


「ところでウィンさんとカナリアさんはどうしてここに? お二人に限っては、雪原を攻略するってわけでもないでしょうし……」


 自分の(作った装備の)可愛らしさに気付いて、自分(の生産職としての腕前)に自信を取り戻したダンゴが小首を傾げ―――そういえばその雪原を攻略するために生産職を探していたんだった、とふたりは思い出す。

 ひとつの肉体に融合した挙句に謎の綺麗なゴミでパワーアップしていた双子のインパクトで完全に当初の目的を忘れ去っていた。


「それがそうでもないんだなあ……」

「まさしく雪原を攻略するために生産職を探していましたのよ」

「えっ!」


 当初の目的を思い出し、結果として苦し気な表情を浮かべるふたりを見てダンゴは思わず驚きの声をあげた。

 それはなにも、このふたりが雪原を攻略できていないのが意外だったのではない。

 第一回イベントで見事最終戦まで残ったこのふたりは雪原を攻略せずともオル・ウェズア、更にはその先である王都セントロンドへと行けるのだから、わざわざそんなクソエリアを攻略する必要がない。

 だのに、律義に攻略しようとしていることに驚いたのだ。


「っていうのもさ、なんでも雪原の奥にボスがいるらしいんだけど……そのボスの名前が『雪嵐(せつらん)王虎(おうこ)』って言うらしいじゃん」

「ええ、はい」


 目を丸くして驚く自分に対し、ウィンが告げたモンスターの名前……『雪嵐の王虎』、それに関する話はダンゴも聞いたことがあった。

 なにやら、雪鹿に勝てないのならば全速力で逃げ続けてオルウェズアまで辿り着けば良いと考えたプレイヤーが、雪原の中を全力疾走する作戦を幾度となく繰り返し、その結果として方角に関係なく雪原の中をある程度進むと『雪嵐の王虎』というボスモンスターが出現し、強制的に戦闘になるという仕様を判明させたらしいのだ。

 ……とはいえ、雪原のボスが『雪嵐の王虎』であることと、カナリア達が雪原を攻略することはイコールで簡単には結べない―――もしかすれば、カナリア達は全てのボスを律義に撃破しようとする真面目な性分なのかもしれないが……。


「この子、この間のイベントの報酬で『天術の導書』なるアイテムを入手しまして、それが特定の条件を達成すると、その条件に関連した特別なスキルノートを作り出せますの」

「そんで唯一いま載ってるのが『雪嵐の王虎の撃破』ってワケ。天術ってのは天候を操作する亜流の魔術らしくって、きっとあの雪原の物凄い攻撃デバフが入る吹雪を人為的に生み出せる凄い魔術が手に入るんじゃないかと思ってさ……」

「なるほど……それで雪原の攻略を……」


 ……いや、そういうタイプには思えないよなあ、と心の中で少しばかり失礼なことを考えたダンゴだったが、続いたカナリア達の言葉を聞いて、そんなにも大きなリターンがあるのならば攻略しようと考えるのも理解できる、と納得した。

 にしても特定の条件を満たした際に特別なスキルノートを生み出せる『導書』とは……、なんとも強力なアイテムだ―――あの地獄を勝ち抜いた三組に与えられる褒賞としては不足ないだろう。


「分かりました。そういうことなら僕達でよろしければお手伝いさせて頂きます。この指輪のお礼も兼ねて」

「本当ですの!」

「助かる~、マジでありがとね……」


 そして、その地獄を勝ち抜いたカナリア達が自分の力を欲してくれているのであれば、それは勿論是非手を貸したい、とダンゴは考えた。

 それに、そこいらの蛮族と化した戦闘職プレイヤー達ならばともかく、カナリアとウィンはそういった野蛮なプレイヤーではないのだし、手伝うことはやぶさかではない……というか、もしもついでに自分もオル・ウェズアへと行けるのだとすれば、願ったり叶ったりだ―――と、ダンゴはそこまで考えてふと気付く。

 ウィンが『天術の導書』を手に入れたのならば、横のカナリアはなにを手に入れたのだろう? と……。


「ところで、カナリアさんはなにを貰ったんですか?」

「はえ? わたくしはこれですわよ、『呪殺の首飾り』。身に着けている呪われた装備の数に応じてボーナスを得られますの」

「あっ、はい……」


 気になったので投げてみた問いに対する答えを聞いて、ダンゴは前言撤回をすることにした。

 ……ウィンはともかくカナリアは野蛮なプレイヤーだったかもしれない。

 というか、そもそも、彼女曰く装備している指輪2種はそれぞれレプスと、ナルアとその父親を殺害して手に入れたものだったはずだ。

 それに、思い返せばカナリアとウィンが最終戦で1位の成績を収められた理由はカナリアが王都セントロンドの地下にある施設かなにかを吹き飛ばし、王都セントロンドに生きる百万近い人命を消し炭にしたからではないか。

 なにが野蛮なプレイヤーではない、だ、野蛮なプレイヤーの権化みたいなものじゃないか。


「1種装備すると、呪われた装備ひとつにつき1度までHPが0になるのを回避。3種装備すると、呪われた装備ひとつにつき与ダメージの3%回復、5種装備すると、呪われた装備ひとつにつき与ダメージが2%上昇しますのよ!」


 やや引き気味のダンゴに全く気付かない様子で、青白く大きなダイヤモンドが美しい首飾りを見せびらかすカナリア……その特性はともかくとして、効果自体はかなり強力だ。

 現時点でカナリアが装備している呪われた装備は恐らく3種(呪殺の首飾りも間違いなくそうだろう、名前からして)であり、3度まで死亡をHP1で免れ、与ダメージの9%を吸収することが出来るのであれば……HPがそのままMPとなるカナリアのビルドと非常にマッチしている。

 ちなみに、ダンゴは知らなくて当然だが、カナリアはレプスを殺害した時に得ている称号『簒奪者』の効果であらゆる補助効果が5%加算されているので、与ダメージの9%ではなく24%を吸収する(3+5%)し、5種装備した暁には与ダメージが35%上昇する(こちらも勿論2+5%)。

 流石に倍率では反毒の指輪の+100%には及ばないが、無条件であることを考えれば破格の性能だ。


「というか、導書だけじゃなくて装備も候補にあったんですか?」

「いろいろあったよ! 武器とか、防具とか……」

「そういえば、生産職向けのスキルノートらしきものもいくつかありましたわね……」

「へえ、生産職向けの報酬もあるなら、次の機会は僕達も出てみようかな……」


 というか、あのルールで生産職向けの報酬を用意するとは……いったい運営はなにを考えているのだろう?

 いや、だが第一戦でアリシア・ブレイブハートが残酷な選別を行わず、第二戦で運よく勝ち組に入り、第三戦ではカナリアと同じように王都セントロンドを爆破すれば生産職であっても優勝は不可能ではなかったかもしれない……。

 もしかすれば、王都セントロンドが爆破可能という謎すぎる自由度は生産職のために用意された裏道だったのかもしれない……であれば、それに目ざとく気付いたカナリアの観察眼は素晴らしいものだ。

 などと考えてダンゴは目の前のテロリストを正当化し、それと今から行動を共にする自分のこともまた正当化する。

 ……ところで、報酬で配布された代物は(入手方法がどれだけ厳しいかは考慮しないとしても)通常時でも入手可能とは公式の発表だが、天候を操作する術を学べる『天術の導書』はともかく、『呪殺の首飾り』は……どれだけ残虐な行為に手を染めれば入手出来るのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 脳吸い編までは文句なしにおもしろかったんだけど、カナリアとウィン以外にもスポットライト当たるようになってから「主人公以外にもこんなにバリエーション豊かなキ印いるよ!」って感じでゴチャゴチャさ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ