047-厳父よりの令状
本日は2話更新となっております。
まだ未読の方は前回も合わせてお楽しみください(といっても掲示板回なので読まずとも影響はほぼありませんが)。
『可愛い女の子のトッププレイヤーがめっちゃ多くて天国かと思った 地獄だった #オニアイ #第一回イベント』
『第一戦で家族さん和気あいあいしてんのに第二戦で全員顔死んでて草 #オニアイ #第一回イベント』
『ウィンちゃんエロかったからなんでもいいや #オニアイ #第一回イベント』
男はコーヒーを啜りながら流れ行くタイムラインに目を通す―――検索しているハッシュタグは『#オニアイ』。
『#オニアイ』、それは近頃発売した新作VRMMOゲーム『オニキスアイズ』に対する呟きする際に使うことを公式が推奨しているハッシュタグだ。
「ふん、ミーハー共め……」
高速で流れていくタイムラインを眺めながら男は呟く……そんな彼は『オニキスアイズ』のプレイヤーではない。
別のVRMMO……ここ暫くの間、VRMMOというジャンルで覇権を握っている超大型VRMMOゲームのプレイヤーだ。
その圧倒的なクオリティと度重なるアップデートによって、完全に〝もう一つの世界〟と化したそのゲームに身を置く彼としては、クロムタスク等という一部の熱狂的なファンが騒がしいだけの中規模企業がリリースしたタイトルなど興味はないし、そちらに移住する気もない。
そもそも、彼らにはかの最強のメスガキこと『シルーナ』に大人の怖さを分からせてやる、という大いなる目的があるのだから、あの世界から逃げるわけにはいかない。
じゃあなぜ今こうしてオニキスアイズのことを検索しているのか……? それは知り合いから『オニキスアイズのトッププレイヤー妙に女の子多いよ』という話を聞いたので、その真偽を確かめるべく検索しているだけだ。
決してファンタジックな衣装に身を包んだ可愛い女の子が見たいとかそういう下心があるわけではない。
ただただ、単純に真実を探求しているに過ぎない……過ぎないのだ。
『カナリア様にテロリズムされてーなー俺もなー #オニアイ #オニアイ被虐勢』
『拙者、子供に戻ってアリシアに虐待されたい侍。義によって助太刀いたす!』
『やはり被虐か……いつ出発する? わたしも同行する #キリカ俺を殴連隊』
『愚連隊院』
……しかし、精神異常者しかいないのか? このゲームには。
VRMMOの中でメスガキに大人の怖さを教えたいと常日頃から考え続け、そのために廃人プレイと課金を惜しまない精神異常者の男が眉をひそめる。
いくら仮想現実でのキャラクターの皮を被ってるとはいえ、彼女たちは実在の女性だぞ? 恥ずかしくないのか……。
キャラクターの皮を被ってるとはいえ、実在の女性であるメスガキたちに大人の怖さを教えたいと常日頃から考える男はダメなものを見るような目でヤレヤレと頭を振った。
『アリシアは単純に高レベルで部位破壊特化ってのは分かったんだが、カナリアはなんだあれ? ダメージ無効化してね? #オニアイ』
『一応初級魔法の中に支払ったMP未満のダメージを無効化するやつがあるから、MP極振りかもしれん』
『その割には火力高いんだよな、あとなんかHP減ってる時あるし』
『MPをHPで代替えしてるとか? そんなもんあんのか?』
『横のウィンちゃんも相当意味不明だぞ、見た目通り』
『正直見た目以上に詠唱速度がおかしいよな』
『別に俺が味わったわけじゃないが、舌使いもおかしいらしいぜ』
『いや意味不明で草』
だが、勿論そんなわけはない……今回特に目立っていたカナリア、ウィンとアリシア・ブレイブハートについてきちんと考察するような声も多少はある。
VRMMOは極端なゲームバランスの方が好かれる場合が多いため、一騎当千をするプレイヤーが出現するのは珍しくはないが、今回のオニキスアイズはやたらとクセの強い女性プレイヤー……それも少女ばかりにそれが集中しているのも話題になった要因のひとつなのだろう……それが、男は気に食わない。
「くそっ……わからせてやりてえ……」
そういう人種を見ると無性に大人の怖さをわからせてやる……と迫りたくなるのが彼だったのだ―――今すぐに逮捕されたほうがいいかもしれない。
だが、男はあの世界から逃げるわけにはいかない……タイムラインに流れてくるカナリアやウィン、アリシア・ブレイブハートの活躍を収めた動画を繰り返して見つつ気持ちを落ち着ける。
俺は逃げるわけにはいかない、シルーナから―――あの人がわからせたいと熱望しているのだから。
動画を繰り返して見つつ気持ちを落ち着ける……いいアングルだ……ガキのくせに育った胸晒しやがって……。
「ん……? おっ! おお……!」
その時だった。
男のアカウントへと一通のダイレクトメッセージが届く……送り主は〝あの人〟。
男の所属する組織……『わからせてやりたいVRMMOのメスガキランキング総合wiki』を作成・管理する闇の組織こと『若螺旋流組』の実質上のリーダーであり、男が敬愛する相手……『スレッド・ワーカー』のものだ。
近頃はゲーム内でも姿を見せず、彼はそこはかとなく心配していただけに、こうして連絡が来たことを喜んだ―――。
『しばらくオニキスアイズの中でシルーナを探していたが、見つからなかった。しかし、次の標的は見つけたぞ。カナリアだ』
「なんと……!」
―――しかし、それも束の間の喜びだった。
どうも最近ログインしていないと思っていたが、どうやらオニキスアイズの世界へと誰にも告げずに渡っていたらしい。
急に無言でログインが途絶えたことに関し、他のメンツも心配していたりしたのを男は知っていたが、それでもスレッド・ワーカーの独断ともいえる行動を咎める気にはならなかった。
むしろ、賞賛に値すると考える。
なにせ、彼らの最大の標的である最強のメスガキ……シルーナは、ここ最近ぱったりとゲーム内に姿を見せず―――『受験のために勉学に身を打ち込み始めた説』『彼氏か彼女が出来たので俺らなんかと遊ぶ暇ない説』『単純にゲーム内に比肩する存在殆どおらんから別のゲームに移動した説』等々がまことしやかに囁かれていた。
だのに、彼らは真偽を確かめることなど一切せずに『くそっ、わからせてえ……』と呟きながら惰性で日々を過ごしていた。
……そう、スレッド・ワーカーを除いて。
そのメスガキへの恐ろしいまでの執念……流石は我らが糸紡ぎ。
各地に散らばるVRMMOメスガキわからせたいおじさんをひとつに手繰り寄せ、巨大なギルドとして纏め上げ、標的としているメスガキを見たもの全てが分かるように陳列する使いやすいwikiを作らせた恐るべき存在。
わからせおじさんの中のわからせおじさん、わからせおじさんの王だ。
厳父とも言えるだろう。
「あんたがそうしたいって言うんなら、俺達はそれに従うだけさ……」
にやり、と笑みを浮かべて男はコーヒーを飲み干す……そうとくれば『オニキスアイズ』を買わねばなるまい―――早速近場のゲーム・ショップへと電話を掛ける。
これこそは予約&直行……これにより向かった先に在庫が無くて無駄足を踏む確率をゼロへと出来る。
IQ200のショッピング・スキルだ。
『ハイ! こちらワンワンゲームスです! ハイ! お電話ありがとうございます! ニャア!』
1コールも待たずに電話持ちの猫獣人型メイドロボが応答する。
相変わらずのハイテンションさに男は軽く頭痛を覚えた。
「あ、オニキスアイズってゲーム買いたいんですけど……」
『アー! 申し訳ありません! そちら、大変人気の商品となっておりまして、入荷待ちとなりますハイ! 申し訳ありません! ニャア!』
「あ、はい……じゃあいいです。失礼します……」
『ゴメンナサイネー! ニャア!』
……売切れとるやんけ! オニキスアイズはゲーム本体ではなく、キャラクターの作成に使用するシリアルコードを販売する形式だが、サーバーへの負荷を考え、プレイヤー人口が増えすぎないようにシリアルコードの販売を店頭のみで行い、かつ販売数も制限している……大企業の送り出すVRMMOならばまずない事例だが、クロムタスク社は大規模とは言い難いゲーム会社であり、こういうことも仕方がない。
……くそっ! ざぁこ♡ざぁこ♡企業のよわよわぁ♡サーバーがよお! カナリア許せねえよ!
前髪すかすかぁ♡ な男は静かで理不尽な怒りを新たなメスガキへと燃やすのだった……。
この後、男は良くないとは分かりながらも定価の十倍の値段で販売している冒涜的転売屋から忌むべきシリアルコードを買い上げ、転売屋の私腹を肥やす羽目となった怒りを更にメスガキへと向ける理不尽わからせおじさんムーブを決め込んだのは言うまでもない。




