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023-プレイヤーキラーというもの その4

週間VRゲームランキングでも38位を頂いてました!

ありがとうございます!

「安心しろよ、お嬢さんたち。今日はもう店仕舞いだ、戦う気はねえよ」


 その声の主……艶やかな黒髪を肩程度で切り揃えてお揃いにしている二人組の少女に対し、ベロウは戦う意志がないことを伝え、スコーチもそれに対し無言で頷く。

 だが、ここでひとつ……ふたりは忘れていたことがあった。


「……あの人いま言ったぁ? ……黙って死ぬってぇ♥」

「そうは言ってないけど、殺したいんなら殺せばいいんじゃない? アタシは止めないから」


 ここはPK可能エリアで、このエリアに入ってくる人物は無害な生産職や、その護衛だけではなく、自分達と同じ人種……〝PKプレイヤー〟も、いるのだということを。


「なッ」


 しまった! ……そう思うよりも早く。

 たどたどしい喋り方をする方の少女が駆け出し、獲物を見つけた肉食獣のような速度でスコーチの眼前へと接近する。


「ナメんじゃねえ!」


 それに対しなんとか武器を構えるのが間に合ったスコーチが曲刀を縦に振る、それを少女は実に素早く、かつ小さく横に動いて回避し、続く横降りも潜り込むように動いて避ける。


「……デッドリぃ♥」


 そして、軽く飛び上がることで身長による彼我の高低差を潰し、曲刀を横に振ったことによって遮蔽物が無くなったスコーチの頭部へと流星のような鋭い拳を叩き込む。


「スコーチッ!」


 すれば、先程の戦闘でダメージを既に負っていたスコーチの頭部は一撃で弾け飛び、断末魔も無しに絶命してしまった。


「……(ツぅギ)ぃ♥」

「おい、待て! やめろ! やらねえつってんだろうが!」


 ぎ、ぎ、ぎ、なんて音が似合いそうな不気味な動きで自分へと振り向いた少女に対しベロウが叫ぶ―――が、意味はない。

 瞬時に距離を詰められ、押し倒され、馬乗りになられてしまう。


「……何発で死ぬかなぁ?」

「こ、こっちは無抵抗なんだぞ……!!」

「……あっそぉ♥」


 最後の足掻きでもあった無抵抗アピールも特に意味はなさず……馬乗りになった少女は、拳を土砂降りの雨のようにベロウの顔面へと降り注がせ始める。


「あのさぁ……」


 そんな様子を遠くから見守っていたもう一人の少女だったが、一切抵抗しなかったベロウに言いたいことがあるらしく、大きな溜め息を吐きながら近寄り、今にもHPが尽きようとするベロウの顔を見下ろした。


「バぁカね、無抵抗だからなんなの? PK可能エリアでなに言ってるわけ? アンタ」


 そして口にするのは先程ベロウがハイドラへと送った言葉そのままであり、全くもってその通りだった……のだが。

 しかし、ベロウやスコーチのような悪ぶりたいお年頃のおじさん達には、それなりの『悪党の美学』というものがあり、出来ればそれは世の中の悪党全ての共通認識であって欲しかったのだ……。


「……はぁ、楽しかったぁ♥」


 まあ、残念ながら、このスコーチとベロウを撲殺した少女―――全身をブルブルと震わせ、ベロウの頭を殴り潰した感触の余韻を余すことなく楽しむ少女―――は悪党ではなく外道なので、そんなものを持ち合わせていなかったようだが。


「……この男じゃないけど、キリカさ。無抵抗な相手なんか殴って楽しいの?」

「……楽しいよぉ? にひひっ♥」

「ああそう。悪趣味なこと……」


 そんな様子の幼馴染を、男二人を撲殺したというのに―――いや、だからこそか―――無邪気な子供のように笑う幼馴染……キリカを見ながらもう一人の少女、ルオナは思う。

 ……良かった、本当に良かった……この子が現実でボクサーになるのを止めてくれていて本当に良かった……と。

 マジで、本当に良かった……そんな道に進んだらいつか人を殺していたに違いない……マジでヤバいもん、暴力的すぎて……と。


「……リアルでは、やらないでよ?」


 そして一応釘を刺してしまう。

 いや、本当に勘弁して欲しい……こんなにも残虐なのはゲームの中だけであって欲しい、そう願う。


「……彼氏が浮気しなければね」


 不安そうな表情を浮かべるルオナへとキリカが、すん、と無表情になって言う。

 そうか……彼氏が浮気したら死ぬまで殴り続ける気なのか……彼氏か浮気相手のどちらかを……または両方を……。

 そんな感じだから、顔と身体だけ見て告白してきた男全員が一ヵ月もせずに逃げるんだろうな……と、ルオナは納得する―――いやでも別に浮気しなければいいだけなのにな、やっぱ男ってクソだわ。


「……ああ、もう。顔に血が付いてるじゃない」

「……ほんとぉ? 拭いて拭いて」


 そう再認識すると同時、ルオナはキリカの頬に彼女が先程殴り殺した男達の返り血が掛かっていることに気付き、やれやれといった様子で懐からハンカチを取り出す……すれば、キリカは目を閉じ、んーっ、と犬のように顔を差し出した。

 ……先程まで満面の笑みで男達に襲い掛かり殴り殺していた恐ろしい少女が、自分のことを完全に信じ切って無警戒な様子で可愛らしい顔を差し出している……それに、ルオナはなんとも妙な高揚感を覚えてしまう。


「…………」


 正直、ルオナは戸惑った。

 とある事情から久々に一緒に行動しているが、しばらく見ないうちに、昔はとろくさかっただけの野暮ったかった幼馴染が可愛らしく……それでいて(ちょっと過ぎるが)凛々しく成長していて……、でも、昔と変わらず自分のことは全面的に信頼してくれていて―――。


「わっ」


 ―――思わず固まるルオナだったが、突如としてキリカはその手からハンカチを奪い取ると、素早く距離を取って自分で顔をごしごしと拭き始めた。


「な、なにするのよ、急に! びっくりしたじゃない!」

「……性的な目で見られた気がしたから、……なんか」

「は、はぁあああああーーーーー!? 見てないわよ、誰が! アンタなんか……っていうか、女同士に性的もなんもないでしょ!」


 要約すれば、キス待ちみたいでエロいなあ……と内心思っていた後ろめたさもあって、不機嫌そうに声を荒げれば、ハンカチの向こう側から無表情な目でキリカに見られ、思わずルオナは早口気味に捲し立ててしまう。

 ……だが、まったくもって図星だった……完全に性的な目で見ていた……。

 が、それも仕方がないことだ。

 ルオナは久々に同じ学校になったと思ったら、すっかり美人に成長していて、しかも同級生の誰もがマドンナだと囃し立てる人気者にもなっていたキリカと、こうして久々に一緒の時間を過ごして気付いてしまったのだ。

 自分が今までどんな異性にも惹かれなかった理由を……。


「あ、アタシはねえ! その、隣を歩くアンタが、顔を血ィなんかで汚してたら、恥ずかしいから!」

「……カノジョ面しないでぇ?」

「してねえええええわよ! 常識的な観点から、アタシはぁっ」


 キリカがことごとく痛いところを突いてくる。

 まったくその通りだ、ルオナはキリカの隣に立っている時、第三者から見れば自分はキリカの彼女かなにかに見えるかもしれない……なんて妄想を延々延々延々し続けていた。

 だからこそ、顔を真っ赤にして、叫んで……でもそこで、急にテンションが下がって。

 ルオナは、はぁあああ……と大きな溜め息を吐きながらその場に座り込んでしまう。


「なにやってんだろぉ、アタシぃ……」


 そうして自己嫌悪に陥る。

 本当に……本当になにをやっているのだろう、自分は……。

 そんなルオナの前へとキリカが歩み寄り、ひったくったハンカチを差し出して返す。


「……素のルオナちゃんのが可愛いよぉ? ……やめたらぁ? ……無理に悪ぶるの」

「むりぃいいい……マジでキリカ眩しすぎてキャラ作ってないと隣歩けないもんぅぅぅ……」


 あと悪ぶるのやめろってんならもう少し真っ当なプレイして……とは思いつつもルオナは口には出さず、血でぐっしょりと汚れたハンカチを受け取って……捨てた。

 汚らわしい男の血が付いたハンカチなんて、例えキリカの肌に触れたものであっても気持ち悪くて使えない。

 ルオナは長い間、幼馴染のキリカへの想いを遠い地で拗らせ続けた結果、そういう少女になってしまった。


「……立って、……ほら、……探さなきゃ、……あの人」

「うん……」


 キリカに手を取られ、俯きながらもルオナは立ち上がる。

 ……ルオナは幼い日に、両親の仕事の都合で故郷を離れるという、この現代日本らしからぬ事情で転校するはめになったものの、7年の歳月を使ってようやっと故郷へと戻ってきた。

 そんな彼女が……、転校先で一切周囲に馴染めずに社交的な面を死なせた彼女が、自分とは違い、幼い頃とは打って変わって見知らぬ男を笑顔で殴り殺す程には社交的になってしまったキリカと、なぜ一緒にVRMMOで遊んでいるのか―――?


「……こっちかな」

「いやなんで分かるの? 好きな男の行先なんて……」


 ―――なぜなら、キリカは自分の片想いの相手がこのVRMMOで遊んでいるので、他の女に手出しをさせないために(そしてあわよくばモノにするために)ストーキングしようと考えたが、VRではなく現実で人やサンドバッグを相手に殺人パンチを繰り出して青春していたキリカはこういったものには疎く、逆に現実逃避からこういったものにズブズブとハマっていったルオナは詳しかったので、その力をキリカが頼ったからだ。

 ……というわけで、ルオナは自分が好意を寄せる相手が、自分以外の好意を寄せる相手(しかも男)とくっ付きたいがためにストーキングするのを手伝っているのだ。

 本当になにをやっているのだろう、自分は……。


「……匂いかな」

「えぇ……」


 知らず知らずのうちに、心の内に凄まじい感情の大嵐を作っているルオナの気持ちなど一切察していない(か、逆に察して脈無しなのを伝えたくて無視しているか)キリカがくんくんと鼻を鳴らしながら悍ましいことを言う。

 そんな彼女の様子に若干引きつつも、思わずルオナもスン……スン……と本人には聞こえないように静かに鼻をならしてキリカの匂いを追おうとしてみる。


 ……心地よい甘さの、花の香りがする気がする。

 これが霧花(きりか)の匂いなのかな……やっぱりお花の匂いなんだね……。


 満足そうにルオナは微笑むが、そんな匂いは一切存在していない……幻嗅である。

 ……ちなみにキリカは背後でルオナがクンクンクンクンしつこく鼻を鳴らして自分の匂いを探していることに気付いて、冗談でも言うんじゃなかった、とは思ったが、いろいろ面倒だったので特に反応はしないことにした。

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