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162/162

162-今一番竜都で信仰されてるって皆言ってた

「では、早速その『オサ』とやらに会いに行きましょう。いったいどれほどの道を歩まねば良いのか分からない以上、寄り道はするべきではありませんし」

「うん、そうだね。ただ……『オサ』の好感度は俺も上げれてないんだよな、ちょっと、相手がキツくて」


 こんなにも単純で分かり易いステージ、ハイラントよりも前に設置すればいいのに、と人間社会への理解への怠慢ゆえ自分以外に迷惑が掛からないとあらば対話より殺人・強奪を選ぶ蛮族少女ことカナリアが、ぱん、と手を合わせて微笑み、チョロいオタクであるアークソングは蛮性を有さぬ蛮族という悍ましい本性を見事に隠したカナリアの微笑みに見事騙され、はい可愛い、なんて考えつつ『オサ』が相手をして欲しくば狩ってこい、と言い放った相手を思い出し、思わず苦い顔をした。


「まあ。リィンのプロフェッショナルであるソウくんでも難しい相手ですの? 骨が折れそうですわね」

「折れるっていうか、溶かしてくるけどね……とりあえず『オサ』の家に行こう。クエスト受けてた方が対象のモンスターよくスポーンするし」


 『オサ』が求める首の持ち主―――『死竜 ヴァレンタイン』の放つ『高濃度アシッドブレス』の尋常ならざる火力を思い出しつつ、再び歩き出した自分の背を追いつつ、骨を溶かす? コーラみたいに? と、無垢なお嬢様らしく俗説を信じ切って真面目に言ってるのか、それとも俗説を信じ切ってる無垢なお嬢様風ボケなのか非常に判断に困る疑問を投げかけてきたカナリアへと、超臨界状態のコーラ並に溶かしてくるよ、と知ってても私生活に一切役立たない知識を活かした高校生らしい回答をアークソングは返す。

 結果、カナリアは数秒程掛けてアークソングの言葉を噛み砕き、そして小さく笑う……どうやら、ウケたらしかった。


「それにしても、野蛮な人種が巣食う未開拓の地と聞いていましたのに、思ったよりも文明の香りがする街並みですのね」


 どうしよう、昨日まで流石に顔が良くてもテロリストは無理だと思ってたけど、顔が良ければテロリストでもなんでもいいかもしれない俺、なんていう心の内が顔に出ないよう死力を尽くすアークソングに肩を並べつつ、カナリアがぐるりと一回転して周囲を眺めた後にそんなことを言うものだから、母方の祖父母が群馬県在住であり、盆などには群馬を訪れることもあるアークソングは少しばかり悲しい気持ちになってしまった―――や、野蛮な人種が巣食う未開拓の地だなんて……そうか、勇さんも群馬のことはそう捉えているんだな、なんて口の中だけで呟いて。

 まあ、実際のところカナリアは司書より聞いた話を誇張して口にしているだけだなのは言うまでもない……というか、カナリアはそもそも一言もリィンを群馬であるなどとは言っていないのだが。


「竜なんてものに囲まれたこの都が有する武装勢力……『聖竜騎士団』が有用なのは火を見るよりも明らかで、他国も『聖竜騎士団』の力を借りようと交流を積極的に行ってるし、そもそもリィンの人々も竜を狩るために新しい技術を積極的に取り入れるからね」

「『聖竜騎士団』……? なにか、どこかで聞いたことがあるような、ないような……」

「まあ、よくある名前だからね……」


 勝手にリィンを群馬と結び付けて自滅した浅はかな群馬の末裔ことアークソングだったが、カナリアの疑問に答える最中で『聖竜騎士団』……ゴアデスグリズリーを殺す為の生け贄にされた哀れな者達の名を不用意に出してしまい、思わず後悔すると同時に、あんな酷いことをした相手をほぼ忘れかけているらしいカナリアに恐怖した。

 まあ、そもそもカナリアの中ではあの一件は目の前の問題に対し、全うに取り組んだ結果起きた事象であり、印象的でもなんでもない一件だったので覚えていないのは仕方がないのだが……。

 ともかく、そんな他愛のない話をしながら二人は街の中央に位置する『オサ』の家へと足を運び、そこで門前払いを食らいつつ『討伐:死竜 ヴァレンタイン(サブクエスト)』を開始する。


「ヴァレンタインは、『墓連浅瀬(ぼれんあさせ)』っていうダンジョンを根城にしてるんだ。そこまで距離はないし、道中の敵も大したことないから、辿り着くだけなら簡単なんだけどね」

「むしろ、辿り着くのが簡単だからこそ、そこに待ち受けるボスは凶悪……というわけですわね?」

「ま、そういうことなんだよね」


 マップを開き、これから向かうダンジョンの位置をカナリアに教えながらアークソングは、デートをしているわりには一切遊びの無い効率的なプレイングをしていることに気付きかけたが、気付いてもどうしようもないので気付かなかったことにして、『墓連浅瀬』へと続くオープンエリア……グズグズと腐った木々が不自然に生い茂る、不気味極まりない森林地帯『腐食林道』へと足を踏み入れた。


「あら、PK可能エリア」

「ん? ああー、そういやそうだね。……まあ、俺以外のプレイヤーがいるとこ見たことないけど、ここ……」


 そもそも『オニキスアイズ』でデートってのが無理があるか、と、自分達が到達した雰囲気最悪のエリアを軽く見て結論に至ったアークソングの後に続いたカナリアが、視界の左下に表示された『PK可能エリア』の表記に少しばかり驚いた様子で呟き、アークソングはそういえばそうだった、と思いつつも、そもそも今の今まで『PK可能エリア』であることを意識する必要がなかったリィンの不人気っぷりに苦笑する。

 一体全体なぜここまでリィンは不人気なのだろう? まあ、確かに周囲に生息する竜達はどれもこれも異常にHPが多く、狩るのも一苦労で、だがその割に経験値は不味く、素材もリィン内でNPCの好感度を上げるか調理して食す程度しか使い道がないのだが……いやなんでこんなエリア作ったの? アークソングは当惑した。


「そんなにも未開拓であれば、なにかしら強力な装備とか眠ってそうですのに。勿体ないですわね」

「そうなんだよ! リィンにはきっと夢と浪漫が詰まってるはずなんだよ! なのに誰も来ないんだ! どうしてかなぁ!? 『フェイタルエッジ』!」


 だがカナリアが言う通り、そんな生き辛い場所にこそ強力な装備やスキルが眠っている、というのは本当のところだと思うし、そこを考えればもう少し人が来てもいいのではないか? なんて考えつつ、アークソングは唐突に襲い掛かってきた竜の首を『フェイタルエッジ』を用いて刎ね飛ばす。

 ……もう彼は大分長いことこのエリアで過ごしているため、すっかり忘れているが……このエリアは生き辛いなどというレベルではない。

 それこそ、他のエリアで強力な装備やスキルを手に入れてきたカナリアのようなプレイヤーでなければ歩くことすら困難だろうし、そもそもとして普通の頭をしていればハイラントからリィンへ繋がる道中に存在する竜達の余りの固さにUターンするはずであり、そこを無理矢理押し通ったアークソングが少々おかしいのだ。


「ちなみにソウくんはなにか見つけましたの?」

「あー、いいや、なにも……だってさ、俺、結局どの敵も『フェイタルエッジ』使って片付けるしかないからさ。囲まれたりしたら終わりだからね。そもそもちゃんと探索出来てないんだ」


 ごとり、と落ちた竜の首から角だけを切り落として回収しつつアークソングが少しばかり恥ずかしそうな笑みを浮かべる。

 アリシア・ブレイブハートが最たる使用者として有名なスキル『フェイタルエッジ』は、確かに対象のHPを無視して殺傷が可能な強力なスキルだが、効果的に相手を殺傷するためには首や頭、心臓部などの『生物的に考えれば失ったら死亡する部位』を狙う必要、そして狙った部位の耐久度を超える部位破壊ダメージを出す必要がある。

 そしてそれは、使用する相手が『人間(プレイヤー)』から乖離すればするだけ、狙った場所に当てる難易度は上がり、狙った部位を破壊するのに必要な部位破壊ダメージが増えるため、効果は薄れていく。

 故にアークソングはリィン周辺に広がるエリアの最深部はどこも到達することが出来ていなかった……竜という生物はどれも図体が大きく、肉体も頑強であり、今足元に転がっているラスティドラゴンのような下位のドラゴンならともかく、今回の討伐対象であるヴァレンタイン等には『フェイタルエッジ』は極めて効果が薄かったのだ。


「案外、『フェイタルエッジ』も使い辛いスキルなんですのね。アリシアさんを見ていると、そういうイメージはまったく抱かなかったのですけれど……」

「あれはアリシア神がおかしいんだよ。やたら弱点部位狙うの上手いし……」

「アリシア神?」


 あっ、と思った時には既にもう遅い。

 かつて対峙した少女のことを思い出しながら、意外そうな表情を浮かべたカナリアに対し、確かに『フェイタルエッジ』は強力無比なスキルだが、だとしてもアリシア・ブレイブハートの戦闘能力の高さは異常だ―――と、説明しようとして、ついアークソングは自らのアリシア・ブレイブハートへの信仰心の高さを晒してしまい、カナリアに不思議そうな顔をされてしまった。

 …………。

 ……。

 まずったな、殺戮の女神に浮気してることをテロリストに知られちまったぜ。


「俺、アリシアさんのこと信仰してるんだよね。このリィンとかいう街で唯一俺を救ってくれた存在だからさ」

「……そ、そう……」

「うん」


 最早、こうなっては開き直るしかない、と腹をくくって真顔で素直に自らが勇心(ゆうしん)教の信徒であることを告げたアークソングだったが、まあ、信仰は自由だしね……と小声で呟き、微妙な笑顔を浮かべたカナリアの反応を見て、事後対応を致命的に間違ったのだと悟る―――なんだったら胡散臭いお嬢様言葉すら使われなかったので、本気で、心の底から、引かれているのだろう。

 一方でカナリアは目の前の男が一介の少女を信仰してることに驚嘆と戸惑いを覚えつつ、いわゆるアイドルの追っかけって実際に見るとこんな感じなんだ、という感想を抱き、普通に気持ち悪いな、という感想をそこに追記する。

 ……言うまでも無いが、似たような感情を自分も既にアークソングより向けられていることをカナリアが察することは無かった。


「そ、それよりさ! 本当に強いね、ローランは!」


 先程よりも少しばかりカナリアが距離を取って歩きはじめたという事実に強烈な焦燥感を覚えつつ、とりあえず困った時は相手のペットを褒めよう、と判断したアークソングが先程からふたり目掛けて襲い掛かってくるラスティドラゴン達を片手間に虐殺し、ふたりの平和でギスギスしたデートを守り続けているローランへと目を向けた。

 すると、ローランは自分のことを話していると察したらしく、捕まえたラスティドラゴンの上顎と下顎を力任せに引き離して真っ二つに裂いて殺しながら、あーしのこと話してんの! とでも言いたげにぎゃあぎゃあと上機嫌に騒ぐ。

 デカい犬みたいなリアクションをしている割にやってることが凄惨すぎて、アークソングは若干離れている自分にまでぶっ掛かる返り血を浴びながら真顔になるしかなかった。


「正直わたくし、ローランは少々強すぎると思いますのよね……テストプレイとかしたのかしら?」

「……まあ、VRMMOなんてバランス度外視上等ゲーばっかだから―――」


 同じように返り血を浴びながらも、拭うことすらせずに顎に手を当てて思案顔を浮かべるカナリアへと、特に気にしなくていいよ、と言葉を続けようとしたアークソングだったが……そんな彼の言葉を遮るように、再びローランの騒々しい声が響く。

 しかし、それは先程の上機嫌そうなものとは違い、痛みを訴えるような悲痛な声だった。


「―――ローラン!?」

「……! あのヒットエフェクト、嘘だろ……」


 ふたりが反射的にローランへと視線をやれば、彼女は首に出来た紫色の怪しい燐光が纏わりつく大きな切り傷を手で抑えながら二歩、三歩と後退し、自らを傷付けた相手を鋭く睨み、咆哮していた。

 そして、アークソングはローランが負った傷に纏わりつく燐光を見て、驚愕せざるを得なかった。

 なにせ、その燐光をヒットエフェクトとして散らすスキルは強靭な生命力を持つドラゴンを狩る際に火力を出せないプレイヤーが必然と用いることになるスキルであり、アークソングも主力として用いている『フェイタルエッジ』のものであったのだ。

 つまり―――。


「おっと、失礼。もしかして君達のペットかなにかだったのかな?」


 ―――ローランとカナリアが視線を向ける先の攻撃主は間違いなくプレイヤーである。

 そうアークソングが結論を出すよりも早く、木の上に立つそのプレイヤー―――悍ましい竜を思わせる異様な仮面で顔を隠し、風変りな両刃剣を得物とする長身の女性プレイヤー―――は小首を傾げながら、珍しいドラゴンがいると思って攻撃してしまった、なんて続けた。


「……気にしないでくれ。まさか、こんな所に他のプレイヤーがいるなんて思わないだろうし」

「ハハッ、本当にね。ぼくも生きている相手に出くわしたのは初めてだよ」


 自分のペットを傷付けておいて完全に字面上でしかない謝罪をした彼女に対し、なにか思う所があったらしいカナリアが少しばかり不満そうな顔を見せたが、アークソングはカナリアがクロスボウを引き抜いて撃ち殺しに掛かる前に急いで攻撃主のプレイヤーと会話を始めた。

 ……まあ、なにもカナリアは少しでも気に食わないことがあれば殺しに掛かるような短気なプレイヤーではないし、そもそも本当に殺す気であれば会話中であろうが平気で攻撃するのだが。

 残念ながらそこまでカナリアのことを理解しているわけではないらしいアークソングは、とりあえず腕を組んで面白くなさそうに攻撃主へとじとりとした視線を向けているカナリアを見て、自分のナイスプレイングで不要な戦闘を回避できた……と思い込み、安堵―――。


「それじゃあ、派手に殺してあげるから。存分に逝っちゃってよね」

「え……」

「っ! ローラン、魔力熱線!」


 ―――してしまった瞬間。

 アークソングの予想を容易く裏切り、なにをどう聞いても敵意以外のものを感じさせない台詞と共に攻撃主が木の上から流れるように地面に降り立ち、どういったことかこういった荒事に巻き込まれることが多く、場慣れしているカナリアが即座にローランへと攻撃指示を出しつつ唐突な展開に固まるアークソングを庇うように前に出た。

次回更新については活動報告をご覧ください。

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