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140-ゴーストシルエット その2

()姿(ウア)()()からには絶対(エッアイ)に、殺す(オォフ)!」


 口が耳まで裂けて全ての歯が肉を噛み裂く鋭い犬歯となった為、非常に舌っ足らずな言葉でフレイが叫び、今にも襲い掛かって来そうなフレイを迎え撃つべくクリムメイスが怨喰の大盾を構えながら前へと出る。


「ようやく醜い本性に似合った姿になったな、化け物が!」

「おいおい酷い言い草だな! そんな嫌わないでくれよ、悲しくって泣いちまうぜ……!」


 クリムメイスに(彼女にしてはご尤もな)罵倒を浴びせられたシェミーは嘲笑だけを返すと呼び出した怪馬に跨り、長槍を構え、フレイを迎え撃たんと前に出たクリムメイスへと向けて突撃を開始し、フレイも咆哮と共にそれに続く。


「『()ィアー()()ャー()』ッ!」

「『アサルトチャージ』!」


 徐々に加速し、直線的な動きでクリムメイス―――ひいては、その背後のカナリアまでも―――をはね飛ばさんとするシェミーと、それとは対照的に『獣血』によって強化された脚力を十全に活かして稲妻のように不規則で読み辛い挙動を見せるフレイ。

 先程までは互いに一対一の状態に持ち込み各個撃破を狙っていたようだったが、今度は直線的ながら驚異的な速度を誇るシェミーと、その脚力により自由自在な動きが可能であるフレイで連携してカナリアとクリムメイスを仕留めるらしい。


「カナリア、あれは……」

「真っ直ぐ突っ込んでくるとはいえ、流石に大弓は間に合いませんわ……ねっ!」


 クリムメイスは真っ直ぐに突っ込んでくるシェミーを指差しながらカナリアへと視線を向けたが、カナリアは即座に殺爪弓による攻撃は間に合わないと察してダスクボウを放つ―――が、当然ながらシェミーが持つ大盾で防がれてしまう。

 というか、そもそもとしてカナリアはシェミーではなく、彼が騎乗している怪馬を狙ったのだが……どうにも怪馬は特定の攻撃以外を透過させてしまう性質を持つようだった。


「らァッ! 防げるかァ!?」

「『ヘヴィガード』……ぉおっ!?」

「きゃあっ!」


 そうこうしている間にシェミーがクリムメイスの元へと到達、即座にクリムメイスは大盾用のスキルである『ヘヴィガード』を使用してシェミーの攻撃に備えたが、流石に人間が馬(しかも恐らく常世の物じゃない)に突撃されても平気な訳があらず、容易く吹き飛ばされ―――後ろに位置していたカナリアは、短い悲鳴と共に吹き飛ぶクリムメイスを横に跳んで回避する。


(オラ)()ァアアア! 『()ィアー()()()()』ッ!」

「くっ……『夕獣の解放』、『召喚:欲狩(サモン・ミミック)』!」


 しかし、それによって生まれた回避後の隙を当然ながらフレイが狙う。

 流石にこれは避け切れないと判断したカナリアは、自らのSTRを上昇させた後に欲狩を召喚し、それを持ち上げると下に入り込み、即興の盾を作り上げてフレイの攻撃を防いでみせた。


()にいッ!?」


 自らが振るった大斧を欲狩による肉壁で止められたフレイが目を見開き、欲狩の下でカナリアは思わず大きく息を吐く。

 ……土壇場で打ってみた一手だったが、どうやら上手くいったらしい。

 その重量から取り回しこそ効かないが、膨大なHPを有する欲狩は肉壁としても非常に優秀のようだ。

 とはいえ、普段は大人しく『夕闇の障壁』を張ればいいだけなので、対人戦以外では早々出番はないだろうが。


「『夕闇の障壁』、『命令(オーダー)自爆攻撃(スーサイド)』!」


 そうこうしている間に6秒経過し、『召喚:欲狩(サモン・ミミック)』によって発生したクールタイムが解消。

 カナリアは即座にHPを3100消費し『夕闇の障壁』を使用すると、肉壁にした欲狩を自爆させて反撃に出る。

 ただ壁にするために『可愛いですわ! 可愛いですわ!』と騒いだ可愛くない生物を呼び出し、用が済んだ途端に自爆させる悪魔のような少女がここにはいた。


「ウルァッ!?」

「にゅおんっ!」


 そんな悪魔のような少女による悪魔的一手によってフレイのHPに2600近いダメージと、その巨体すら吹き飛ばす程の衝撃が襲う……ついでにカナリアも事前に張った『障壁』でダメージこそ無効化したものの、衝撃は甘んじて受ける他なく、テロリストらしからぬ可愛らしい悲鳴と共に吹き飛ばされる。


「カナリア、大丈夫っ!?」

「ぶっちゃけつれーですわね!」


 砂浜をゴロゴロと転がされたカナリアへと、シェミーの手によって吹き飛ばされていたクリムメイスが駆け寄ると、カナリアは先程まで見せていた(ブラフを多分に含む)余裕を一切かなぐり捨ててぶっちゃけた。

 だがそれも仕方がない……実際、怪馬に騎乗したシェミーと獣と化したフレイは驚異的であり―――特に、堅牢な防御力と機動力に任せた尋常ならざる突撃能力を持つシェミーの存在がカナリアとクリムメイス両者から共に厄介だった。

 瞬間的な火力と抜群のプレイングスキル、毒や火薬を用いた多様な攻撃手段を持つハイドラや、生半可な防御力では受けることなど絶対に出来ない魔術を放てるウィンが居れば話も違うのだろうが……。

 一瞬、カナリアは離れた場所でハイドラを拘束しながらこちらを見守るウィンと、ウィンの触手が分泌する粘液で酷い状態になってゲッソリしているハイドラへと視線を向け、救援を求めることも考えたが―――それをし始めれば、数的有利があるシェミー達に軍配が上がるのだから、その手はやはりあり得ないと判断し、視線を戻した。


「ハハハ、面白いことすんじゃねーか。今のいい絵面になったぜ、フレイ」

(ウルア)いッ! (ウイ)は、(オォ)す!」


 余計なことを考えている間に吹き飛ばされたショックからフレイが立ち直り、その横にシェミーが並ぶ……先程と同じように再びふたりで息を合わせて突撃する気なのだろう。

 次も欲狩による緊急防御が決まるとは思えず……また、獣と化したフレイは膂力が増した影響か攻撃の速度が尋常ではなく、先程のようにアリシア・ブレイブハートの真似事で捌けるような相手ではない。

 だから、もう一度同じことをされれば……非常に不味い。

 なにか、この状況を打開する一手はないか―――。


「……そうですわっ! 『八咫撃ち』ッ!」

「カナリアっ!?」


 ―――瞬間、ひとつの可能性に気が付いたカナリアはぐるりと反転し、彼女を象徴するスキルのひとつである『八咫撃ち』を使用する。

 すれば当然、カナリアは自分達に向けて突撃して来ているふたりへと背中を晒すことになり、クリムメイスは目を剥いて悲鳴を上げた。


「……ッ、オブスキアーッ!!」


 思わずクリムメイスは、自棄になったカナリアが一般人を攻撃した挙句に『犠牲者を増やしたくなければ大人しくやられることですわ!』等と言い出して人質に取るつもりなのではないかと考えてしまい、彼女の本当の狙いに気付けなかったが、彼女が向いた方向から狙いを察したシェミーは顔色を変えて自らの『相棒』の名を叫ぶ。

 ……そう、カナリアが狙ったのは、今丁度ローランの頭を海水へと沈め溺死させんとしていたオブスキアだったのだ。

 主人の声で、自らが狙われていることを察したオブスキアは反応よくローランから離れて1発目の射撃を回避する……が、カナリアもその動きを素早く追い掛け、完璧な偏差を掛けて2発目、3発目を放つ。

 だが、そこでオブスキアは纏っていた赤い燐光を爆発させたかと思うと不自然な方向へと加速して、2、3発目の射撃を回避してしまう。

 とはいえ、その回避行動によってオブスキアとローランの距離は十分に離れ、戦闘開始時よりオブスキアによって封じられていたローランは僅かな時間ながら自由を取り戻す。


「ローランッ! 魔力熱線ですわ!」

「くそォッ!」

「オアーッ!」


 そして、その自由になったローランが放つ魔力熱線はカナリアが持つ攻撃の中では唯一の物理属性を含まない攻撃であり、フレイは当然のこと、シェミーに対しても有効な一手であり、主人の声に応え、ローランが(主人達を巻き込む形で)放った青白い熱線を避けるべくシェミーは手綱を強く引いて急旋回し、フレイも突撃を中断して大きく横に跳ばざるを得ない。

 主人一行であるカナリア達にこそダメージを及ぼさないが、砂浜を抉り、溶かし、硝子の道を作りながら真夏のビーチを縦断したその一撃は、到底並のプレイヤーに耐えられるものではないのだ。


「選手交代ですわよ、ローラン! そっちのトカゲはわたくしたちが!」

「なるほど、確かにっ! そっちのがいいわね!」

「……ッ! オブスキアァア!」


 続いて、カナリアはローランにシェミーとフレイを狙うよう指示を出し、ここでようやっとカナリアの真の狙いに気付いたクリムメイスも、こちらへと向かって走ってくるローランの背を追い掛けるオブスキアへと向き直る。

 確かに速度と防御力に長けるシェミーとフレイはカナリアにとって相性の悪い相手だが、その体躯が大きくカナリアの殺爪弓による攻撃が狙いやすいであろうオブスキアはそうではなく、逆にシェミーとフレイは(いくら元々大型のモンスターの撃破をメインコンテンツとする配信をしていたとはいえ)カナリア程の瞬間的な火力は持たないため、互いに互いの『相棒』を潰しあう展開になった場合は分が悪い。


「ローラン! 後ろは気にせずに! 魔力熱線!」


 自らの『相棒』の背に迫るオブスキアへと向けて殺爪弓による一撃を放ちながら、再びカナリアが魔力熱線を放つよう指示を出す。

 すれば、当然ながらシェミーとフレイはその回避に専念せねばならない―――間違いなく、形勢逆転だった。


()ェミーッ!」

「……くそ、くそっ! 仕方ねえ、フェーズ3だッ! オブスキア!」


 だが、シェミーとフレイにはまだ打つことの出来る手がある―――そう、オニキスアイズ内でたった五組しか得ることが出来ず……現状二組しか持ち合わせていない力を行使する、という一手を。

 主人の呼び声に応え、オブスキアはローランの背を狙うのをやめると、纏う燐光をより一層激しく爆発させ、暴力的なまでの加速で目で追うことすら難しい速度を得ると彼の下へと飛来した。


「来るか……!」

「ああッ! 仕方ねえ、見せてやるよ! 来やがれ、【疫病】ッ!!」


 シェミーが、己に宿る【黙示録の騎士】の名を叫ぶ。

 同時、シェミーの身体から緑色の粒子が―――四本指の奇妙な手を無数に形成する、大量の緑の粒子が溢れ出て、それはフレイ、オブスキア、怪馬を鷲掴みにすると一ヵ所へと寄せ集め、急激に膨張してその三つを飲み込む。

 ……四番目に生み出された【疫病】の力は『侵蝕』と『融合』……触れた相手を己と同じ『意志を持つ貴金属粒子の集合体』へと変質させ、また、互いに繋がり合ってひとつの姿を取る、というもの。


「クリムメイス、わたくし達も!」

「勿論!」


 【疫病】のその恐るべき力をカナリアとクリムメイスは知らないが、それでも相手が黙示録の力を行使するというのであれば、並び立つには自分達も使わざるを得ないのは当然だ。

 ふたりは、かつて向かい合って使ったその力を今度は隣り合って呼び覚ます。


「来たれ、【戦争】!」

「来い、【戦争】!」


 ふたりの声に応え、翼竜を成して飛来した炎を振り払い、その中から【戦争】の力を身に纏ったカナリアとクリムメイスが姿を現すと同時、繭のように丸くなっていた【疫病】の塊の中から―――一体の怪物が姿を現す。


「どうだ、フレイ……行けるか?」

「ああ、うん。完璧だ。やれるよ、シェミー」

「オーケー……!」


 その怪物は、怪馬が持っていた四本の脚で地面に立ち。

 その怪物は、フレイが持っていた二本の尋常ならざる膂力を持つ腕を倍の数持ち。

 その怪物は、その四本の腕に巨大化した大斧、長槍、大盾を持ち。

 その怪物は、オブスキアが持っていた一対の巨翼をその背から伸ばしている。

 その怪物は、シェミーの呼び出した【疫病】の力によってフレイ、怪馬、オブスキアの三つがひとつに混じり合った悍ましき存在だった。

 そして、その背へとシェミーが飛び移り、その首筋に自らの身体を沈めると、彼もまた一体化したらしく、怪物の身体の上に存在していたフレイの顔の横から潜り込んだシェミーの顔が現れ―――【疫病の騎士】は完成した。

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