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125-WAR OF BRAVES その3

「しッ……『シールドバッシュ』!」


 カナリアの付属物によって散らされる仲間達の断末魔を背に受け、早急に眼前のふたりを片付け、なんとかして上空のカナリアを地上に引き摺り下ろさなければならないと考えたクリムメイスが大盾を前に突き出して突進を開始―――突撃する先は、ウィンだ。

 ……そう、クリムメイスは知っていた。

 ウィンは『マジックランス』、『マジックアロー』、『マジックソード』……普段使いしていたその三種と、隠していたらしい『マジックスウォーム』しか魔法を扱えず、近距離戦に難があるということを。


「わ、こっち来た! 『クリスタルオービット』」

「えっちょっと待ってなにそ……にょおっ!」


 クリムメイスが自らへ向かって突撃するのを確認したウィンが、自らの周りに五つの浮遊する結晶の塊を展開……すると、それらは間もなく射程圏内に突っ込んできたクリムメイスへと凄まじい速度で殺到。

 当然ながら怨喰の大盾(が変形した大盾)を構えながら突っ込んで来ていたクリムメイスはその魔法を防御するハメとなり―――物理ダメージこそ100%軽減したが、魔法ダメージは50%軽減で受け、炎ダメージに至っては1%たりとも軽減できず、結果として通常の『マジックオービット』によって発生しうるダメージの1.5倍ものダメージを受けてしまう。


「そんで『クリスタルフォグ』!」

「い、いや、ウィン……!」


 更に、『クリスタルオービット』を盾で防御したことによってノックバックが発生し、僅かながら硬直したクリムメイスの足元より魔力で作られた濃霧―――キラキラと光る赤い結晶が交ざっており、これもまた物理属性と炎属性を持っている―――が発生し、じわじわ……というには些か早い速度でクリムメイスのHPが削られていく。


「お次は……『パーティクルクリスタル』!」

「ねえウィンっ!!」


 そして、なにか言いたげなクリムメイスが、ノックバックから解放されそうになった頃合いを見計らってウィンは命中した相手に強烈なノックバックを与える魔力の散弾を放ち、彼女を命を蝕む濃霧に釘付けにする。

 この一連の流れによってクリムメイスの(『クラシック・ブレイブス』内で見れば)高いHPが大きく削られてしまう。

 ……そう、ウィンは知っていたのだ。

 クリムメイスがいずれ裏切るかもしれないと考えて隠していた、『魔学都 オル・ウェズア』で習得した大半の魔法の存在にクリムメイスは気付いていないのだと。


「『クリスタルアロー』、『クリスタルミサイル』、『クリスタルランス』!」


 隠し通せていたからこそ一度だけ使える、回避不可能なコンボ攻撃によってクリムメイスのHPを大きく削ったウィンは、そのままの勢いで彼女のHPを削り切るべく普段使いしている『マジックアロー』、『マジックランス』……に加え、威力こそ前述の二つに劣るが、誘導性においては他の追随を許さない『マジックミサイル』を使用する。


「普段からそれちゃんと使って戦いなさいよぉおおおーっ!」


 凡庸なプレイヤーであれば間違いなく回避し切れずに仕留められてしまったであろう緩急の激しい三連射だったが、クリムメイスは文句を口にしつつも(意外なことに)危うげなく回避し切ってみせる。


「ちょこちょこいつものクリムメイスさんに戻るよね~」


 そんなクリムメイスに対しウィンは、そっちが素なんだ~、だなんて気の抜けた感想をへにゃりとした笑顔を浮かべながら口にし、その表情を見たクリムメイスは背筋に冷たいものを感じた―――間違いない、この女……まだまだ自分に隠してるものがある!


「余所見してんじゃないわよ! あんたを殺すのは私なんだから!」

「ぬぉおおっ!?」


 ウィンがあとどれだけ持ち札を隠しているかまったく想像できないクリムメイスが、なんとか荒くなった息を整えつつもウィンに明確な恐怖を覚え―――思わず視線をやったその隙に、凄まじい速度で突っ込んできたのはハイドラであり……その大剣による斬撃をクリムメイスは大盾でなんとか受け止める……。


「あ、しまっ……!」

「それは悪手じゃない?『ポイズンミスト』!」


 否、受け止めてしまった。

 その行動はハイドラというキャラクターを相手にしているのならば本人が口にする通り悪手極まりなく……そんなことはクリムメイスも分かってはいたが、通常時では有り得ない速度でハイドラが突っ込んできたものだから―――どうやら大量にある炎で作られたフリル装飾は、推進装置の役目も果たすらしい―――大盾を用いるプレイヤーの習性で反射的に動いてしまったのだ。


「いや、それヤバっ……!」


 ハイドラの宣言したスキルの内容を……吸った相手に『毒』の状態異常を付与するという効果を知っているクリムメイスは、呼吸を止めたまま素早く後ろに下がり、それを回避―――出来ない。

 【戦争】の力は使用者の攻撃全てに炎属性を付与する……故に、ハイドラの『ポイズンミスト』にも炎属性の攻撃力が付与され、それによって足先を少し焼いたクリムメイスは、その傷口より毒に侵されたのだ。


「くそッ……『回復』……」


 後ろに下がりつつ左手の大盾をインベントリにしまい、代わりに導鐘の大槌―――【戦争】の力の影響で小さな鐘が四つ程増え、非常にガランガランと煩い―――を取り出し、小さく振るって隙の少ない初級信術『回復』を用い、減ったHPを少しでも取り返すクリムメイス。


「するだけ無駄! どうせ死ぬんだから!」

「うわッ!?」


 しかし、その小さな隙ですらハイドラの前に晒すことは危険極まりなく―――もくもくとたちこめる毒霧の中から、斧槍の先端部分と思われるものが飛び出し、クリムメイスの頬を撫で……そのまま遥か後方まで突き進んでいった。

 間違いなく、それはジャバウォックが変形したものであり、それが自分の顔を貫かなかったのは……単純に運が良かったからであろうとクリムメイスは判断し、息を呑んだ。

 なにせ、ハイドラによる猛攻は始まったばかりなのだから―――。


「ぜいりゃあッ!」

「来たっ……!」


 ―――まず最初に伸びきったジャバウォックを振り回し周囲のプレイヤーを無差別に薙ぎ払って殺しながらハイドラが毒霧の中より飛び出してくる。

 それをクリムメイスは身を屈めて回避するが、その際に見えたハイドラの右手には大剣―――恐らく、ミストテイカーが変形した物―――を持っており……どうやら彼女は普段はひとつずつしか使わない武器を二つ同時に使ってまで殺しに来るらしい。


「かかったッ!」


 ジャバウォックによる初撃を体勢を低くして回避したクリムメイスを見たハイドラが、ぎらりとその目を輝かせると、クリムメイスが彼女の言葉の意味を理解するより速く、ハイドラはミストテイカーを地面へと思いっきり突き刺すと、全身の炎で作られたフリル装飾―――ハイドラが毒状態である影響か、今は不気味な緑色だ―――を激しく煌めかせ、突き刺したミストテイカーで地面を抉りながら前進し出す。

 その速度は地面に突き刺した大剣を引き摺っているとは思えない程素早い……が、ミストテイカーを地面に突き刺さなければもっと速く移動できるのは確かであり―――そうしなかったことになんらかの意図を感じ取ったクリムメイスは素早く横に跳ぶ。


「『全霊』―――!」


 瞬間、先程までクリムメイスが居た場所に、地から天に昇る一本の線が現れる。

 それは、地面に突き刺して隠したミストテイカーの剣先から伸びた……実に本体の六倍程もある光の刃だった。

 カナリアが『飛翔』を得て、ウィンが『沈黙』を得たように、ハイドラは『全霊』というスキルを得ており、そのスキルの効果は攻撃範囲の拡大という……実にシンプルかつ、汎用性の高いものだった。


「―――って、なに避けてんのよ! 殺せないじゃない! ちゃんと食らえっての!」


 ハイドラは年頃の少女らしく恰好付けたがることが多いが、それと同時に効率を無視することはしない、と……横で戦う内に理解していたことが功を奏して『全霊』を用いた真下からの不意打ちに対応できたクリムメイス。

 そんな彼女に向かってハイドラは理不尽極まりない台詞を吐きながらジャバウォックとミストテイカーによる、緩急入り混じった不規則な連撃を放ち始める。


「無茶、苦茶っ、言うんじゃ……ないわよっ! 『雷・槍』ッ!」


 伸びきったジャバウォックを振るい、その切っ先がクリムメイスに届く寸前でミストテイカーによる別方向からの攻撃を加えるという、受ける側からすれば、まるで二人の相手をしているかのように錯覚してしまうようなトリッキーな連撃―――それを普段大盾を用いてる時には決して見せることのない素早い身体捌きで避けながら、クリムメイスは導鐘の大槌から『雷槍』を放つ。


「それは『沈黙』っと」


 が、それは(ハイドラの振り回すジャバウォックに当たらないよう)少し距離を置いたところで戦いを観察していたウィンの『沈黙』によって打ち消されてしまう。

 どうやらウィンは『回復』のような発動と同時に効果を発揮し終える魔法を打ち消すことはまだ出来ないようだが、『雷槍』のような攻撃魔法に関してはそうじゃないらしい。


「あっ……もう!」

「ナイス、ウィン! 『パウダーミスト』!」


 その『雷槍』でハイドラのテンポを崩し、反撃の切っ掛けにしようとしたクリムメイスだったが、打ち消されてしまってはそうも行かず……むしろ『雷槍』を使用したことによって生まれた隙に、ハイドラが振り回すジャバウォックの先端から黒い火薬の霧を発生させる。

 それは、ハイドラとクリムメイスを囲むようにして撒き散らされ―――クリムメイスは思わず息を呑んだ。

 少なからず炎が装飾に使われているこの【戦争】の力を纏ったまま、あの領域に一歩でも足を踏み入れれば……瞬間、爆死は免れないのだから。


「なんにせよ、私に殺されるのは同じだけど―――選ばせてやるわ! 斬殺か、毒殺か、爆殺か! ウォン&キル=デスサイス!」


 顔を引き攣らせるクリムメイスを見て、嗜虐的な笑みを浮かべたハイドラがジャバウォックをインベントリにしまい、代わりに大鎌と化したウォン&キルを取り出し、今度は大剣と大鎌の二刀流でクリムメイスを攻め立て―――周囲に立ち込める火薬の霧へ向かってじりじりと押していく。

 ……クリムメイスはかなりの劣勢だ。

 いくら『回復』で少しばかりHPを取り戻したとはいえ、元々ウィンの魔法攻撃によってHPは減っているし、そこに加えて『毒』の状態異常によってHPは減り続けており、最早ハイドラの攻撃一発とて貰えるHPは残っていないのだから―――。


「……どれも選ばない! だって、これがあるからッ―――『再誕』!」


 ―――だが、【戦争】の力を振るうクリムメイスを追い詰めたということは、それだけ多くのAPを彼女に与えてしまった、ということであり。

 クリムメイスは得たものや、初期から持ち合わせていたAPをほぼ全て使い切り、カナリアの用いた『飛翔』や、ウィンの用いた『沈黙』、ハイドラの『全霊』のような、【騎士】の力を振るう時にのみ使用可能な信術……『再誕』を使用する。


■□■□■


再誕

:この魔法は打ち消されない。

:周囲に存在し、死亡または破壊された全てを再生する。それらを含めた全ての存在は完全に回復する。

:この魔法は所有するAPが最大値の95%以下の場合使用できず、所有するAPの80%を消費する。


■□■□■


「いや~! にしても生テロリスト可愛かったな~! 俺、ファンになっちゃうよ」

「ははは、確かに。死にはしたけど正直カナリアちゃん近くで見れたからよかっ……あれっ」

「もう死んだのになんでまた死地に呼び戻されてるのかな、悪夢とは巡りそして終わらぬものなのかな?」


 それは問答無用の無差別再生信術……カナリアの残虐な戦争行為によって死亡し、リスポーン地点で生テロリスト良かったなんだと和気あいあいと語っていたプレイヤー達を全て戦場に引き戻し―――。


「ウオァーッ! なんだこのミミックーッ! 全然振り解けねえ!」

「やめろっ! 俺みたいなオッサンの触手プレイなんて需要ねえんだ! やめろーっ!」

「うおおおおお気持ち悪ィ! ちくしょうクロムタスクの疑似感触演算が悪い方向に振り切れてやがる!!」


 ―――そして、爆弾代わりに落されては弾けて死んでいた欲狩達もあの世から引き戻した。

 結果として、復活したプレイヤーの大多数は欲狩に捕食され、ひたすら尻を突き出し続ける見るも無残な存在と成り果てたが……クリムメイスの狙いはそこではない。


「『レゾナンス・バースト』!」


 カナリアに大分数を間引かれ、静かになりつつあった戦場に触手に襲われ絶叫する男達の声の他に―――良く通る、可愛らしい少女の声が響き渡る。

 それは、周囲に殺したはずのプレイヤー達が再び現れて驚いた様子のローランにとって、トラウマに近い声であり……彼女はそちらを見ようと首を向け―――断頭された。


「……どーうよっ! ワンパターンだろうがなんだろうが、勝てばスマートなのよ! ばーか!」

「疑問、なのだけれど。イーリ、コンテニューして勝っても泥臭いだけでスマートじゃないと思うわ?」

「スマートだもん! 勝ったもん! スマートなんだもん! 勝ったから!」


 そう、クリムメイスが最も呼び戻したかった相手―――それは、まずフレイジィとイーリ……特に、ローランを一撃で仕留められる程の火力を持ち、カナリアに続く堅牢さを持つフレイジィだ。

 こんな地獄の戦場においても駄々をこねるマイペースさは少々問題だが……それでも、とりあえずローランを屠ったので良しとする。

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■□■□■ 再誕 :この魔法は打ち消されない。 :周囲に存在し、死亡または破壊された全てを再生する。それらを含めた全ての存在は完全に回復する。 :この魔法は所有するAPが最大値の95%以下…
[一言] ラストリゾートの効果時間が90秒になってるの結構あれだな、終盤で逃げ切りに使える あとまだ見ぬ騎士の力とラストリゾートの組み合わせで地獄が生み出されそう
[良い点] 完全蘇生系なのに呼び戻される先が地獄すぎてあまり喜ばれないの笑ってしまった [一言] 続き楽しみにしてます!
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