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104-ストレンジャー・シンウチ、第五層にて その1

 カナリア達が善良な一般プレイヤー達に無情な死を突き付けていく中。

 同じくマッチングする相手と勝負になっていないパーティーがひとつあった。


「流石に最初の方はこうなるわよねェ……」

「ふん……」


 そのパーティーの一員である真っ黒な鎧に身を包んだ巨漢がオネエ言葉で呟き、それを聞いた白い鎧を身に纏った少女が退屈そうに鼻を鳴らす。


「あのような相手、私ならばもっと早く処理できます」


 そして、続けて白い鎧の少女―――パーティーの主将であり同連盟の長でもある白い鎧の少女……アリシア・ブレイブハートが、眼前で敵である四人組を相手に奮戦する二人組の男女を見ながら不満そうな声を上げた。

 そう、彼女達は『グランド・ダリア・ガーデン』のトップチームだった。


「それはそうでしょうけど、あれぐらいの相手にアリシアんの体力を割く必要ないってオハナシ」

「むぅ……」


 目下最強の連盟とされる『グランド・ダリア・ガーデン』―――そのトップチームの副将を務める黒い鎧の女性(巨漢)こと、ジゴボルトの宥めるような言葉を聞いてアリシア・ブレイブハートは頬まで膨らませ始めた。

 その様子は完全に親に言い包められて不貞腐れる子供の図であり、中々に可愛らしい……が、彼女が頬を膨らませる理由は、三度の飯より四肢の切断が好きだというのにイベントが始まってからまだ一度も剣を鞘から抜けていないからである。

 可愛らしいとか言ってる場合ではない。


「『ダブルファング』ッ!」

「『フレイムエッジ』!」


 そんなやり取りをふたりがしている間に(ジゴボルトとアリシア・ブレイブハートが戦いに加わっていない関係上)数的優位だった相手チームをふたりの男女が―――男の方は長さの違う二刀の大剣を豪快に振り回し、女の方は真紅の刃に炎を纏わせて―――斬り伏せる。

 彼らもまたグランド・ダリア・ガーデンにおいてトップチームに抜擢されたことだけあり、低い層でマッチングする相手には苦戦すらしないようだ。


「お疲れン! サベージちゃん、スザクちゃん、どぉ? まだまだイケそ?」


 切り伏せた四人組が粒子化して消え去ったことを確認した後に戻ってきた二人へとジゴボルトが労いの声を掛ける。


「スザクはどうか知らねえが、オレはまだまだ行けるな!」


 すると、両手に長さの違う大剣を持つ攻撃的に過ぎる装備の男性プレイヤー……『サベージ』は先程まで肩を並べていた女性プレイヤーへと不敵な笑みを向ける。


「むっ……、私だって、ちょうど体が温まってきたぐらいで、まだまだ行けます」


 相方の露骨過ぎる挑発に眉を顰めながらも、自分もまだ余裕だとその女性プレイヤー―――片手に大きな赤い宝石のはめ込まれたワンド、もう片手に紅い刃を持つ長剣を持つプレイヤー―――『スザク』はジゴボルトに返す。


「ってさ。残念だけど、アリシアんの出番はまだまだ後みたいね」


 相も変わらず仲が良いんだか悪いんだか分からない二人のやり取りを見て、おどけるように肩を竦めるジゴボルト。

 自分の出番がまだまだ来なさそうなことに対して当然ながらアリシア・ブレイブハートは不満そうに更に頬を膨らませ、それを見たスザクは頬を掻きながら苦笑を漏らす。

 なにもそこまで機嫌を損ねなくてもいいではないか、なんて思いつつ。


「おう! いや、むしろアリちゃんの敵は全部兄ちゃんが倒すから……のんびりしてていいぜ! ハハハ!」


 ……が、この中で一人だけアリシアが不機嫌になっていることを察せられない無神経なプレイヤーが居た。

 そう、このパーティーで唯一の男であるサベージである。

 アリシアの頭をグシグシと撫でまわしながら、不安に怯える子供を勇気付けるかのような笑顔を浮かべる彼は恐らくアリシアが戦いへの不安から笑みを消しているのだと勘違いしたのだろう。

 彼女のどこをどう見ればそんな可愛らしい少女に見えるのだろうか。


「……『フェイタルエッジ』」

「オアーッ!?」


 失言に加え、気安いボディタッチ―――当然ながらご機嫌斜めのアリシア・ブレイブハートがそれを許すはずもなく、素早く剣を抜いた彼女の手によってサベージの右腕が宙を飛ばされる。


「……え!? なんで!? なんで俺の右腕を!? えッ!?」


 次の相手とマッチングすれば全ての状態がリセットされるとはいえ、妹のように(一方的に)可愛がっている少女の手で右腕が飛んだことは流石にショックであり、サベージは思わず目を白黒とさせた。


「バカ、お前……本気か? だとしたらどうしようもないバカだな、お前……本当にバカだな……お前……」

「おいスザクぅ! バカバカうるせーぞバカ! ……そんな俺頭撫でるの下手か!? おい、スザクお前ちょっと頭貸せよ……」

「はァッ!? やめ……来ーるーなー! やめろーっ変態ぃー!」


 そしてサベージは(なんとも残念なことに)自分の右腕が飛んだ理由は自らの頭撫でスキルが低いからだと判断し、残った左腕でスザクの頭を撫でようとにじり寄り、当然ながらスザクに犬歯を剥き出しにしながら抵抗されることになった。


「あの二人、絶対デキてるわよね、アリシアん」

「知りません」


 本気でスザクは嫌がっているのかもしれないが、傍からみればイチャつくバカップルにしか見えない二人に思わずジゴボルトは呟き、アリシア・ブレイブハートは心底興味が無かったので秒でその会話を拒否した。

 ……ただでさえ不機嫌なのに、アリシア・ブレイブハートは愛だの恋だのそういう類の話には微塵も興味がないのだから仕方がない。


『条件達成 次の層へと移動します』


 頭ン中恋愛一色なのもアレだけど、ここまで興味ないのもそれはそれで不健全ね……と、ジゴボルトが心の中でアリシア・ブレイブハートの将来を心配していると、無機質な音声がアリシア・ブレイブハート達を次の層―――第五層へと移動させることを告げた。

 アリシア・ブレイブハートが前線に立っていない影響で一戦一戦が多少長くなってはいるが、他の平均的なパーティーが三~四層に今到着したところだということを考えるとかなりのハイペースといえる。


「……あらやだ、お一人様じゃない」


 それはつまり、そろそろ強敵とマッチングし始めるということなのだが、上がった第五層……そこでグランド・ダリア・ガーデンの面々を待ち構えていた相手は―――なんと一人だった。

 しかし、相手の数が少ないからといって全く油断はできない……むしろ、警戒するべきである。


「おいおい、ソロで俺らと同ペースってヤベぇな」


 サベージが苦笑を浮かべながら言う通りであり、更に言えば目の前の相手―――王都で販売されているガスマスクで顔を隠し、首から下も同じく王都で揃えられる軽装の鎧に身を包んだ長髪の少女(体形からして)―――は、その得物として『刀』を所持している。

 それが大変不気味だ。

 なにせ『刀』は現状ドロップや販売などがされていないことを確認されている武器種であり、生産職のプレイヤーが作ることでしか入手できない。

 であれば、あの『刀』は必然的にプレイヤーメイドであり、普通の生産職のプレイヤーが作る武器は未だ性能があまり良いとは言えないのだが、その刀がそうではないことを彼女がそれを用いて此処まで上り詰めたことが証明している。

 つまり間違いなく……この少女は今までとはレベルが違う相手であり、容易く片付く相手ではない。


「だが、私たちがやることは変わらない。……違うか? サベージ」

「ハッ、言わせんな! マッハで片付けてやるぜ!」


 だが、だからといってそれは別にそれはスザクとサベージが引く理由にはならない。

 二人は揃って少女へと向けて駆け出す。


「『クイックファング』ッ!」


 まず最初に仕掛けたのはサベージだ。

 彼が偶然手に入れた導書……『牙刃の導書』より手に入れたスキルは『差のある剣身を持つ大剣をそれぞれの手に装備した際にのみ使用できる』という条件を持つものの、その代わり使用した際に様々な上昇効果を得ることができる。

 そして『クイックファング』は最もシンプルなスキルであり、攻撃の際に『加速』と同じような敏捷性の上昇を得られるスキルだ。

 AGLというステータスが存在しないオニキスアイズにおいてそれは分かりやすく強力であり、並大抵のプレイヤーはこの一撃に反応することが出来ない。


「……ッ!」


 だが青い燐光を纏ったサベージの急接近からの二連撃を、少女は得物である太刀を使って一撃目を逸らし、二撃目は後ろに体を引くことで回避してみせた。


「見切るか、やるねェ! だが……ッ!」

「『バレットファイア』!」


 初見殺しに近い高速の連撃を見事回避してみせた少女を褒めた直後、ニヤリと笑ったサベージが横に跳び―――続けて彼の背後から炎の弾丸が姿を現した。

 両手に長さの違う大剣を持つという……装備こそ少々風変りとはいえ、キャラクタービルド自体はSTRに多く振った素直な筋力系近接型のサベージと違い、DEX、INT、DEVに広く薄く振るという少々歪なビルドをしたプレイヤー……スザクの炎属性の闇術『バレットファイア』だ。


「……ッあ……!」


 一見して器用貧乏にも思えるが、元から魔術に近い火力を有しながらも魔術よりも短い闇術の詠唱時間をDEXに多めに振ることによって更に短縮し、近接における高速戦闘の最中でも打ち込むことが出来るようにしたそのビルド―――歪んでいながらもある種美しく完成されているといえるビルドをしたスザクによる攻撃を、少女はなんとかギリギリといった様子で身を捩って回避する。

 その表情はガスマスクによって隠され窺い知れないが、余裕がありそうではない……とはいえ、今までマッチングした相手でこのコンビネーションアタックを全て回避できたプレイヤーは誰一人としていなかったので、見事避け切ってみせた彼女は間違いなく強者なのだろう。


「おらァッ!」


 だからこそ、なにかをされる前にここで仕留める―――そういう意志の籠ったサベージが跳び込みながら大きく得物を振り下ろす。

 大振り故に重めの一撃とはいえ、スキルこそ用いていないその攻撃は少女を一撃で仕留めるには至らないかもしれない……しかし、逆に言えば一切のクールタイムが発生しないこの攻撃からはありとあらゆるスキルに繋げることが出来る。

 故にこの攻撃に対し、少女がどのように動くかを見てから最適な一撃を加える。

 それは間違いなく有効打になるはずだから―――。


「……『パリィ』」

「あんッ!?」


 ―――そう考えたサベージの攻撃を……、様子見の一撃を自分へと打ち込ませることこそが少女の狙いだったのだろう。

 少女を真っ二つに割る勢いで振り下ろされるサベージの二本の刃は、少女の刀によって横から殴り伏せられてしまった。


「しまッ……」

「『死突(しとつ)』」


 先程の少女の切羽詰まった様子……それが自らの攻撃を誘う為の罠であった事にサベージは気付くが、既に遅い。

 『パリィ』によって崩された体勢では続けて放たれるスキルを当然避けることが出来ず、少女の刀は赤い光を纏ってサベージの胸へと吸い込まれていく。


「がッ……!」


 いくらオニキスアイズが痛みのフィードバックを発生させないゲームであっても、刀を刺されれば流石に不快感を覚えるというもので、思わずサベージは呻き声を上げて怯んでしまう。


「『毒刃(どくじん):拘束』」

「なッ……麻痺……!」


 続いて更に重ねられるのは、刃に触れている相手に状態異常を付与するスキル。

 今回使用されたものは麻痺の状態異常を発生させるものであり、怯んでいたせいで『死突』のクールタイム中に右胸に突き刺さった刀を抜き取ることが出来なかったサベージは身体の自由を奪われ、少女はその体を盾にしてスザクへと迫っていく。


「ちぃっ、邪魔だ! お前ごと焼くぞ! 『フレイムランス』!」


 それは現実であれば有効となるであろう味方を盾にする戦法だが、ゲームの中であれば当然影響は薄く―――とはいえ、今回のイベントにおいてはパーティー内のフレンドリーファイアは常時オンにされており、まったくの無意味とは言えないが―――、スザクはサベージを巻き込む前提でプレイヤーやモンスターを貫通して直進し続ける特性を持つ炎の槍をワンドから生み出して放つ。


「癪だが仕方ねェ―――ッ!? そこから離れろ! スザク!」

「えっ……?」


 この状況であればベストと思えるスザクの選択だったが、輝く炎の槍の向こう側でサベージが叫び、その瞬間にスザクは己の過ちを―――どういった過ちであるかは別として、とにかく間違ったことだけを―――察する。

 確かにあの少女はサベージを盾として使った……が、それだけではなかった。

 彼女の本当の目的は……。


「『血斬(ちぎ)り』」

「『姿隠し』だと―――ッ!?」


 ……視認されていない状況において、特定の相手に対し視認されるまで自らの発する音を一切聞こえなくする隠密系のスキル『姿隠し』を使用し、スザクへと肉薄することだったのだ。

 サベージを壁代わりにしてスザクの視線を切ることで『姿隠し』を発動し、未だ麻痺の残るサベージから素早く刃を抜き取って音もなくスザクの側面へと回った少女が放つスキルは……正体不明だが、赤黒い光を纏う刃は既に避けれる段階にないのだけは確かだ。


「くうッ……!」


 せめてもの抵抗だとスザクは腕でスキルを防ぎ、即死だけは回避しようとする。


「なにっ……?」


 が、こうまでして打ち込むのだから必殺の一撃なのであろうと思われたそのスキルに、然程の攻撃力は無かった。

 ……つまり、それはあのスキルが単純に致死量に至るダメージを与えてくる以上に危険な性質を持っているという証拠でもあり、スザクは背中を冷たい汗が流れ落ちるのを感じる。


「っしゃあッ、このッ! 『クイックファング』!」


 スザクが少女によって与えられた『血斬り』というスキル名そのままな状態異常の正体を掴みあぐねていると、麻痺状態から復帰したらしいサベージが開けられた距離を『クイックファング』で埋めつつ攻撃を仕掛ける。

 相変わらず非常に素早い一撃ではあるが、あの少女にこの程度の速度は通用しない―――それはサベージも分かっているし、だから今回はダメージを与えることが目的の攻撃ではない。

 とりあえずスザクから彼女を引き離すのが最優先だと考えての一撃だ。


「……くすっ」

「ッ!?」


 しかし、サベージの予測に反して少女は回避をせずにガスマスクの向こう側で静かに笑い声を漏らす。

 ……今までスキル名を口にする時以外は言葉を発さなかった少女の口から漏れた、嘲りの含まれた笑い声。

 その声にサベージは再び少女の思惑通りに自分が動いてしまったと気付くが、だからといって振りぬいた刃は止まらない。

 サベージの大剣は吸い込まれるようにして少女へと吸い込まれていき―――。


「なるほど、な……」

「おい、マジかよ……」


 ―――その攻撃によるダメージはスザクに発生した。

 ……どうやら『血斬り』とは、名の通り斬られることによって結ばれる血の契りであり、少女が受けるはずのダメージを契られた相手へと押し付ける状態異常のようだった。


「クスクスッ……『血斬り』!」


 自らの攻撃によって相方に致死ダメージを与えてしまったサベージが、思わず粒子化していくスザクへと視線をやっている間に少女が再び『血斬り』を放つ。

 ……ダメージを与えた相手こそスザクではあるが、攻撃を加えた相手自体は少女でありサベージと少女の距離はゼロに等しい。

 故に当然、この距離でそれを使われてから避けることは出来ず……サベージもまた、血斬られてしまう。


「クソッ、カッコワリぃな……!」

「アハハハハッ! 『血祀(ちまつ)り』!」


 ……実際は『血斬り』を付与されようとも、付与された本人自身の攻撃は自分に返ってくることなく通るのだが……それをサベージが知るはずもなく。

 また、それに勘付く時間を与えぬように少女は続けてスキルを発動し、自らの腹部に太刀を突き刺した。

 目に見えて自傷行為であるそのスキルは当然ながらダメージを発生させ、こちらは血斬られたサベージが肩代わりすることになる。

 元々『血祀り』発動時のデメリットとして付与されている自傷ダメージなので、そこまで大きなダメージではなかったが……少女の攻撃とスザクの『フレイムランス』によってHPを減らされていたサベージは死に至ってしまう……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一体何コトなんだ…
[一言] GDGってゅうのゎ。。 9割以上がアリシア。。。 そしてヤバいプレイヤーも、9割以上がアリシア。。。 そぅ。。これゎもぅ。。。 GDG=ヤバいプレイヤーってゅうコト。。。 …
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