102-黙示録の試練、開幕
本日は2話投稿させて頂きます。
仲間がいる参加者は最後の打ち合わせを。
そうでない参加者はやり残したことがないかの確認を。
また、参加しないプレイヤーは飲食物等を用意してハイラントに集い、中央広場に展開された空中投影型のディスプレイを見上げながら。
誰もが第三回イベント―――『黙示録の試練』の開始を心待ちにするオニキスアイズの世界にて。
「ごめん! 遅れた!」
参加側である連盟のひとつであり、相当数のプレイヤーからヤバいことを仕出かすだろうと考えられている連盟……『クラシック・ブレイブス』のメンバーは自分達の拠点に集合しており。
普段ならば決して人に謝ることのないハイドラが、珍しく焦った様子で手を合わせて頭を下げていることから察せられる通り、彼女が最後のひとりとなった。
だが、それも仕方がないだろう……期末試験前だからとゲームを自粛してまで勉強したにも関わらず、ハイドラは数学のクラス内順位が下半分に入ってしまい、夏休みの間塾に通うことになってしまったのだから。
「間に合ったからオッケっ! よかったよかった!」
しかし、ギリギリとはいえ、きちんとイベント開始前にログインしてきたハイドラをウィンが安堵の意味も籠った笑顔で出迎える。
今回のイベントは第一回イベントとは違って開始時にログインしている必要はないが、カナリアが多用する『先んずれば人を制す』という言葉があるように、開始時から参加していた方が有利になるのは間違いない。
なので、ここでハイドラが間に合ったのは大きいはずだ。
「来て早々ですけど、もう始まりますわね!」
余程急いで来たのか肩で息をするハイドラが深く息を吸う間に、カナリア達の眼前に30から始まるカウントダウンと『挑戦したい試練を選べ』という旨のウィンドウが表示される。
勿論カナリアは事前の打ち合わせ通り【戦争】を選択、すると四人は赤い光に包まれ―――。
「デカすぎんでしょ……」
―――……まばゆい光に思わず目を閉じ、それが収まった頃合いで瞼を開いたクリムメイスだったが、誰ともなしに呟いてしまう。
なにせ、彼女たちの眼前に現れたのは巨大な翼竜のような金属製の生命体……キリンを思わせるような長い首と、大剣を彷彿とさせる鋭い嘴、地面をしっかりと踏みしめる前肢……そのシルエットから推測するに、恐らくはケツァルコアトルスがモチーフとなっているだろう存在だったのだから。
「絶対開発陣に恐竜好きなのいるわね」
その存在を見上げながらハイドラが呟くが、周囲のプレイヤーのざわめきがそれを掻き消した。
……無理もない話だ、突如転送されたと思えば目の前に超巨大な翼竜、これで驚くなというほうが無理がある。
もしこれで第一回の時のように子供連れの家族などが気軽に参加出来るイベントであれば、間違いなく子供の泣き叫ぶ声がBGMとなったことだろう。
《旅人達よ》
そういうわけでざわつくプレイヤー達だったが、不意に脳へと直接声が響いたことで静まり―――返らない、むしろざわめきが大きくなる。
「おぁあああああっ! ンだよこれ、クソ気持ち悪ィ! ちゃんとテストプレイしたのか!?」
「相棒!? 大丈夫か相棒! クソッ! 汚ェぞ! 相棒の耳が弱点だと知ってこんな攻撃しやがるとは! ロクでもねえぞ!」
「黙れスコーチッ! もう、黙ってくれーッ!」
どころか、叫び声すらあがりはじめる。
……仕方がないだろう、このゲームにおけるテレパシー的な頭に直接響く声は鼓膜の内側で囁かれるような不快感を生む。
『クラシック・ブレイブス』の面々は『妖体化』したウィンで少々慣れているので顔を顰めるだけで済んだが、多くのプレイヤーはこれが初めてなのだろうから苦しみ喘いで跪くプレイヤーは出るし、中にはあまりの不快感に地面に転がってエビぞりしだすプレイヤーまでいる始末。
《我の力が欲しくば、多くの血を流すが良い。期限は、【勝利】が叙勲を与えるまでだ》
だが、目の前の巨大な機械生命体―――恐らくは【戦争の騎士】―――が自らの声という名の怪電波攻撃でプレイヤー達が苦しんでいると理解するわけもなく。
意志を持つ兵器らしく淡泊かつ手短に試練の説明を終わらせた……―――。
《私の力が欲しければ、より多く勝利し、塔を14層まで昇りなさい。期限は、【戦争】が叙勲を与えるまでとしましょう》
「なんなのですか、これは……っ」
―――……そしてまた【勝利の騎士】グループでは、時計をそのまま瞳にした歪で巨大な目を持つ真っ白な梟が、グルグルと頭を回しながら相変わらずの怪電波攻撃でプレイヤー達をダウンさせており、珍しく苦し気な表情を浮かべたアリシア・ブレイブハートが頭を抱えていた。
いくら残虐非道な行いを重ねる彼女といえど、この脳に直接ダメージを与えてくる声は堪ったものではないらしい。
《僕の力が欲しいなら、醜く、無様に、素直に、貪り付いて、しゃぶりつきなよ。期限は、【疫病】が叙勲を与えるまでね》
「おォお……! 年寄りにコイツはきちぃなァ……!」
―――……当然ながら【飢餓の騎士】グループでも、黒い舌をだらりと垂れ流す巨大な狼が、はあはあと荒い息を上げながら怪電波攻撃でプレイヤー達を苦しめており。
老いた男性プレイヤー……タケは耳を塞いでなんとか【騎士】の怪電波を遮断しようとしながら叫んでいた。
言うまでもないが、この怪電波攻撃に年齢は関係無い。
《お、おれたちの力、が欲しいなら、さ、探せ。おれたち、おれら……キヒヒッ、ヒヒ……。き、期限、は、【飢餓】が、じょ、叙勲を与えるま、でだ……キヒッ……》
「お……オエエッ……ダメ、ムリ……マジィ……」
「お、お姉さま……配信中、配信中だから、せめて女の子の声で……ウッ……」
「いや吐く時に女の声作れとか無理だろ……オエエッ……」
―――……そして最後に、【疫病の騎士】グループでも当然ながら緑色の四つ足の謎の生物が、ぶるぶると震えながらプレイヤー達へと怪電波攻撃を行っていた。
それによるダメージによって、見事な二日酔いのオッサンボイスを提供してしまったのは『かいでんぱふぃーるど』の連盟長であるシェミーだ。
連盟の名に怪電波と入っているとはいえ、別に本人が怪電波に耐性があるわけではなく、勿論このシェミーの酷すぎる声によって配信欄のコメントは『草』『きたない』『本性現したね』等のコメントで賑わ……なかった。
というのも、今回彼が気合を入れてフルダイブライブ―――配信者の全ての感覚を体験できる最新の配信形態だ―――をしていたのが完全に裏目となり、リスナーの大半が【疫病の騎士】が放つ怪電波攻撃でダウンしてしまったのだ。
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『戦争の試練』
黙示録の塔を第一層から昇りましょう!
【戦争】の試練では自身または相手のHPを減らす度にポイントが入手できます。
一定のポイントを得る度にひとつ上の層へと上がることが出来ます。
各層では近い層に滞在するランダムなパーティーと自動的にマッチングし、決闘が発生します。
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『勝利の試練』
黙示録の塔を第一層から昇り、第十四層に辿り着きましょう!
【勝利】の試練ではマッチングしたパーティーを全滅させる度にポイントが入手できます。
一定のポイントを得る度にひとつ上の層へと上がることが出来ます。
各層では近い層に滞在するランダムなパーティーと自動的にマッチングし、決闘が発生します。
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『飢餓の試練』
黙示録の塔の第三十層から第十六層の間で狩りを行いましょう!
【飢餓】の試練では遭遇したプレイヤーを撃破する度にポイントが入手できます。
撃破対象のプレイヤーの指定はありませんが、『疫病の試練』に挑戦しているプレイヤーの方が高ポイントです。
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『疫病の試練』
黙示録の塔を第三十層から下りましょう!
【疫病】の試練では最下層である第十六層に存在する『疫病の破片』を入手すれば勝利です。
『飢餓の試練』に挑戦しているプレイヤーに撃破されてしまうと、現在の階層の半分まで戻されてしまいます。
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ほぼ全てのプレイヤーが【騎士】たちの怪電波攻撃によってダウンしていることはともかく、そもそもとして【騎士】たちの語る内容が簡潔に過ぎて説明になっていない……というのは流石に運営も気付いていたらしく。
未だに【騎士】たちからの怪電波攻撃によってダウンしているプレイヤー達の眼前に、それぞれの試練ごとに細かいルール説明が記されたウィンドウが表示された。
「ヤバいですわよ」
「ヤバいじゃん」
「ヤバいわよ」
「ヤバいね」
その内容を―――『戦争の試練』では『自分』か『相手』のHPを減らせば良い、という内容に目を通した『クラシック・ブレイブス』の面々は口をそろえて『ヤバい』と言うのだった。
実際ヤバかった。
なにせ、この連盟の連盟長ことカナリアは自らのHPを〝減らして〟スキルを用いれるのだから……他にもカナリアのように自らHPを減らすことが可能であり、尚且つHPに全振りしているようなプレイヤーが存在しなければ『戦争の試練』を真っ先に攻略するのはカナリアで確定だろう。
……なかなかに雲行きが怪しくなってきたが、だからといってイベントが始まらないわけではない。
【騎士】たちによる怪電波攻撃でダウンしているプレイヤー達は立ち直る暇すら与えられずに光に包まれ、会場である『黙示録の塔』の内部へと転送される―――。
2話目は17時投稿となっております。




