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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

お題スレ投稿作品

彼らの消えた世界で、○○を探して

作者: この名無しがすごい!

2021-02-13

安価・お題で短編小説を書こう!9

https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1601823106/

>>350

締め切りに間に合いませんでしたので、供養枠での投稿です


使用お題→『アラスカ』『ピキ』『ダービー』『悪役』『ナニ○○』


【彼らの消えた世界で、○○を探して】


 薄汚い街だった。穴ぼこだらけの舗装の上に、動く者の姿は少ない。

 擦れ違う者は皆うつむいて、その表情は見えず、また、俺のようなよそ者が歩いていても、そのことに気付く様子もない。

 道の両側に、砂色の建物が連なっている。それらは、人間たちの目には確かであるように見えるのだろうが、俺の目には大きな掘っ建て小屋が並んでいるように見える。

 通りに面した店は、どこも閉まっていた。ただ一軒、バーだか喫茶店だか分からないが、小さな店が、まるでこの街を覆う砂塵さじんに隠れるようにして、ひっそりと営業していた。


「いらっしゃいませですにゃー」


 狭苦しい店内は粗末なカウンターで仕切られており、その向こうには店主が一人立っていた。店主の頭には猫耳が生えている。


「なんだ。見ない顔だな」


 カウンターのこちら側には先客がいた。恰幅かっぷくのいい中年男だ。


「どっから来た、毛深い兄弟。観光か? まさか仕事じゃないだろう」


 赤い肌に、しわしわのワイシャツが貼り付いている。白髪しらが交じりの頭をこちらに向けて、黒い瞳には、俺と、店の戸口の形が映り込んでいる。


「アラスカだ」

「あ?」

「アラスカだ」


 俺の返事に、男はぴんと来ない様子だった。どうでもいいか、そう思ったのだろう、男は次のように言ってきた。


「まあいい、座れ、兄弟。おい大将、あれを出してやってくれ」

「あれですかにゃー。分かりましたにゃー」


 店主が白い皿を差し出してきた。皿の上には、しわくちゃの紙を丸めたような、灰色の何かが載せられている。


「ピキですにゃー。コーンミールから作りますにゃー。ウィキ某と、英語の辞書と、他の色々でも確認したので、間違いないですにゃー」


 店主のげんは頼りなかったが、俺は出された物を口にした。味は……。


「うまいだろう、兄弟」


 男の座っている向こう、カウンターの一番奥に、テレビが置かれている。

 そのテレビへと目を向ける。窮屈そうな画面の中で、競走馬たちがパドックを周回している。

 作り物めいた緑が、それでも、馬の毛色との対比で、互いを浮かび上がらせる。


「ああ、アラスカだ。思い出した」


 不意に男が声を上げた。


「女だ。そいつは、俺の女だったんだが」


 そこで言葉を切る。男の表情は、あまり幸せそうなものではなかった。男は、俺が話を聞いていることを確かめると、再び口を開いた。


「旅に出ると言うんだ。理由は、俺には理解できないものだった。なんだか下らないことを言っていた」


 猫耳の店主は、テレビの方を見ながら、食器を拭いている。


「俺は行くなと言った。だけどそいつは、どうしても行くと言って、聞かなかった」


 テレビの中では、アナウンサーが馬の解説をしている。連なるそれらは、回転木馬のようにも見える。

 男は、夢の中にいるような表情で、話を続けた。


「俺は、女がどこへも行かないように、三日三晩、女の家を見張った。俺はいつまでもそうしているつもりだったが、四日目の朝、俺は眠ってしまった」


 男は無表情に続けた。


「それで女は行ってしまった」


 それで男の話は終わりだった。ややあって、男は、俺の顔を見据えると、次のように言った。


「北へ行くと言っていた。知らないか」


 すがるような表情を浮かべた男に、俺は努めて気楽な調子で答えた。


「ああ、知ってるぞ」

「まさか。本当か」

「南から来た女だろう。泳いで越境するところだったから、俺が捕まえた」


 男はかぶりを振った。


「信じられん。だが、あの女ならやり兼ねん」

「ああ、そうだろう。そういうやつだ。だが安心しろ」


 そう言ってしまってから、何が安心なものかと俺は思った。だが俺は続けた。


「捕まってもなお、女は旅を続けようとした。俺はどうしようかと思って、まずは女の足を切った。両方の足を、付け根からだ」


 猫耳の店主は、座り込んで、テレビを見ていた。

 男は、何を言われたのか分からない、というような顔をした。

 俺は続けた。


「だがそれは間違いだった。新しい足が生えてきた。それはイルカのような尾びれだった」


 男は眉をひそめた。俺は話を続けた。


「女の尾びれを縄でつないでから、次に、俺は女の両腕を切った。足と同じように、付け根からだ」


 男の表情が険しくなった。だが俺は構うことなく続けた。


「それも間違いだった。新しい腕が生えてきた。それはカラスのような翼だった」


 今や男は叫び出さんばかりの形相で、それでも黙って座っていた。俺は続けた。


「女の翼に網を巻き付けてから、次に、俺は女の首をはねた」

「貴様!」

「店の中で暴れられては困りますにゃー」


 男はコヨーテになって、なんの工夫もなく飛び掛かってきた。だからそれは本物のコヨーテではなかった。

 俺が男を殴り飛ばすと、男は店の壁に突っ込んだ。安普請の小さな建物は、たったそれだけで、ばらばらになってしまった。


「これでは商売上がったりですにゃー。困りましたにゃー」


 トランペットの音が聞こえたような気がした。

 その音に呼ばれたのか、騒ぎを聞き付けたのかは分からないが、周りの建物から人間たちがぞろぞろと出てきた。人間たちは、色取り取りの防護服に身を包んでいた。

 男は倒れたまま起き上がれずにいたが、やがてその身をくねらせると、大きなヘビになった。

 ヘビは俺に巻き付いて、ぎりぎりと締め上げた。鋭い牙でかみ付こうともしたが、それだけだった。だからそれは本物のヘビではなかった。

 俺が少し力を入れてやると、作り物のヘビはぐったりとして、砂っぽい舗装の上に転がった。


「ありましたにゃー。テレビですにゃー」


 店の残骸の中から、猫耳の店主がテレビを掘り出した。

 画面にはゲートが映し出されていた。サラブレッドたちが土の上を歩き、枠の中へと吸い込まれる。

 転がっていたヘビが、ゆらゆらと立ち上がった。それはクマになった。


「スタートですにゃー」


 ゲートが開き、突撃が始まった。クマはうなり声を上げて向かってきた。

 俺たちは相対あいたいすると、二人とも立ち上がり、互いに前足を振るって、殴り合った。

 ひづめの音が大きくなり、銃声も聞こえてきた。銃弾の何発かは俺たちに命中し、他の何発かは防護服の人間たちに当たった。

 俺たちは血を流しながらも戦い続けた。風穴のいた防護服たちは、血を噴き出してしぼんでしまった。

 俺たちに直接向かってくる者もいた。そいつらは、俺たちの毛皮の下敷きになった。

 猫耳の店主は、瓦礫がれきを積み上げて何かを作っていた。


「出来ましたにゃー。かまくらですにゃー」


 砂色の雪洞の、祭壇のあるべき場所には、テレビが据えられていた。

 第四コーナーを回って、あと少しでゴール、というところで、映像が切り替わった。

 ニュース番組のセットに、スーツ姿の猫耳の男だ。


『番組の途中ですが、ニュース速報をお伝えしますにゃー。つい先ほど、ついさっきですにゃー、ロシアのどこか、どこでしたかにゃー、どこかのミサイル基地から、大陸間弾道ミサイルが発射されましたにゃー。あと数分で、アメリカ本土に着弾しますにゃー』


 これを聞いた人間たちは、パニックになって騒ぎ始めた。アラスカを含むあちこちから、迎撃ミサイルが発射された。

 迎撃ミサイルの一発はノーコンで、あさっての方向に飛んでいった。

 もう一発は、命中する直前で、ロシアのミサイルがひょいと軌道を変えた。

 他の一発は、別の一発と衝突して爆発した。

 残りのミサイルは、俺が面白半分で前足を振るうと、この世のどこにも存在しなくなった。

 飛んできたミサイルには、ロシア語で————


————AH NH O————OM————


「おっと、逆か」


 アメリカ本土の上空で、空色のICBMが炸裂さくれつした。

 地上へ向けて、何かがばらまかれた。


「これはアイヌ……ではなく、アイスですにゃー。アイスが降ってきましたにゃー」


 それはエスキモーだった。五億本のアイスクリームバーが、アラスカとハワイを除くアメリカ全土に降り注いだ。


「これは……とってもおいしいですにゃー。ニャンダモですにゃー」


 数の上では全員に行き渡るはずのエスキモーだったが、二度三度と摂取する者も後を絶たず、全員が口にするよりも先に、五億本はなくなってしまった。

 アイスのお礼をどうするか、議論が始まった。

 最初に提案されたのは、ハリウッド映画のタダ券を配ることだった。だが、このアイディアには批判が相次いだ。

 ハリウッド映画では、ロシアはいつでも悪役だ。そんな映画がお礼では、さすがに失礼だろう、と言うのだ。

 また、アイスそれ自体にも問題があった。

 一つは、アイスの名前が人種差別的であるということ。もう一つは、五億本という数によってもたらされた、アイス市場しじょうの混乱。

 食べ損ねた者たちの不平不満もあった。

 議論は紛糾し、アメリカの分断は深まった。ロシアの陰謀を主張する者も増えていった。

 一方のロシアでも、今回の『アイス攻撃』に対する批判的な見方が強まっていた。

 情報公開を求める声が日増しに大きくなり、ロシア政府は、五億本のアイスは五百本のアイスの発注ミスであったこと、それは大統領の誕生日を祝うためであったこと、アイスの購入には税金が使われたことを認めるに至った。

 ロシアはソ連崩壊以来の大混乱に陥った。


 *


「なあ」


 クマになった男が、血まみれの顔で言った。


「女は……女の、あいつの首は、どうなったんだ」


 俺は上空を指差した。赤黒く染まった指で。


「ロケットだ」

「あ?」

「旅は終わらない」

『カラス』は『ワタリガラス』とお考えください。


この作品は『5ちゃんねる』の『安価・お題で短編小説を書こう!』というスレッドへ投稿するために執筆されました。

もしご興味がありましたら、スレの方に(過疎ですが)遊びに来ていただけるとうれしいです。

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