宝物庫の門番と、世界にたった一つのお宝
世界にたった一つといわれるお宝を守る森の門番が居た。
そいつは、能天気で優しく、警戒心のない門番にふさわしくない男だった。
名前は、ファウスト。
ある貧乏な家族が、彼のもとに来て泣きついてきたとき、ファウストは迷うことなく自身の真珠のネックレスをその家族たちに与えた。
「このご恩は忘れません!」
そう言って、彼らはその場を去っていった。
しばらくして、大きな叫び声がしたが、ファウストはそれが歓喜の声だと思い、次に貧しい者が訪れたら自身のエメラルドの指輪を渡そうと思っていた。
――しばらくして、先ほどの家族の父親が頭部から血を流して、ファウストの所までやって来た。幹に頭でもぶつけたのだろうか。
そんなことを思っていたファウスト。
「娘さんと母親はどうしたんだい?」
その質問に、男はナイフで答えた。
硬い鎧を着ているファウストには何がしたいのかわからなかった。
ナイフは簡単に折れてしまった。
「殺されてしまったよ。お前がくれたネックレスに目がくらんだ盗賊たちによって」
ファウストの鎧に両手で殴りかかって「畜生!」と叫ぶ男を見て、彼は憤怒した。
そして仇討ちをすることを約束する。
その間、ファウストは門番の代わりを男に任せた。
アメジストの剣。ダイヤモンドの鎧。
そして、エメラルドの指輪。
これらを、男の服装と入れ替えて。
ファウストは、初めて着る質素な服装にぎこちなく思いつつ、一本の短剣を持って、盗賊のアジトを探す。
しかし、いくら探しても、そんなものなどなかった。
不審に思い、ファウストは宝物庫まで戻ると、彼と入れ替わった男が中身を物色していた。
「何をしている!」
木陰から誰かの長い脚が伸びた。
それにずるっと足をとられて転倒したファウストは、見覚えのある親子と再会する。
「あなた方は」
「だましてごめんね。でもあなたバカだったから」
そう。
彼らは最初からファウストをだましてお宝を盗む計画を立てていたのだ。
軽装備の彼の首は簡単に切り落とされた。
アメジストの剣によって。
「硬貨がいっぱいっすねぇ」
「うるせぇ。いいからとっとと珍しいモン探せ」
必死に世界で一つだけのお宝を探す盗賊たち。
しかし、一向に見当たらない。
次第に、しびれを切らした一行が、宝を巡って殺し合いを始めた。
それは最後の一人になるまで続く。
「なんだよ……それ」
残った一人が呟く。
宝物庫の奥にはこう書いてあった。
――倉庫の中に宝あり。一つ減ってまた二つ減る。残った宝は一つなり。
そして、残った者の背後には、もう一人の黒い影が……。