灯りを得る
「コレが……! コレが『怨慈刀』…… 二つ名は『黒鬼』……!」
引き抜かれ、灯りを映した刃が景色と視線を反射する。
件の刀をリクオが手にし、震えていた。
ヤバい発作ではないらしい、皆が放置するのでルーも倣った。
彼女にはヤバい発作との差異が解らなかったが。
ここで取引はしたが、実際に現金のやり取りはしない。
普段から大きな金を持ち歩くというのは危険だから、代わりに『契約』で立て替える。
証明環というアイテムに契約書を取り込み、必要な時に現金を受け取るのだ。
契約の口上を終えて、ルーは自分の腕輪に証明環を戻した。
(やった……! これで軍資金は、充分の筈)
口許が弛み、口角が上がる。
だらしなくも見えるが、良い笑顔だった。
この後はカイがクランへの加入手続きをすると言っていたが、まだルーへの詳しい説明はない。
「タクト、話は聞いた?」
「はいよ、リンドから大体。この後の予定は分かった」
「ようっし! じゃあまずは在処刷新だよ!」
カイは嬉しそうにそう言うと、座っているルーの手を引いて立ち上がらせ、来た通路を戻り外へ出る。
目的地は、神殿だ。
ルーは以前にも、神殿には頻繁に来ていた。
「ちょっと、あの」
「え、あ、説明足りなかった?」
説明自体がなかった。
その言葉を飲み込み、再度ルーは訪ねる。
「コネクト、って何ですか」
「コネクトは、タクトの技能って言うかなぁ…… ね?」
わずかに言い淀むカイだが、単に詳しくないだけの様で、一緒に歩くリクオに丸投げした。
「人と人との縁を新たに結ぶという、職能神官の秘技だ」
「秘技ですか」
「効果は、クラン員同士の位置把握が任意で出来たり、報酬の分配定義が討伐者有利じゃなく、完全等分にも出来るとか…… まぁ細かく指定出来んだよ」
どちらもメリットでありデメリットだが、ルーは言うことをあまり聞いておらず、上の空の様なので、リクオはそのまま流した。
(また後で…… ルットさん辺りに説明してもらおう)
「でも、これも個人で変えられるからダイジョブよ?」
カイが分かるところだけ説明したが、ルーはやはり聞いていない。
(まったく、あんなヤツが職能神官様だなんて!)
どうやら別の事が気に食わなかったらしい。
「大丈夫か?」
「えっと、へーきです」
「都合悪いなら、また明日でもいいのよ……?」
「いえ、お構い無く。私、何をすればいいのですか?」
職能神官は、普段から顔を見せない神聖視された存在だった。
ルーが普段からこの神殿に足繁く通う理由の三割程が、かの神官だった事は間違いない。
そして、バラされた正体は軽薄そうな男。
まだ、ルーの中では納得出来ていなかった。
「本当に大丈夫か……?」
「うん。では説明するね。洗礼は受けてるでしょ?」
「もちろん」
洗礼は十五才で成人する時に受ける、職能の神の『選択の洗礼』だ。
職業を得るためには必要不可欠である。
「更に職業を極めるのがクラスアップ、別の職能を得るのがジョブチェンジ…… ま、ここら辺は常識か」
「で…… 具体的にはなにを」
「職能を認める神の御前で、冒険者ギルドの登録書に職能神官か貴族が認めた証を足して、キミが一族に加入するのを見ていてもらうの。立ち会いね。チーム入りに似てるけど、家族になる、みたいなカンジ」
「……ソイツのしるしですか…… はい……」
納得できない事は本格的に避けて考える事にした。
そして質問に返された答えに、求めていた『答え』がある事に気づく。
「……職能神官、様は、貴族と同等、なのですか?」
「あぁ、まぁそうだな……」
「政治、経済的以外の権限に限るけどね」
もう神殿に足を踏み入れていたので、覆いの付いたローブを被り、言いながら祭壇に向かうタクト。
「それなら、さっきまでのスケベな視線とかは許します」
ルーは祭壇に進みながら、態度は固いまま、話し続ける。
「権威に興味があるとは思わなかったな。冒険者の大体がそうだとは…… まぁ、思い込みか」
「後で…… お願いしたい事があります」
「良いけどね。まずは…… コネクトだ」
「はい」
「宣誓するは、我が名とともに……」
彼女の言葉を遮るように、神官は言い、場は整った。
他の神官と街人が下がるのを待ち、持ってきた長杖を構え、祝詞を紡ぐ。
神殿の中に巡らされている水路が波打ち、静寂に水音、さざめきが響く。
「……新たなる旅人よ、くつわをならべ、いとたかき場所へ進め……」
(……)
「空を巡る雲となりて…… 雪運ぶ風となりて……」
(…… 長い……)
。
。
。
約10分後、儀式の長さに草臥れたルーは、気疲れを引きずり、用意された部屋で休んでいた。
頼みたい事も忘れる程、長々とクドイ儀式だった。