希望を得る
《シャリィイイィィ……》
「……これはっ」
虹色の光は回りながら、何かの影を孕んでいた。
「普通でも、レアでもない…… まさか!」
このパターンは、彼女に覚えがなかった。
「……超越品なの? これがっ……!」
虹色に光る渦。
少女は固唾を飲み、その光が収まるのを待った。
超越品、それは『魔窟』に挑み続けて一年で初めての獲得だった。
《リィィン……》
「……きれい」
小隊で彼女が解体したモンスターは優に三千を超えたが、一度として『超越品』は出なかった。
それこそチームの契約が更新されなかった理由だ。
彼女の加護アイテムである『幸運のメダル』の効果は、レアドロップや因り上のエクストラドロップを得る確率が上がる…… というのに、彼女の引きが悪いのか。
加護が働かなかったのか、はたまた他の理由か。
元チームメイトは、彼女に才能がないとして切り捨てた。
『お前、冒険者は向いてないんだよ。足りない分を他で埋めてくれるなら…… 考えるけどなぁ。他にもっと、魅力的なモノとか、さぁ……』
ニチャった顔の細身の男を思い出し、頭を振る。
もう関わりたくもないので忘れる事にしていたのに。
「……収まってきた……」
光の中から、丸い形をした影が浮かぶ。
両手に収まるサイズのそれは、木槌だった。
だが彼女にはそれがどういった使い方をするモノなのか、程度にしか解らない。
「コレの効果は何だろうな……」
《ガチャンッ》
遅れて、その向こうで何かが床に跳ねる。
解体した鬼族の死体、肉と血の跡は既にない。
光の渦が消えた後には、黒鞘に入った『刀』が落ちていた。
「……レアドロップ!? 二つもいっぺんに出るなんて…… 今日は本当にツイてる。だけど…… エクストラとレアって一緒に出るモンなの……?」
ルーが疑問にしたように、普通は出ない。
ここには、冒険者をサポートするギルドですら把握していない、公になっていない法則があるのだ。
この加護の発揮には『いくつか』の条件がある。
職業神『デウス・オペレス』が加護を与えた冒険者には技能という超越的な能力が与えられているのだが、それは条件によって働くモノも少なくはない。
それは加護も同じだった。
彼女の加護アイテムである『幸運のメダル』は金貨の形をしたペンダント。
……その本当の効果は。
・ダンジョンにて持ち主が戦闘に加わった場合の報酬品にレアドロップや因り上のエクストラドロップを得る確率が上がる。
・本人が取った行動で高いダメージを受けている事により、更に超越品が出現する可能性が上がる。
・本人が解体すると、レアドロップの確率が跳ね上がる。
・また、解体し出なかった回数分はカウントされ、報酬でのレアドロップ出現率上昇への補正数値として適用される。
・そして、本人が戦っている場合のみ『二重ドロップ』の確率が発生し、こちらにも上昇補正数値は適用される。
今までチームが経験値欲しさに自分達だけで倒した獲物を『戦闘に参加していない』ルーが解体していたため、条件が整っておらず、エクストラどころかレアも出るハズがなかった。
しかし解体作業は繰り返され、『出現率上昇補正』だけがとてつもなく加算されていた。
チーム『ラウマリアの矢』には職業神の嫌う異世界からもたらされた卑怯を使用する人物が居たので今の様な現象が起きる可能性は元よりゼロだったのだが、これはまた別の話。
「うはっ、これ、この刀はたぶん高値が付くわ。今までの寂しい食事とも、これでオサラバっ……」
かくして、彼女は最後の賭けに勝った。
本人は理解していないものの、その加護で大金を得られたのだ。
これこそが冒険者と、為し遂げた瞬間である。
「さあ、後はこの…… 木槌……」
大型の、しかも深層モンスターからの、超越品。
今まで見た事もない、持った事もなかったモノ。
「……どうやって使うモノなのかな……」
虫眼鏡型のアイテム『鑑定者』を構える。
あの黒鬼から得られた木槌とは何かと、彼女が問うと。
視界の中に情報が流れた。
『打出の小槌・黒天:神話級
使用限度50/50
[魔窟内部では無制限(使用範囲に本体含むため)]
マレット・オブ・ラック : ダンジョン内部では、使用した範囲内の消耗品、損耗品を回復する。アイテムの種類の制限無し。
: ダンジョンの外では、使用者へ金銭的な祝福効果を発揮するが、使用時に鐘の音が聞こえるとこの効果は失われる。
……世界に3本のみの打出の小槌。持ち主に富と豊かな食事をもたらす』
「……ちょっと意味がわからない」
無理もないが、内容が突飛過ぎた。
等級が最高値なのは理解できても、効果が理解不能。
彼女は完全に解らないが…… でもそのままではいられないと、声に出し読み上げた。
「消耗品を回復…… じゃあ、この『火焔の杖』を」
恐々と、小槌を軽く叩きつけ、鑑定者で見てみる。
《カキィン、イィン……》
「まっマジなの……」
鑑定結果には、使用回数と耐久値が新品状態りだと表示された。
確認したルーは、その『効果』に愕然とした。
武器や防具は鍛冶職人が回復できるが、アイテムの消費はどうしようもない…… 魔道具ともなれば、魔法使いに補充してもらうしかなかったのだ。
しかしこの『打出の小槌』なら、今まで恐々使っていたすべてが使用限度を気にせずに使い回せる。
「うーわ、スゴイ、スゴいこれ!」
とりあえずは、と今の装備全てに小槌を振る。
驚く事に、中身が無くなっていた濃縮酸袋に試したら中身が戻った。
真っ二つに割れていた小盾は、それぞれが一枚の盾になってしまったのだ。
試しに、刀の鞘をナイフで二つに開き、刀を添えて小槌を振るうと…… 鞘だけが増えた。
柄の金具を外して小槌を振るうと、刀へと飛んで付いた。
武器には他の神の加護があるため、そう変化させられないのだが、ルーはなんとなくそういうものだと理解し、小槌を胸元に潜ませた。
その時。
「これは? っおい、そこの冒険者!」
ルーの頭上から声が響く。
複数の男の声と、女の声…… 騒いでるのは仕方ない。
この部屋のトラップが発動すると、壁際一人が歩ける幅の床以外は全て落ちてしまい、チームの冒険者は大変な目に遭うためだ。
「大丈夫か? 助けがいるか」
ルーは胸を撫で下ろす…… 悪い人たちではないと安心したと同時に、木槌は見られていない様だったから。
「だいじょーぶです、上がれます」
素材は鞄の中にあるが、刀はまだ手元。
しかも、鞘だけ二本あるなど、不審に見られるに決まっている。
急いで素材と刀を纏めて仕舞い込み背負い、ロープを登る。
現れた見知らぬチームは、皆銀の装備を着けていた。
「ほら、掴まれ」
「ありがとうございます……」
「そんだけデカイ荷物背負って、この高さを登りきるとは…… 中々体力ありそうだな、この娘」
手を貸した男は苦笑いだが、口出し男には仕打ちが待っていた。
大槌を背負った大女が背中に平手打ちをしたのだが、部屋中に響く程の音が出た。
《バチィインッ!》
「っだぁっ!?」
「女だからって下に見んなっつってんだろ」
「カイさんの事じゃねえっすよ!?」
「おお、アタシは女じゃねぇって?」
「言ってない言ってない」
殺伐と長閑が混在しているやり取りの中、手を貸してくれた男性だけは、にこやかにルーを見ている。
いや、目は笑っていなかった。
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