追放
薄闇の広がる平原の中、煌々と夜を裂いて照らす丘、正確には丘を囲む街があった。
高まりの半ばに大きな扉があり、開かれたそこからは幾人もの人々が出入りしている。
魔窟と呼ばれる、危険で、しかし夢の様な『宝』の眠る場所。
冒険者達は、皆が皆この深層を目指し、宝を夢見ている。
魔窟の攻略から、次々に街へと帰ってくる人々。
その背中には、命懸けで勝ち取ってきた財宝の山。
武器防具の『素材』や、美しい『宝石』や、珍しい『武具』、『魔法の道具』。
ダンジョンで得られた何もかもが、その隣に作られた『魔窟街』を潤し、ヒトを潤している。
その酒場では、いつも通りに祝杯を上げる下卑た男の声、宝石に見惚れる女の姿などがあり。
この日のこれも、街の日常風景の中、やはりありふれた会話だった。
「さて、アイツをどうするか、だが……」
「期限だものね…… 仕方ないわ」
「解雇だクビ、そういう約束だろ」
攻守共に優れるリーダー、大剣士のバッサ。
拳闘士のエレナ。
細剣騎士リヒャルト。
彼等の話すお題は、最年少の『調合士』の娘をどうするのか。
パーティーのお荷物扱いされている少女の名前は『ルー』。
彼女には皆の様な有益な力が無かった。
それでも『職能の恩恵』を発揮していればパーティーへの貢献が出来たハズ、だからこの『ラウマリアの矢』に入れたのに。
しかし何も得る事のないまま、契約期限が経過しようとしていたのだ。
戦闘報酬で超越品と呼ばれるアイテムが手に入ればそのまま在籍出来たのだが、一年間、全く、現れる気配すら無かった。
「他に入りたがってる奴だって居るんだ、もう彼女を特別扱いは出来ない」
「そうよね…… 何でレアすら出せなかったのかしら」
「は~あ、使えねぇ女だったな」
トップの言葉に続いて、パーティーメンバーも口を開く。
皆に酒が入っていたが、少女に対する意見には潤滑油になっていた。
「罠とか魔物の種類とか…… 色々、覚えだけは良かったがな」
「解体以外で、何かの役に立ったコトあったっけ?」
「ナイフも貸してくれないケチだったもん、いらないでショ」
「アンタが何でもパクるからじゃん?」
「あの娘、金はほとんど貯めてたらしいし平気よぉ」
「全ては神の試練。彼女にも、新たな道があるでしょう」
「無能の道なんざ農奴だろうよ」
「そうなったら、案外幸せに思うのかもね」
「毒も薬も魔法もない生活、アタシにはもー考えられないねー」
「一攫千金の酒、コレなしも考えられねーな」
「違いない」
野太い笑い声と、甲高い笑い声がどっと響く。
何に対してのものか分からないまま、皆が乾杯を繰り返していた。
女探索者が、酒瓶を振りながら騎士へ怒鳴る。
「ヒャルくん、ほとんどのヒトが追放賛成だってェ!」
「凡人が俺達と一緒に居られただけ喜んでろ、だよなヒャルくん」
「……男はその呼び方ヤメロよ」
「ヒャルくん、あの娘の事気に入ってたものね」
「ツラはな」
「ガード弛めて女の幸せでも見付けろってなぁ」
「ヘンケンよ? ま、取り柄のないアイツにはピッタリかも」
「結果出せない弱者だったね」
実績のある彼等と比較すれば、彼女は凡人もいいところだが。
エレナの同郷というだけでパーティーに入ったのだし、それに甘えるのも限界だとリーダーは言う。
「もう諦めてもらうしかない…… 実力の無い奴をダンジョンの中へ連れて行って、命を失うのは彼女かも知れないが、巻き込まれるのは俺達だ」
「そうよね……」
自分達の安全の為にも、彼女だけ構っている暇はない。
彼女を庇うのは、もう限界だ。
何も利益のない少女を、一流を目指す冒険者の中には置いておけない。
それは、少女の為にも。
エレナはそう自分に言い聞かせた。
少女に色目を使う輩もいるからだ。
「俺は優しく、パーティーにカウントされない『荷運び』としてなら雇い直してやれるって教えてやったから、そのうちに頼ってくるさ」
「あー、ヒャルくん、いやらしい」
「パーティー内でなけりゃ、何かあってもリーダーから咎められないしなぁ」
「うぅるせぇよ、黙ってろ」
重厚なリーダーの声と軽薄な騎士の声がエレナを悩ませるが、成果は出なかったのだから再考の余地はない、仕方ないと結論付けた。
宿屋に先に向かった彼女には、翌日『解雇』が突き付けられる。
パーティーとしての契約日のちょうど一年目。
ルー・ストーンは16才、冒険者としての岐路に立たされていた。
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