表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/17

追放




 薄闇の広がる平原の中、煌々(こうこう)と夜を裂いて照らす丘、正確には丘を囲む街があった。


 高まりの半ばに大きな扉があり、開かれたそこからは幾人もの人々が出入りしている。


 魔窟(ダンジョン)と呼ばれる、危険で、しかし夢の様な『宝』の眠る場所。

 冒険者達は、皆が皆この深層を目指し、宝を夢見ている。


 魔窟(ダンジョン)の攻略から、次々に街へと帰ってくる人々。

 その背中には、命懸けで勝ち取ってきた財宝(たから)の山。


 武器防具の『素材』や、美しい『宝石』や、珍しい『武具』、『魔法の道具』。

 ダンジョンで得られた何もかもが、その隣に作られた『魔窟街(ガーデン)』を潤し、ヒトを潤している。


 その酒場では、いつも通りに祝杯を上げる下卑た男の声、宝石に見惚れる女の姿などがあり。

 この日のこれも、街の日常風景の中、やはりありふれた会話だった。



「さて、アイツをどうするか、だが……」


「期限だものね…… 仕方ないわ」


解雇(クビ)だクビ、そういう約束だろ」



 攻守共に優れるリーダー、大剣士のバッサ。

 拳闘士のエレナ。

 細剣騎士リヒャルト。


 彼等の話すお題は、最年少の『調合士(シェイカー)』の娘をどうするのか。


 パーティーのお荷物扱いされている少女の名前は『ルー』。


 彼女には皆の様な有益な力が無かった。

 それでも『職能の恩恵』を発揮していればパーティーへの貢献が出来たハズ、だからこの『ラウマリアの矢』に入れたのに。


 しかし何も得る事のないまま、契約期限が経過しようとしていたのだ。

 戦闘報酬で超越品(エクストラ)と呼ばれるアイテムが手に入ればそのまま在籍出来たのだが、一年間、全く、現れる気配すら無かった。



「他に入りたがってる奴だって居るんだ、もう彼女を特別扱いは出来ない」


「そうよね…… 何でレアすら出せなかったのかしら」


「は~あ、使えねぇ女だったな」



 トップの言葉に続いて、パーティーメンバーも口を開く。

 皆に酒が入っていたが、少女に対する意見には潤滑油になっていた。



「罠とか魔物(モンスター)の種類とか…… 色々、覚えだけは良かったがな」

解体(そざいあつめ)以外で、何かの役に立ったコトあったっけ?」

「ナイフも貸してくれないケチだったもん、いらないでショ」

「アンタが何でもパクるからじゃん?」

「あの娘、金はほとんど貯めてたらしいし平気よぉ」

「全ては神の試練。彼女にも、新たな道があるでしょう」

「無能の道なんざ農奴だろうよ」

「そうなったら、案外幸せに思うのかもね」

「毒も薬も魔法もない生活、アタシにはもー考えられないねー」

一攫千金(しごとのあと)の酒、コレなしも考えられねーな」

「違いない」



 野太い笑い声と、甲高い笑い声がどっと響く。

 何に対してのものか分からないまま、皆が乾杯を繰り返していた。

 女探索者が、酒瓶を振りながら騎士へ怒鳴る。



「ヒャルくん、ほとんどのヒトが追放賛成だってェ!」


「凡人が俺達と一緒に居られただけ喜んでろ、だよなヒャルくん」


「……男はその呼び方ヤメロよ」


「ヒャルくん、あの娘の事気に入ってたものね」


「ツラはな」


「ガード弛めて女の幸せでも見付けろってなぁ」


「ヘンケンよ? ま、取り柄のないアイツにはピッタリかも」


「結果出せない弱者だったね」



 実績のある彼等と比較すれば、彼女は凡人もいいところだが。

 エレナの同郷というだけでパーティーに入ったのだし、それに甘えるのも限界だとリーダーは言う。



「もう諦めてもらうしかない…… 実力の無い奴をダンジョンの中へ連れて行って、命を失うのは彼女かも知れないが、巻き込まれるのは俺達だ」


「そうよね……」



 自分達の安全の為にも、彼女だけ構っている暇はない。

 彼女を庇うのは、もう限界だ。

 何も利益(メリット)のない少女を、一流を目指す冒険者の中には置いておけない。

 それは、少女の為にも。

 エレナはそう自分に言い聞かせた。

 少女に色目を使う輩もいるからだ。



「俺は優しく、パーティーにカウントされない『荷運び(ポーター)』としてなら雇い直してやれるって教えてやったから、そのうちに頼ってくるさ」


「あー、ヒャルくん、いやらしい」


「パーティー内でなけりゃ、何かあってもリーダーから咎められないしなぁ」


「うぅるせぇよ、黙ってろ」



 重厚なリーダーの声と軽薄な騎士の声がエレナを悩ませるが、成果は出なかったのだから再考の余地はない、仕方ないと結論付けた。


 宿屋に先に向かった彼女には、翌日『解雇(クビ)』が突き付けられる。

 パーティーとしての契約日のちょうど一年目。

 ルー・ストーンは16才、冒険者としての岐路に立たされていた。






ご覧いただきましてありがとうございます。

下の☆マークやいいねをしていただけると作者が喜びます☆

ブックマークされるとやる気にブーストがかかります☆

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ