夢の欠片Ⅴ
世界はきっと 無数の灰で出来ている
───────
硝煙のにおい。
降り注ぐ火の粉。
異形の血にまみれた自分の手。
ぐったりとして動かなくなった少女の体。
ああ、まただ。
アルテアは思う。
またこの夢だ。
もう何度も同じ夢を見ていた。
自分と少女との最後の記憶。
なぜ繰り返しこの夢を見るのか、アルテアにはわからない。
ひとり生き残った自分を、少女が恨んでいるからかもしれない。
「こよみ……。い……。……に……ね」
少女は最後になんと言ったか。
それは怨嗟の言葉だっただろうか。
そこだけが聞き取れない。
まるでノイズがかかったように届かない。
少女の顔も思い出せない。
闇がかかったように、黒く塗られている。
やはり、自分を恨みながら死んでいったに違いない。
そう思った。
一緒に広い世界を見に行こうと約束したのに。
最後に自分は彼女の傍から離れてしまった。
戦いから逃げてしまった。
だから彼女は死んだ。
同じチームの仲間も死んだ。
みんなみんな、死んでしまった。
少し前まで笑いあい夢を語っていたはずなのに。
その夢も、熱も、笑顔も、未来への希望も、
何もかもが失われ、全てが一瞬で灰へと変わった。
異形に喰われたコドモは死体すら残らない。
彼らが生きていた証さえ無くなってしまう。
大人の記憶からもすぐに消えてゆき、忘れ去られて永遠の死を迎えるのだ。
それは、あまりにひどすぎるだろ。
だからせめて、自分だけは覚えていよう。
彼らが確かに生きていたということを、己の胸に刻み込む。
そして自分たちは生きていたのだと、腐りきったあの世界の大人たちにも教えてやるのだ。
やつら──教祖の戯言で何人のコドモが死んでいったのか、わからせてやらなければならない。
きっと、彼女たちもそう望んでいるはずだ。
だからこそ、自分はもう一度生きることを許されている。
そのはずだ。
自分の胸の中で燃える暗い炎。
少女の死に様を見て、アルテアは思う。
──ああ。世界は、無数の灰で出来ている。




