悪夢
動かなくなったはずの少女の目が突然ぎょろりと見開かれた。
血に染まった目で少年を睨みつける。
「裏切り者」
少女の冷ややかな声が耳を打った。
氷の刃で身体を切り刻まれるような感覚だった。
そして同時に深い憎悪を感じた。
そうだ。自分があの時、最初から一緒に行っていれば彼女は
死なずにすんだのかもしれない。
「きみだけ幸せになるなんて、そんなこと許されると思ってるのかな」
これは夢だ。彼女がこんなことを言うわけが無いと頭では理解していた。
しかし、たとえ夢だとしても彼女の口からそんな言葉は聞きたくなかった。
耳を塞ごうとしたが、両腕が破裂した。
やはり夢だ。
痛みはない。
目を閉じようとすると、瞼が焼けた。
痛みはない。
逃げ出そうとしたところで、足が潰れた。
痛みはない。
「きみが幸せになるなんて、そんなの無理だよ」
少女が無慈悲に告げた。
そんなこと、思ってもいなかった。
「俺はただ……皆の仇を……」
そこまで言ったところで、喉は腐り落ちた。
「こよみ……」
名前を呼ばれてずきりと胸が痛んだ。
「しんで」
やがて彼の身体は風船のように膨らみ破裂して、
肉片となって闇の中を漂い続けた。




