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予感

異端教徒と戦っていたところから少し、鬱蒼とした森の中を歩くと洞窟が見えてくる。洞窟というよりかは横穴といったほうが正しそうで、人がふたりも入れば窮屈に感じる程の幅しかない。しかし意外にも奥は深いようで子供が隠れるにはうってつけの場所だった。


「おい、終わったぞ。もう出てきて大丈夫だ」


覗き込むように穴の中に向かって声をかけるが、帰ってくるのは反響した自分の声だけだった。


「まさか寝てる、なんてことはないよな」


独りごちつつ穴の中に入ろうとして、ガサガサと茂みが揺れる音が聞こえてすかさず振り返った。


茂みの中から小さな体がひょこりと出でくる。


「なんだ、外に出てたのか」


少女の顔を見て安堵する。


そして心配の裏返しか、少し険のある言葉が口をついて出る。


「危ないから中のいろって言っただろ。どうして外に出たんだ」


少女は口元をわずかに動かしたあと、伏し目がちにぼそりと言った。


「……おといれ」


風が吹いてざあっと木の葉が揺れた。


普段は表情の変化に乏しいイーリスが少し恥ずかしそうにしていた。


「えっと……ごめん」


アルテアは素直に謝った。



「終わった……?」


歩きながら、水魔法で少女の手を洗うアルテアが頷き返す。


「ああ、思ったよりあっけなかった」


「弱い?」


水を止め、火と風の応用で温風をつくりだす。


「いや、強かったよ。でも想定よりはーー」


そこではたと立ち止まる。


そう、想定だ。


自分はいったい何を見てまだ見ぬ敵のレベルを想定したのか。


先程から感じていた微妙な違和感の正体に思い至った。


砕かれた古竜特製の魔道具。


余波だけで焼き殺されそうになった程の悪魔的な威力の火炎魔法。


異端教徒も手練ではあったが、それらのことが可能なレベルとは思えなかった。


つまり。



ーーまだ敵はいる。



それもかなりの手練が。


隣を歩くイーリスの方を見て逡巡する。



ーーもう一度洞窟に隠れていてもらうか?


いや。アルテアは即座にその考えを否定する。


もしも今、どこからか監視されているとしたら彼女を人質に取られかねない。


ひとりにするのは得策とは思えなかった。


握った拳にぎゅっと力が入る。


空気の変化を感じ取ったのか、イーリスが呼びかてきた。


「……アル?」


「悪い、少し考え事をしてた」


なんでもないふうに言って再び歩き出す。


「ターニャも待ってるし、少し急ごう」


「ん。わかった」


二人は森を行く。


普段は陽の光が差し込むそれなりに穏やかなこの森も、空に厚い雲がかかり始めているせいで妙に薄暗かった。


時折、強い風が頬を打って森が鳴いた。


もうじき雨がくる。そんな気がした。

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