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遠藤直人転生記

プロローグ


目の前に広がるのは闇。

暗い。眠る前に意識が沈んでいく感覚に似ている。暗い。暗い。落ちていく。谷底へと。海底へと。地の底へと。落ちたくないーー

ロップは宙を仰ぎ見た。

遥か遠く、闇の中にぽつりとあの日と同じ空が見えたような気がした。


第1章

遠藤直人


目覚ましが鳴る。驚いて心臓がどきり、となるこの感覚が嫌いだ……毛布の中から手だけ動かしスマホを探す。うう。寒い。

充電器のコードが指先にひっかかりコードを引いてスマホを引き寄せ、アラームを止める。

7:05か、もう少し眠りたいな……半まで寝ても間に合う、昨晩Netflixでアニメを見すぎたせいか脳は睡眠を求めて甘い誘いを仕掛けてくる。

こういう時は大体脳の誘いに負けて甘い二度寝の世界へと堕ちるものだーー


俺は直立不動の姿勢でハゲ頭を凝視していた。

ハゲ頭の主は御目製作所営業第一課課長の五味だ。53歳、埼玉に一軒家を建てて電車通勤しており典型的なサラリーマン、なんの面白みもない黒縁メガネをかけ、ガマガエルのようにでっぷり太った顔に小さく鋭い目がこちらを威嚇するように光っている。

「また遅刻かね遠藤主任」

その目が嫌で、こういう時俺はいつも課長の頭を見つめる。

禿げた頭皮にサイドから持ってきた髪の毛が頼りなさげに横たわっている。

「君は主任なんだ、もう35歳なんだろう?養う家族もいる。自覚を持ってやってくれないと困るよ」

たしかに俺には妻がいる。

が、東京本社に異動が決まった時に俺については来ず、N県の実家に留まっている。

俺はと言うと安アパートを借りて家族に仕送りするためにあくせく働き、ガマガエルのような課長にドヤされる毎日……

希望も何もあったもんじゃない。

苛つく。

禿頭をじっと凝視する。

大地は荒廃し、魔素が充満している。草木は魔力に当てられて枯れ果て、代わりに魔界に生息するワカメのような長細い植物がまばらに根を張り大地は急速に荒廃を続ける……こんなとき俺は厨二病を発揮するとそれしか見えなくなり課長の小言を受け流すことが出来るのだ。荒廃せし大地に光の担い手よ降臨せよーくくく……


「遠藤主任?遠藤主任!聞いているのかね」

課長のダミ声で我に返る。また厨二病を発揮していた。危うく光の天使セラフィムを登場させる所だった危ない……


自分の席に戻ると、隣の席の若い男が顔をこちらに向け、にっと笑う。

「先輩、昨日はまたアニメ見てたんすかぁ?」

後輩の武田だ。26歳。高身長爽やかイケメンというやつだいわゆるリア充。それを鼻にかけない気さくさも併せ持つ。男の俺から見てもいい男だ。

「あぁまあな……昨日は弱虫ペダルシーズン2のインターハイがなかなかいいところでな……寝たのが午前四時だったんだ」

「うへぇ、相変わらずショートスリーパーですね?あ、先輩今日仕事終わり時間ありますか?飲み行きましょうよ!」

「お前この間彼女できたって言ってたじゃないか、彼女と会わなくていのか?」

「大丈夫ですよ!そういうの理解ある彼女なんです」

武田はニッと笑った。


飲みに行く店は武田とたまに行く居酒屋に決めた。

ここの焼き鳥は焼き加減が絶品なのだ。久々にあの野趣と肉汁溢れる鶏の腿にかぶりつけると思うと仕事も手につかなかった。夕方の街並みは仕事帰りのサラリーマンで混雑している。

白い息を吐きながらマフラーをまきなおす。

俺と武田が並んで歩いている前方から白いコートを着た若い女が近づいてくる。

「あ!ヒロト君!」

女は手を振りながらこっちに笑いかけてくる。……ん?なんだ?

「あ、ユキ!」

武田が女に手を振り返す。

……あん?なんだ?これは。

「先輩!俺の彼女のユキです!先輩に紹介したくて連れてきちゃいました」

「あ、あぁ、ゆきさんよろしく、武田君の同僚の遠藤です」

ユキちゃんは今どきっぽいメイクをした可愛い女の子だ。さすが武田イケメンなだけのことはあるな……こいつめ、彼女を見せつけるのが目的だったな?

焼き鳥を楽しみにしていた気持ちが少しくもったが、気を取り直し焼き鳥を楽しもうと再び歩き出した。

武田とユキちゃんが楽しそうに話すのを愛想笑いをしながら歩く。

なんだろう。

道を歩くサラリーマンは沢山いるのにどれはこの世界にひとりぼっちな気がする。

……

キキーッ!

甲高い音が鳴り響いた。

「うわぁっ」「ひぃっ」「逃げろっ」

前方から人々が口々に叫びながら逃げてくる。

一体何が起きた?人の頭越しに先を見ようと背伸びをするが何も見えない。

「先輩!逃げた方が良くないですか……?!」

「あぁそうだな、逃げよう!」

そう言って踵を返したその瞬間、視界に歩道をこちらへ突っ込んでくる白い乗用車が飛び込んできた。

「ーーー!」

武田がこちらを向いて何かを叫んでいる。

ダメだ、間に合わ……!

世界が真っ赤に染まった。

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