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侯爵令嬢の穏やかな生涯  作者: 柏鶏子
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中でもヴィオラはアレッシア様の話となると「存在がオスカル様のようなお方ね!」と言いました。


「オスカル様? ごめんなさい、不勉強でどなたか存じ上げないのだけれど…」

「気にしないで。アレッシア様を心の中でそう呼んでいるの」


 私は首を傾げました。オスカルってどういう意味なのでしょう? しかし私が口を挟むような意味合いではないでしょうし、ヴィオラがうっとりと目を潤ませているので頷くだけにしておきました。


「タロッツィ公爵家の一粒種だからとはいえ、乗馬に剣術、帝王学までお修めになっている傑物だもの。それに、美人で背も高くって、スレンダーでありながら色気と逞しさがあって、女性ならではの気遣いと貴公子のような振る舞いがそれはもう、もう…少女小説の登場人物のようだわよねえ…はあ」

「ヴィオラはアレッシア様がお好きなのね」

「そんな恐れ多いわよ、だってご挨拶したぐらいよ! でもそうね、フィニッシングスクールに彼女がいればさぞおもてになったでしょうね。…まあ、彼女が有名なのはその婿取り話が面白おかしいからなのよねえ…」


 ヴィオラが教えてくださいましたが、アレッシア様のお見合い話は社交界でも有名らしいのです。何でも、腕自慢の子息を剣術で打ち負かしたり、政治の話で盛り上がったと思ったらその子息よりも造詣が深いために彼が自信を無くして辞退してしまったり、街へデートに出れば悪漢に襲われた女の子を颯爽と助けて女の子に惚れられたり。

 特に面白かったのは共にキツネ狩りをすることになり恥をかかされたことを恨む子息が仕返しを企み山の中へ置いて行ったと思えば、仕留めたオオカミを担いで戻ってきたお話でしょうか。とにかく愉快で、愉快で、本当に物語のようです。


「知らなかったわ。アレッシア様は凄いお方なのね」

「タロッツィ公爵領が広大でも、婿入りを渋る人が多いのも頷ける傑物だもの。そうなのね…フランセイスから娶るつもりで…良いことを聞いたわ。

 それより、レシェク殿下はどうだったの? 会って、何かを感じた?」

「そうねえ、気が合うと思ったわ。一緒にお茶をしたり、空を見るだけでも楽しく過ごせそうだと思ったわ」

「…平和そうでよかったわ」


 ヴィオラが安堵の息を吐きます。私とレシェク殿下の仲でそんなに心配させてしまったのでしょうか? 親戚仲まで気を配ってくれるなんてなんて優しい友でしょう。仲良くできそうなので安心してねと笑うと、ヴィオラは気の抜けたような笑顔で返してくれました。


「学園で恋模様の中心になりそうね」

「え? ええ、そうね。レシェク殿下やアレッシア様たちは華があって素敵でしたもの」


 ヴィオラは片眉を上げて、「貴方は?」なんて聞いてきます。


「まあ、揶揄しないで。私に恋なんて早いわ」

「そうかしら、貴方ってすごく魅力的よ。可愛いし、勤勉で」

「ふふ、嬉しいわ。そういうヴィオラも凄く素敵だわ」


 ヴィオラが「はぐらかされた気がするわ」と口をちょこんと尖らせるものですから、私はヴィオラになら私の夢をお話してもいいように思えましたので、こそりと告げました。


「あのね、ヴィオラ。私の夢はね、悠々自適に暮らすことなの。ゆっくりお茶をしたり、本を読んだり刺繍したり、たまには詩をお勉強して書いてみたり…。死んでしまうかもしれないってベッドの中で思う度にね、私もう一度穏やかに過ごしたいって実感したのだわ。

 だから、恋や結婚はいいのよ。自分の為だけに生きたいの…我儘かしら」

「…いいえ、いいえ! そうよねエラ、貴方を慮るべきだったわ。貴方の夢はごくごく当たり前よ。私応援するわね!」


 ヴィオラに握られた両手が熱かったのはきっと体の内から込み上げるものがあったからでしょう。私は嬉しくって嬉しくって、何を言ったか覚えていませんがとにかくその気持ちだけが強く印象に残ったのでした。




「さ、長居してしまったわね。観光ついでに貴方より先に学園を見学してから帰るわね」

「まあ、ふふ。面白そうな蔵書があれば教えてね」

「勿論よ。…最後に、学園に通う心得、覚えているわね?」

「ええ、堂々としていること、“ありがとう存じます”“ご機嫌よろしゅうごさいます”“結構なことで”の三つを駆使すること、よく分からなかったらひたすら笑顔でいること」

「よろしい! 貴方、ここで婚約者を見つける気は、無いのよね?」

「どうしたの急に?」

「いいえ、でも婚約者を見つける気がないなら高位貴族に近づかないことよ! いつも仲のいい方と一緒にいること。わかったわね?」

「ええ、分かったわ」


 ヴィオラは不安そうな顔から一転晴れ晴れしくなり、別れの挨拶をしました。手を振りあって、病室の窓からヴィオラが見えなくなるまで手を振り続けました。


「お友達っていいものね」


 茶器を片付けていたベッカとルビーがニコリと微笑みました。



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