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侯爵令嬢の穏やかな生涯  作者: 柏鶏子
14/50

『親愛なるエラ


 ずっと文字だけで疲れると思って、今日は絵も書いてみる。

〔図:華奢な植物:五つの丸い花弁:細い茎の先に大きな花が付いており群生している〕


 この花はバターカップって言うんだ。黄色くて革のようにつるつるしていて、可愛らしいけど毒がある。寮の裏手の土地で、農学部の先輩が作物を栽培して研究しているのだけど週末になると「このバターカップめ!」って泣きながら除草しているよ。繁殖力が強いから栽培している作物が育たなくなるぐらい咲くんだ。綺麗なんだけど、一度除草をさぼったら畑一面バターカップだったってさ。

 それにこの花は可憐だから寮母さんは寮の花壇に生えていても何も言わないんだけど、塀を挟んだら畑だから、先輩たちは花壇から派生していると考えているから、どうにか除草したいと考えているみたい。

 毒と薬が表裏一体なのはエラも知っているよね? バターカップから薬を作れるから、薬学部の教授と先輩方がバターカップを栽培してって植物園にも農学部にも頼み込んでいるけど断られているところをよく見るよ。だからかな、この時ばかりは折り合いが悪いんだ。

「自生しているなんてことない花のために予算が下りるわけない」って声がよく木霊するよ。薬学部の皆様はわざわざバターカップを買うなんて、と思っていて、農学部の皆様は作物の仇でありながらあんな繁殖力の強いものをわざわざ栽培するなんて、と思っている。 

 だからバターカップが繁殖するこういう時の薬学部の皆様はすごく嬉しそうだ。農学部と先を争うように採取へ向かう後ろ姿もよく見かける。



〔図:お面とそのお面付けた全身図:お面は角があり大きく開けた口から牙が覗く:体には黒い毛皮を纏っており手足は黒く塗られている〕


 ちょっと気味が悪いよね。アーロンの領地を含むヘンゲリー地方の風習で、これは悪魔のお面で子供たちのいる家を回って子供を驚かして、石炭をプレゼントしていくんだって。

 この悪魔は子供が寒さに震えないように石炭をプレゼントしていくから、この風習は子供の健やかな未来を祈る祭りらしいよ。アーロンにお土産でお面を貰ったんだ。

 夢に出てくると嫌にびっくりしてしまうけど、良い悪魔らしいし、エラの事を祈って描いておくね。怯えさせてしまったらごめんね。

 実はこのお面、面白がった高等部の先輩が装着しながら夜の廊下を歩いてみたらしいんだ。そこへ見回りの先生とばったり出くわして、先生は腰を抜かせてしまってね。寮全体で減点を貰っちゃったんだよ。

 本当に良い悪魔なのかなって思ったけど、後からこっそり先生が「腰を抜かした拍子に今まで悩んできた腰痛が改善された」って教えてくれてね。

 でも僕らとしては減点のとばっちりがあったからね。難しいところだ。


〔図:器に入ったクリームと上に飾られているフルーツ:ガラス容器らしき描写:側面にはクリームやフルーツ等が幾重にも重ねられている〕


 これはトライフル。エラが好きだったお菓子で、寮の食事にも出てくるお菓子。うちの料理人が作ってくれるトライフルはローズウォーターで味付けしたスポンジケーキにカットされて並べられた綺麗なものだけど、寮の物はトライフル(ありあわせのつまらない物)の名前の通り、ビスケットやジュース、クリームを本当にごちゃ混ぜにしたものだよ。

 でも不思議と美味しい。エラにも寮で出てくるあの簡易的、というか本来のっていうべきかな、そのトライフル食べてほしい。きっとなんだかんだ夢中だよ。

アディ』


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