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侯爵令嬢の穏やかな生涯  作者: 柏鶏子
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『親愛なるエラ


 お父様とお母様はエラを気遣って会いに行けないし、手紙も渡せないから侍女に言伝を頼んでいると聞きました。せめて、両親がどのように暮らしているか、書いていこうね。

 お母様は毎日、朝昼晩、起床後、就寝前にエラの事をお祈りしている。お父様はお仕事もあるけれど、お母様と同じく起床後と就寝前にはお祈りなさっているそうだよ。それにお母様は食前のお祈りもなさっているけれど、それはエラがしたお祈りなんだって笑っていらしたよ。

「当たり前のことにお祈りできるなんて、優しい子だわ」だってさ。

 僕も寄宿学校ではお祈りするよ。寄宿学校の隣には教会があって、日曜日に司祭のお話を聞くんだ。帝国内には色々な信仰があるから各自自由にお祈りしてもいいし、日曜日のミサに参加してもいい。ミサを欠席する人は課題が用意されているけどね。

 教会が教えるお祈りの言葉は、神の恩寵に感謝する言葉なんだけど、エラのお祈りのほうがいいからそれを唱えてる。友達もそれいいなって言ってくれて、エラの言葉を一緒に唱えてるよ。

 脱線しちゃったね。

 お母様は社交と邸のお仕事をなさっているけれど、あまり夜会には参加なさらないようだよ。エラと一緒に居たいから、だって。だから、よく居間で刺繍や読書をなさってる。それに今は庭園づくりに熱中しているみたい。

 エラが窓から覗いたときに驚かせたいんだって。季節に咲く花を揃えたり、木の形をユニークに整えたり、オブジェや色の合わせも考えてる。このペースだと庭が増えるのも時間の問題かもね。

 お父様は領地や議会に行ってお仕事してらっしゃるよ。実はね、そこで沢山のお見舞いの品を貰っているんだけど、エラに渡せないでしょう? それ専用の物置部屋が出来て保管してあるんだよ。お花やお菓子を下さる方も極稀にいて―――皆、エラに渡せないことを知っているはずなのにね。興味なかったのかな―――それは処分している。残念だけどね。

 でも、エラが元気になって思う存分堪能できるように、銘柄やお店の情報を控えたり、厨房の者が味を再現できるようレシピを書いたりしたエラのためのノートがあるんだ。お父様は、そのノートを見ながら『デビュタントの時のドレスの生地はこれにしようか』とか『エラはオレンジが好きだったからこのケーキが気に入るだろう』とかおっしゃっているよ。

 お母様たちは毎日侍女たちの報告を一喜一憂しながら聞いているよ。本当は言伝だけではなくて、抱きしめてあげたいし、挨拶のキスもしてあげたいし、慰めのために本を差し入れしたいけれど、流石に無理でしょう?カーラが本を丸ごと暗記しようとしたけれど、熱を出してしまったんだって。エラが大変だった時の事だから気を紛らわせることができるならって思っていたって。勿論、カーラだけではなくてベッカもマリーもゾフィもルビーもナディアも、無理して熱を出すことはあったみたいだ。

 それでね、お母様はピアノなら聞こえるのではないかしらって、言っていたよ。それが慰めになるかもって、ピアノを近々、居間に運びいれる予定だ。お父様ももしかしたらお母様の伴奏に合わせて歌うかもね。楽しみにしていてねエラ。

アディ』


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