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元最強魔王現最強女子高生

「ケケケ。手応えねえの。なーにが勇者だ」


 『元勇者』などと自称した男から奪った財布を、男たちは戦利品として手玉にとっている。


「――貴様ら」


 そこへ、少女が声をかけた。

 振り返る男たちが見たものは、ひとり、たたずむ少女。


「念のため聞いておくが、貴様らの強さはこの世界の何番目に値する?」

「うおっ⁉ すっげえかわいい⁉」

「へっへっへ……俺らが何番目かって? そりゃあ最強っしょ」

「ほう?」


 キッ、と少女がひとりを睨み付ける。

 すると、男が突如吹き飛ばされ、建物の壁に激突した。


 そのまま気絶し、起き上がる様子はない。


「……これで最強だと? 笑わせる」

「て、てめえ⁉ なにしやがった⁉」

「あの男は――我が生涯最大の宿敵。貴様ら程度の小物が、手を出していい相手ではないぞ」

「なにをわけわかんねえことを――ッ⁉」


 少女に殴りかかった男だが、少女の顔面に触れる寸前、硬い壁のようなものに当たる。


「いっ……てェ……!」

「この程度の障壁も破壊できんとは」


 拳を押さえうずくまった男の額に、少女が人差し指を曲げ――ぴん、とデコピンした。

 男の身体が後ろへ跳ね、ゴロゴロと凄まじい勢いで転がる。

 泡を吹き、白目を剥いた。


「ひ、ひぃッ⁉」

「殺しはせん。この世界での人間への殺生は、いろいろと面倒なことになるからな。だが報いは受けてもらうぞ」


 すっかり戦意喪失してしまった最後の男の顔に、少女は手を触れる。


「我の獲物に手を出した罪、しっかりとその魂に刻んでやろう」


 怯える男は少女の瞳の奥に――『魔王』の姿を見た。



 聖伯楽学園2年、(さえ)()(きょう)()

 この学園において、その名を知らぬ者はいない。


「ああ、なんて美しいのかしら……」

「京華さま~!」


 ひとたび廊下を歩けば、女子からは黄色い悲鳴。


「なんて神々しいんだ」

「ため息しか出ねえよ……」


 男子からはすでに神格化されている。


 容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能。

 この3点セットを当然のように揃え、テストは常に学年トップをキープ。


「ね、ねえ冴木さん、よければ今日の放課後、私たちと――」

「ごめんなさい。あいにく今日は予定が入っているの」


 大抵の場合、付き合いは断られる。

 冴木京華は、必要最低限の人付き合いしかしない。

 生徒会、部活動からの勧誘は山ほどあったが、すべて断っている。


 けれどそれがまた神秘性を増し、さらに――


「また、誘ってもらえる?」


 にこり、と、女神のような笑顔でほほ笑まれては、許さない人間はいないだろう。

 だがそんな京華にも、右腕となる存在がいる。



 パァン!


 音を合図に、少女が駆け出した。

 最初から他の走者を一気に突き放し、そのままゴールする。


「ま、また記録更新……」

「金剛さん、すごい……もう、向かうところ敵なしね」


 陸上部のエース――金剛(こんごう)(まこと)

 ショートカットの黒髪、小麦色に焼けた健康的な肌。

 息も乱れた様子なく、周囲を驚かせている。


「あ」


 真が、京華の視線に気づく。


「今日はもう上がるね♪ お疲れ~」


 言って、真は京華に駆け寄った。


「ほんとお似合いよねー、あのふたり。よく冴木さまの家にもお邪魔してるみたいだし」

「もしかして、付き合ったりしてるのかしら」


 冴木京華と、金剛真。

 何かと常に行動を共にしているこのふたりは、無敵コンビとして評判になっていた。



 とある高級マンション、最上階。

 そこに、京華はひとりで暮らしている。


「お邪魔しまーすっと」


 先に上がった真が京華に向かい――ひざまずく。


「魔王さま、本日も打倒勇者の試練、お疲れさまでした」


 途端、京華の清楚な顔付きが、禍々しいものに豹変した。


「ふ、ふはは、ふははははは!」


 高々と笑う京華に、真は小首を傾げる。


「どうかしました?」

「ふふ、これが笑わずにいられようか! 見つけた、ついに見つけたのだ! 我が長年の宿敵を! この世界に転生してまで追いかけた、勇者を!」

「ほんとですか⁉ わーすげー! ってことは、魂縛の印が反応したんですね⁉」


「そう、我が死の間際、ヤツの左腕に植え付けた呪印――あの呪印は対象者の身辺へと我が魂を導き、転生させ、復讐の機会をうかがう……まさか、別世界の住人だったときは驚いたがな」


 京華が広々としたベランダに出て、道行く人々を見下ろした。


「本来ならば人間に転生などするつもりはなかったが、この世界の高度知的生物は人間しかいなかった」

「ほんと、こんな身体じゃろくに力を出せませんって。前世のおれ――魔王四天王の見る影もないですよ~」


 金剛真の正体もまた、異世界からの転生者――魔王四天王、闘将ヴィゴーレ。

 魔王が転生の際、従者として魂を道連れにした者のひとりだ。


「それは我とて同じこと。全盛期の半分以下の力しか出せん。だからこそ力を蓄えつつ、人間社会に溶け込み期を待ったのだ。勇者(アレ)を倒すためなら、恥辱などいくらでも耐えられる」


 魔王の存在を勇者に悟られぬよう、京華は切磋琢磨した。

 喋り慣れた口調を封じ、この世界を知るため勉学に励み、着実に地位と名誉を築き上げてきたのだ。


 すべては、勇者に復讐を果たす――そのためだけに。


「だが、気がかりがある」

「気がかり、というと?」


 放り投げられた物体を、真がつかむ。


「――財布?」

「勇者のものだ。カツアゲされていた」

「かつあげ? うまそー……」

「カツ揚げではないバカ者! ……ただの人間の雑魚に一方的に殴られ続け、財布を奪われていたのだ」

「あの勇者が? そ、そんな馬鹿な……あいつ、おれを瞬殺したバケモノですよ⁉」


 真の脳裏に、笑いながら一刀両断する勇者――トラウマがよみがえる。


「それに、クソボロのコンビニで、働いていたのだ」

「ええ⁉ 世界を救っておいて、た、ただのコンビニで⁉」


 しばらくの間、沈黙が続く。


「これは我の推測なのだが、ヤツは、我々の存在に気付き、勇者であることを隠すため、わざと弱いフリをしているのではないだろうか」

「も、もうおれたちの正体がバレてるってことですか⁉」

「いや、接触したときはそんな様子はなかった。仮にバレていたなら、すでに我の命はなかったろう。この世界を統べるくらいの力は取り戻しているが、それでも、まだあの勇者には遠く及ばぬ」


 ごくり、と真がノドを鳴らした。


「じゃ、じゃあ魔王さま、今後の作戦は、なにかあるんですか?」

「うむ。魔王四天王、知将グノスィが言うには、敵を知るには、敵の輪へ入るべし。我は早速、その作戦を決行する」


 ヒソヒソ、と元魔物たちの会議が行われる。


「くく、覚悟しておけ、勇者よ。今度こそ、我が勝つ!」

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