8.大平原
ザクスの幼いころ、まだ、平原にもろくに出れない頃のお話です。
死を目の当たりにした後の出来事です。
「やめて! 僕、いやだ! 何で!?」
ザクスは必死に抵抗する。
ナット達のいじめが再び熱を帯び始め、ザクスに罰ゲームと称して悪事を働かせるよう命令する。
畑から実った果実の盗難や置き忘れたであろう農具への落書きや破壊、虫やカエルやトカゲなどの好かれない小動物を女の子に渡しに行く等、その罰を受けるザクスと同時に被害を受ける大人や女の子達のリアクションを見て楽しんでいた。
しかし、そのいたずらレベルの罰ゲームは昔もさせられていたことだった。
今再びこのいたずらレベルの罰ゲームをさせられている理由として、加熱したいたずらによって人死にが出てしまったことが一因としている。
罰ゲームを与えるほうも村を出た時、魔物に食い散らかされたのである。
ナットの仲間の数人が食い殺された。
ナット、ザクスとあと数人は生き残ったが、食い散らかされたのは一人、二人ではなかったのである。
しかし、この罰ゲームも再び村の外に向かいそうな雰囲気を醸し出していた。
ザクスは少しずつそれを感じ始めていたため、必死に抵抗を試みる。
村中での悪事も嫌だが、まだ命の危険はない。
人の死を目の前で見た物として村の外は恐怖の対象であり、魔物は行動を束縛する死神である。
村中でのいたずらの場合、自分の行動を目にされることは何故かなく、畑からの盗みはばれたことがなかった。
放置農具等へのいたずらはいたずら後に発見され自分も含まれることはあるが主にナット達が叱られることが多かった。
彼らにとばっちりがいくことがザクスへの罰ゲームを加速させる一因ではあるのだがナット達にとってはザクスは面白くない対象であり、いじめる要因でもあった。
それ故、ザクスの必死の抵抗もむなしく、罰ゲームが村の外の草の採取になってしまう。
「見ているからな! 出てすぐじゃなく、家3軒分位離れたところの草を取ってくるんだ! 罰ゲームだ、負けるから悪いんだからな!」
ザクスは命令され泣きわめくが、その程度ではナット達いじめる方は赦しはしない。
抵抗むなしく、ザクスは村の外に出る抜け道まで連れてこられる。
村から抜け出す穴は埋めて出られないようにされていたはずだったのだが、今再び、村から出られる穴が前とは別の所にできていた。
「死にたくない。怖いんだ。魔物の怖さはナットも知ってるだろ!!」
ザクスの睨みと言葉にいじめグループをまとめているナットは魔物の怖さを思い出すが、自分は大丈夫と言い聞かせるかのように口を開く。
「今回外に出るのはお前だけだ。ザクス。俺達は安全だからな。怖くなんてない!」
一向に穴に入ろうとしないザクスをナットの取り巻き達は力ずくで穴に押しやる。
ザクスは穴から外に追い出されそうなところで息を呑む。
実際魔物が怖いのである。
村の外に出てしまえば、魔物に見つかる。
魔物に見つかってしまえば、待っているのは死なのである。
「それ行け!!」
ザクスは村の外に追い出される。
するとザクスの視界の中に魔物が居た。
気が動転していれば、わめきたてながらも村から出る穴に駆け寄り穴に入ろうとするのだろうが、ザクスは完全に恐怖に飲まれ、声も出ず、身動き一つとれなかった。
風の音、魔物の足音、そして、後ろからはやし立てるナット達の声が耳障りに聞こえる。
自分の呼吸音や心臓の音すら聞こえてきそうなくらい目の前の魔物の動向を直立不動で見ていた。
こちらを見られたら、魔物に見つかったら、どうしてこんなことになっているのだろう、後ろのナット達うるさい、静かにしろ。
ザクスの心の中はごちゃごちゃになっていた。
身をかがめて、草原の草に紛れるように少しでも工夫するべきなのだろうが、今のザクスは全く動けないでいた。
魔物が少し首を振る。
何かを探しているようだ。
そして、魔物顔が、立ち尽くすザクスの方に向く。
ザクスは魔物の視線にさらされていると感じた。
「(もう死ぬ。僕はここで、魔物に喰われて死んでしまうんだ)」
悲壮感を漂わせながら、動けないからだとは対照的に頭の中はいろんなことを考えていた。
しかし、目の前の魔物はザクスに気が付かなかったかのように顔も視線もそらし、立ち去った。
魔物の姿がザクスの動かない首によって確保された視界から消えると、どっと汗が噴き出る。
へたり込みそうになるもザクスは少しずつ歩みを進める。
ザクスはぎこちなく首を動かし、村の外の平原に魔物が居ないか、見られていないかを気にしながら、家3軒分位離れたところまで進む。
そして、ぎこちなく、膝を曲げ、草を抜くとこれまたぎこちなく村の抜け穴に戻った。
村の敷地内に入ったザクスはへたり込み数時間動けなかった。
そのザクスの耳にはナット達の興奮する声だけが響いていた。
この出来事から、どんどん外に出ていくようになりました。
慣れるのです。恐怖を感じながらも体が動くようになって。