7.村の知恵袋
「今日は珍しい草を持ってきたね」
「うん、今日ちょっと遊んでたところに生えてて面白い形だったから採って来たんだ」
ザクスが虐めっ子達に遊びついでに追い出されこっそり村の外の森に入り始めた頃、何か新しい発見をすると村の老人達数人のたまり場のようなところに出向き、これは何か、あれは何かと教えてもらうことが日課のようになっていた。
こうした老いた者達の憩いの場に顔を出して楽しそうに自分達の話に熱心に耳を傾けるザクスは、若い衆や子供達とは違い非常に可愛い存在として皆に可愛がられていた。
「ほう、懐かしい草だ。もう村中では見かけなくなったと思っておったがどこか隅っこで今でも頑張って生えているのだな」
「そうだねぇ、昔はよくこの葉のお世話になったもんだけどねぇ。よく使ったから採りつくしてしまったと思っておったよ」
そうだそうだと懐かしむようにザクスを置き去りにして彼らの思い出話に花が咲く。
ザクスはその思い出話が好きだった。
時折同じ話に行きついてもう聞いたと思うこともあったが、話のきっかけとして新たなものを見せると知らなかった新しい知識を得ることができ、それと同時に彼らが見てきたザクスが見たこともない景色が思い浮かべられるこの時を大切にしていた。
それに、話を聞いている時、誰かの隣に座っていると頭をよく撫でてくれ、話には夢中ではあるが、ザクスのことを完全にはほったらかしにしないこの雰囲気も気に入っていた。
「この草の葉はな、天日干しして乾燥させてから薬として使うんじゃ」
「いやいや、乾燥させる時から使うんですよ。もう忘れたんですか?」
「そうだった、そうだった。虫よけに使えるんだったなぁ」
「玄関や窓の近くに吊るして干しておくと虫が寄り付かなくなるからいろんなところで干してあったもんだ。ただ、いっぺんに干し過ぎると臭いが強くてたまらんかったがなぁ」
「そうだそうだ、少しでいいのに業突く張りのあそこの家なんかはいつもたくさん干しておって、体からもあのきっつい臭いをさせていたからな」
「懐かしいなぁ」
「今はもう、しないの?」
ザクスが、老人達の話に口を挟む。
「今か?今はもっと臭いのしないいい虫よけの薬草があるし、逆にこの草の葉が取れなくなったからな、しなくなったなぁ」
老人達はそうだそうだと答えたおじいさんの言葉に相槌を打つ。
ザクスは老人達が解散するに合わせて自分の秘密の場所に手にした草を隠しに行く。
「これは虫よけかぁ。お日様にあたるように吊るして干したら数日は虫が近くに居なくなるんだったよね」
ザクスは老人達の話から秘密の場所の入口に草を干しておくことにした。
それから幾日も幾十日も経ってから一つの出来事があった。
「兄ちゃ」
「レクス、よく寝れば治るから」
「ん」
レクスが熱を出し苦しんでいた。
よくある風邪のような症状だったのだが、初級の治療魔法では治らず、数日寝込んでいた。
村には中級以上の治療魔法を行える大人は残っておらず、子供に家族以外の魔法の治癒をさせることは禁じており、対処手段がなかった。
ザクスはあまりにも長引くレクスを心配し、老人達の憩いの場に相談に来た。
「おお、ザクスじゃないか、久しぶりじゃなぁ」
「何処に行ってたんだ?」
「元気にしていたか?」
ザクスは手厚い歓迎を受けるがそれどころではなく、レクスの治療について相談をした。
「弟の熱が下がらなくて治療魔法では治らないんだ。何かいい方法ない?」
「熱か……他には?どんな症状があるんだい?」
「熱と腹痛、そして下していて」
「ふむふむ、風邪だな」
「あとは舌に赤い斑点が……」
ザクスが最後に説明した症状に老人達は反応する。
「ん?」
「おぉ」
「そうか」
「なんか知ってるの?」
ザクスはその反応に光明を見つけ問い詰めようとする。
「その症状に一番効くのは昔生えていた草なんだがなぁ」
うんうんと何人かが頷く。
「それってどんな草?」
ザクスが一番よく知っていそうな老婆に問いかける。
「他の症状にも効くのだけどね、その草の薬が一番効くのが舌に斑点のできる病気でね。それ以外に虫よけにも使える物でね。昔は村中に生えていたんだけどね、ほとんど採り尽くしてしまって、もう見かけなくなったんだよね」
ザクスはその言葉から少し前に聞いた話を思い出す。
「それ!僕持ってる。この前教えてもらった」
「そうだったかな?」
老人達は顔を見合わせる。
「どうしたらいい?」
「持っておいで、そうしたらこの爺が薬にしてくれるよ」
老婆は一緒にいた老人の1人を視線で示す。
「わかった」
ザクスは駆けて草を取りに、薬を得、レクスを癒すことができたのだった。