5.かくれんぼ
時系列順には並んでません。
今度の話はザクス8歳の頃の話です。
「お兄ちゃんどこ行くの?」
「お出かけ?」
家から外に出ようとするザクスに妹と弟が呼びかける。
8歳のザクスは森の魔女の所に毎日、朝から遊びに行き、夕方まで帰ってこない。
ザクスは森の魔女から新しいことを一杯教えてもらっており、できる事わかることがどんどん増えて非常に楽しい日々を送っていた。
しかし、逆に全く構ってもらえなくなった妹と弟は少しでも相手してもらおうとザクスにまとわりつく。
「お兄ちゃんは知り合いのおばあさんの所に遊びに行くんだよ」
「カレンも行く~!」
「僕も!」
自分のことをまだ名前で呼ぶ3つ下の5歳のカレンと濁音の発音に失敗した4歳のレクスはザクスについていきたいと主張する。
「だめだよ。おばあさんの所は遠いから2人は疲れて行くのも帰るのもできなくなるから」
ザクスはカレンとレクスに連れていけないと説明する。
「カレンは行くのぉ!!」
「僕も、僕もぉ!」
しかし、2人は駄々をこねて主張する。
「ん~どうしようか……そうだ、かくれんぼをしよう!」
「かくれんぼするの?お兄ちゃん遊んでくれるの?」
「遊んでくれう?」
ザクスに構ってもらえると期待した2人はキラキラした目でザクスを見上げる。
「よし、始めは僕が鬼をするから2人は隠れるんだよ」
「わかった!」
「隠れう!」
とたとたと2人は家の中を駆けていき物陰に隠れる。
「もういいかい?」
「まあだだよ」
「まあだだよ」
「もういいかい?」
……
ザクスの問いかけに隠れてしまった2人は返事をしなかった。
カレンとレクスはザクスからは見えないがお互いが見える所に隠れており、カレンがシーっと口に指を立てると、レクスは両手で自分の口と鼻を必死に押さえて静かにしようとする。
「カレン、レクス、どこだ?」
ザクスはしばらくうろうろし、カレンとレクスの傍を通るが、一生懸命隠れて音を立てないようにする2人をザクスは見つけることなく通り過ぎてしまう。
色々さがした後、
「2人は隠れるの上手いなぁ?もしかしたら家の外に隠れたのかな?」
独り言をつぶやいてザクスは玄関の扉を開けて出て行ってしまう。
見つからなかった2人は目を合わせるとザクスに見つからなかったことで嬉しくなって2人で笑ってしまう。
しかし、音をさせてしまったことに気が付いたカレンが両手を口に当てる。
カレンが口を押さえたことに気が付き、レクスも同じように口を押える。
そして、かくれんぼを続ける。
しかし、2人は兄のザクスが戻ってこないことでだんだん不安になってくる。
「お兄ちゃん帰ってこない」
「お兄ちゃ」
2人は静かになった家で隠れていた所から出て窓の外を見たりしてザクスを探しながらザクスが帰ってくるのを待つが、帰ってこないことで泣き出してしまう。
すると玄関の扉が開く。
「あら?どうしたの?2人とも。隠れていたんじゃないの?」
帰ってきたのはザクスではなく、母のカリナだった。
「なるほど、ザクスはお母さんに2人を押し付けたのね」
ザクスは家を出た後、母カリナを見つけてかくれんぼの鬼を代わってほしいとお願いし、
家の中で隠れている2人を見つけてあげて欲しいと言って遊びに行ってしまったのである。
ザクスも自分が楽しいことを優先したい年頃。
快く代わってあげた母だったが、ザクスと遊びたかったカレンとレクスはザクスがいなくなったことでより一層泣きじゃくってしまった。
それでも彼らの母。
要領よく2人を宥めすかし、2人の機嫌を整える。
結局その日もザクスは夕方過ぎまで帰ってくることはなかった。
帰ってきたザクスは妹、弟との遊びをほったらかしにして遊びに行ったことなど忘れてしまっていた。
そして、自分が楽しい時間を過ごしたことで満面の笑みを浮かべながら、両親に新しく覚えたことを都合よくあれやこれやと話すのだった。
そして、カレンとレクスもほったらかされたことは忘れており、面白おかしくお話しするザクスの話に耳を傾けて自分たちが今、遊んでもらっているかのような気持ちになる。
ザクスの話が終わると、カレンとレクスはうとうととして舟を漕ぎ、一日が更けていく。
そして、次の朝になる。
ザクスが家を出る前に起きた場合は遊んでとせがみ、ザクスがいなくなってしまっていたら、2人で遊んだり、隣のアニタに遊んでもらったりといった日常が繰り返されるのだった。