4.出立前夜 side アニタ
本当の時間は2章だけど話のメインがギリギリ1章なのでこちらに投稿しました。
アニタは同い年のザクス達が徴兵で王都に行った後もローレム村に残っていた。
一度、婚約申請したら、婚約破棄されても徴兵の必要はない。
なので、2度も申請したアニタは徴兵の対象外となる。
「ザッ君、頑張ってるかなぁ」
アニタはザクス達が村を出るときには見送りに行かなかった。
会いたくない人達を避けたかったこと、アニタが気に掛ける人には前日に話をして送り出していたからだ。
王都出発の前日には次のようなことがあった。
「ザッ君、いますか?」
「ん? アニタ、何か用?」
アニタがザクスの家を訪れた。
翌朝には出発することもあってザクスも外出することもなく家で出立の準備などして過ごしていた。
「もう明日にはザッ君は王都に居るんだよね」
「そうだな」
アニタは吹っ切れてザクスに久しぶりに近寄れたことでこの数日浮かれていた。
しかし、あっという間にザクスの出発の日となろうとしていた。
もともとそれほど日はなかった。
そのため、毎日会いに訪れていたが10に満たない数しか会えなかった。
「ザッ君は軍でどんな活躍するんだろうね」
アニタはザクスの活躍を想像してみる。
「足手纏いで虐められて、あとは、戦場を逃げ惑うだけじゃないかな」
ザクスは自分の能力の低さから想像できる内容を口にする。
だが、アニタはザクスの言葉を否定した。
「ザッ君は足手まといになんてならないよ。だって、この村で誰もできないすごいことをいっぱいしてるんだから」
「山からの帰還の話のこと? あれは偶然だから。偶然知っている場所にみんなが捕まっていただけだから」
そんなことを言うザクスにアニタは理解してほしいと一生懸命説明する。
アニタはザクスに2度も命を救われている。
一度目は魔物襲撃後の流行り病になった時に薬を持ってきて飲ませてくれた。
二度目は先ほど話に出た怪鳥に攫われて雛が孵る寸前で助けられ、村まで連れ帰ってもらった。
一度目は苦しんでいただけであまり意識がはっきりしていたわけではなかったが、助け求める相手として口にして夢に出て心配してくれていたのがザクスだったことは憶えていた。
そして、二度目の救出の時は頼もしい背中を4日も見続けてザクスの男らしさを実感した。
それだけでアニタの中では目の前のザクスはかっこよく、頼れる男性で、憧れの対象となるのである。
そんな相手に何度もすれ違ってしまったが、ひとまずは告白じみたことができたことはアニタの中では喜ばしいことで幸せなことだった。
ザクスとの関係は何度もすれ違いがあり、悲しい思いをしたが、それでもアニタの中では完全に諦められる存在ではなかったのである。
2度程諦めようとしてみたが、運命に導かれたのか、アニタが諦める決断を踏みにじる結果が届けられた。それが、良かったのか悪かったのかは今はまだ、誰も答えを出せないが、アニタにとってはザクスとの関係を見直せたいい機会だったと考えている。
2年後にザクスと会うことができたなら、嫁でなくても妾でも愛人でもいいのでザクスに尽くそうと思えるようになっている。
「ふふふ」
自然とアニタの口元に笑みが浮かび、細やかな笑い声が漏れる。
「なんだよ。急に笑い出して……」
思い出して想像して急に笑い出したアニタに不思議そうな顔を向け、笑われていることに不快を感じたのか迷惑そうにザクスは言葉を口にした。
「何でもないよ。ザッ君は昔から変わらずに今でもかっこいいなって思っただけだよ」
アニタは昔から思っていたことを言葉にして、ザクスに突きつけた。
そして大胆にもザクスの腕に抱き着いて、そのまま頬に口づけをした。
突然の口づけにザクスは手を口づけされたところに当て、訝し気に視線をアニタに向けたまま呆然としていた。
「好きだよ。ザッ君。頑張って行ってきて。無事に帰って、私を迎えに来てね」
アニタはザクスに愛らしくウィンクもしてザクスに対して徴兵の見送りの言葉を贈った。
今のアニタにできる精一杯の行動と言葉をザクスに向けて放った。
ザクスはまだフリーズが解除されていなかったが、アニタの言葉はザクスの中に残ったようだ。
そして、アニタはザクスの傍を離れると振り返らずに固まったザクスを置いてザクスの家を飛び出した。
笑みは絶えることはなくアニタの顔を占領し、心を満たす。
家に帰り、自分のベッドに飛び込むとまだニヤニヤが止まらず何度かベッドで悶えるが、少し落ち着いたアニタはザクスの顔を思い浮かべながら、
「ザッ君。私は待ってるからね」
と1人呟くのだった。