2.アニタの気持ち
私はアニタ、15歳。
同い年の子達には召集令状が届いた。
皆少しずつ王都に行き軍に入る準備を始めている。
私には届かなかったので村に残ることになっている。
ずっと溜め込んで、溜め込んで、かなえられていない事、
ずっと口にしていないことが私にはある。
私は隣の家に住む幼なじみのザッ君のことが好きだ。
好きだったと言った方が正しいかもしれない。
本当は今でも好きだと言いたいけど相応しくなくなってしまった。
彼は私と同じ年に生まれ、ずっと隣に住んでいた。
幼い時は一緒に遊んだし、彼の妹のカレンちゃんや弟のレクス君の面倒を一緒に見たりもした。
私の両親や彼の両親のお手伝いも一緒にやった。
その頃の私は大きくなっても彼とこんな風に2人で子供を育てるんだと思っていた。
幼い当時の思いは今でも私の胸で生きている。
少し大きくなって、村の年の近い女の子達が私を遊びに誘いに来てくれるようになってからは、彼との間に少しずつ距離ができて、だんだん一緒に遊べなくなっていく。
女の子達に遅れて、彼の方にも村の男の子達が遊びに誘いにやってきたけど、その頃から彼は少しずつ変わっていった。
私は彼が虐められている所を何度も見て、助けないと、と思うが、勇気が出せず私は動けなかった。
周りの女の子達は彼のことを蔑んで、私を彼から遠ざけようとするので、私は何度も悲しくなって、1人になった時に泣いたり落ち込んだりした。
私が彼を好きな気持ちは変わらず、続いていた。
そして、私の心を掴んで離さなくした出来事と彼との距離を決定的にした出来事が11歳の時に起きた。
私の好きな気持ちをより強くした出来事は、彼は私に薬をとってきてくれて命を救ってくれたこと。
彼は危険な森へ薬の材料を取りに行って薬を作ってくれた。
彼がどうしてそんなことができるようになったのかは知らないけれど、彼は私の英雄になった。
それで、再び仲良くなりたいと思って友達の反対を押し切って彼に近づこうとした。
でも、村を救った冒険者達の過大評価と心無い扱いによって彼の純粋な心は決定的に壊され、それと同時に私と彼の関係はどうしようもないくらい隔絶した。
私はその冒険者達を恨みたくなった。
それでも、彼と少しでも関係を作り直そうと、そして、彼に相応しくなろうと努力し始める。
私は2年かけて色々と成長し、相応しくなるための努力は身についていったが、彼との関係は一向に進展しなかったので、何度も枕を濡らした。
13歳の時に彼は私だけではなく、村の人達の英雄になった。
彼の成長を目の当たりにした私は、自分の努力はまだまだ足りないと強く感じさせられた。
そして、私にライバルが出来たと思ったのはこの時だ。
しかし、私がライバルとしていられたのは短い間だけだった。
それは彼が村の英雄になってそれから数か月後のこと。
13歳の私は告白された。
告白してきた相手は2歳年上のブラム君、村の子供達の中でも強く格好いいと評判の男の子だった。
その告白は付き合って欲しいではなく、結婚して欲しいと言うものだった。
付き合って欲しいという告白はよく断っていたが、結婚して欲しいは初めてで、その意味は知っていたが、私に来るとは思っておらず、目の前も頭の中も真っ白になり混乱してしまう。
しかも、その告白の現場に彼、ザッ君が通りかかり、目撃されてしまう。
そのこともあって、本当に何も出来ないくらい固まって動けなくなってしまった。
助けてって、私は縋る思いでザッ君に視線を送ったけど、ザッ君は私達から顔を背け立ち去ってしまった。
私はそれでも心の中で叫び続けた。
「(助けて、助けてよ、ザッ君。私を、私を置いていかないで)」
私が「はい」とも「いいえ」とも言わず、固まっていたのでブラム君は私の手を引き、私の家に来て、私の両親に告白したことを伝えてしまう。
私はその時、ザッ君に見られたこと、助けを求められなかったこと、声を出さずに心の中で叫び続けて、心の中に逃げてしまっていたことで何もできなくなってしまっていた。
口は開かず、涙も出せず、顔も上げられなくなっていたので、私の両親も私の気持ちを察することができず、ブラム君の告白を受け入れてしまう。
そこからは、私もあまりはっきりは覚えていない。
村長と騎士様がいる場所に連れていかれ、何かに、誘導されるように無意識に頷いてしまった気がするが、ぼーっとしていたので何に頷いたのかその時は理解していなかった。
でも、それで私とブラム君との婚約申請が成立してしまっていた。
ブラム君とその両親とは村長と騎士様と話したところで分かれたので申請以外何もしなかったと思うけどあまり記憶に残っていない。
私がはっきり理解したのは翌日で、もうザッ君とは顔を合わせられないと思っていたのに、成立2日後に顔を合わせてしまい、祝われてしまった。
私はもう、ザッ君の隣に居られない。
そのことを思い知らされ、溢れる涙を止めることができなくなった。
慰めに来たカレンちゃんには本当の気持ちを素直に話したけど、時は戻すことはできず、もう手遅れ。
酷い絶望に襲われて、一時ほとんど家を出られなくなってしまった。
そのため、ブラム君と会ったのは婚約申請の手続きをした後は見送りに行った時で申請成立後からブラム君が王都に行くまでの間一度も会わなかった。
ある程度、心も落ち着き、諦めの気持ちも整理でき、何も考えないように我武者羅になって日々の生活を送るようになっていたところにブラム君の訃報が届いた。
訃報を聞いたとき、わからない感情で埋め尽くされ自分でコントロールできなくなる。
そんな私を1歳年上のロイ君は心配してくれ、慰めようとしてくれた。
でも、私はその時、誰にも近寄りたくはなかった。
諦め、受け入れようとしたのにいなくなったのだから、頭も心も混乱する。
ロイ君は何度か私のことを気にかけて、気遣って、声をかけてくれた。
そんな私に今度はロイ君が告白してきた。
抜け殻になっていた私は再び間違いを犯す。
もうどうでもよくなっていく感じだった。
ロイ君とも申請後はほとんど会ってない。
会っても、少し一緒に散歩するくらいしかしなかった。
彼は楽しそうだったけど私はあまり楽しめなかった。
今、ロイ君は王都の軍に入り、戦場を駆けまわっているのだろう。
私はザッ君のことを今でも思っている。
でも、その思いは叶うことがない。
可能な限り、その綺麗な思いを私を誰にも触れさせないようにしよう。
そして奥深くに封印する。
今まで通り流されていくだけだ。
私は数か月後にロイ君の訃報が届き、とある出来事を引き起こす。