第四章 雑木林
福島県の三春からいわきにかけて聳え立つ阿武隈山地。中通りと浜通りという二つの地方の境目であるこの山々には、たくさんの命が、今日を生きていた。
三春の町を見下ろす阿武隈山地の一角、そこに広がる雑木林の木々の間を、一頭のツキノワグマが歩いていた。
体長百八十センチはある巨体。体重は、八十キロを軽く超えるだろう。
このクマは、かなりの苛立ちを心に秘めていた。
その元凶は、左後ろ足付け根の痛みだ。
この前猟師に撃たれた弾、それが中に残っているのだ。
それに、腹も空かせている。
不意に、人間の匂いがクマの鼻孔をくすぐった。クマの鼻は、犬の何倍もの鋭さである。
クマは二本足で立ち上がり、匂いのする下側を見た。月の輪のない胸が見える。
そう。このツキノワグマこそ、最近ちまたを騒がせているミナグロに他ならなかった。
ミナグロの瞳に、こちらへと登ってくる人間が見えた。
風下にいるミナグロのもとには、たくさんの情報が匂いとして入ってくる。
あの忌々しい火を噴く棒の匂いもしない。しかも、相手は山菜でも探しているのか、下を向いている。
鈴の音はするが、人に育てられたミナグロにとって、それはなんの抑止力にもならなかった。
(これはいい獲物だ)
ミナグロは、舌なめずりすると、足音を立てないように歩き出した。
しばらく経ったある日のこと、山狩りをしていた狩人衆の若き頭伊三郎は、土が妙に盛り上がっているのを見つけた。
背中に背負っていた大きな木ベラを手に持ち、その部分をほる。
「んんっ!これは・・・・・・」
伊三郎の目に入ったのは、無残にも獣に食い散らかされた人間だった。
「この歯形は、イタズだな。土に埋めるのは、保存食にするつもりだったのか。」
伊三郎は立ち上がると、仲間を呼ぶ声を上げた。
愛美の・・・・ではなく伊三郎の狩人用語講座
どうも、伊三郎です。今回は、我々が使う言葉を少しだけ紹介します。
まず、「イタズ」。イタズは、クマという意味です。イタチではないのでご注意を・・・
次に、「シカリ」。これは、リーダーのことです。
ほかにも、液体全般のことを「ワッカ」と呼びます。
銃は「シロビレ」ですね。
実は、この言葉、アイヌ語に似てるそうなんです。でも、詳しいことはわかっておらず、現在研究を進めているそうです。
それでは、今日はこの辺で失礼します。