第八章 旭日の旅立ち
山人の村をミナグロが襲った次の日・・・・・・・・・・
朝日が山々の間から顔を出す。その光は野に満ち、山に満ち、村に満ちていった。
「うううううう・・・・・・・・・・・」
わたしは思いっきり背筋を伸ばすと、右にいる雄太のほうを見た。
雄太はいつも通り、ストレッチジーンズに長袖パーカー。その方に担いだ社宝「破邪の短槍」の穂先を日の光がキラキラと輝かせていた。
左に目を向けると、きちんとお座りしてわたしのほうを見上げる山津見たちがいる。その鼻と目は油断なく動き、周りに外敵がいないかを探していた。
わたしは顔を上げ、目の前を見据える。そこには、白いひげをたくわえた山人の長とウォセがいた。
「******」
山人の長が何かしゃべる。その目線はしっかりと、わたしのほうに向けられていた。
「下の世界より来た旅人よ。」
雄太がすぐに通訳してくれる。あっ、言い忘れてたけど、こっから先の山人の長の言葉は、全部雄太が通訳してくれたのだから、そこんとこよろしく。
「人喰い熊は必ず仕留めるのが我々の掟だ。しかし、今の我々はとてもあやつを追えるような状態ではない。」
山人の長はそこで言葉を切ると、わたしの目を見た。
「そなたらに、ヴェンカムイ退治は任せる。そして、案内人としてウォセをつけよう。」
「イランカラプテ(よろしくお願いします)」
ウォセが前に進み出て、お辞儀をした。
「それと・・・・・・・・」
山人の長が一本の棒状の物を手に取る。それをわたしのほうに差し出した。
「これをそなたらに授ける。」
それは、一振りの刀。鞘とか鍔にきらびやかな装飾が施されている。
「これは、我々の宝である刀『カムイオマンテ』。元々は、そなたらと同じように下の世界から来た人々からいただいたものだ。受け取ってくれ。」
「わかりました。」
わたしは「カムイオマンテ」を受け取ると、巫女服の腰に帯びた。ずっしりとした重みがある。
それと同時に、どこか懐かしい感じも受けた。昔から手になじんでいるかのように。
(そして・・・・・・・・)
山津見たちの気持ちを、前よりも繊細に感じ取れるようになった気がする。
(そういえば・・・・・・・・・)
わたしの頭の中に浮かび上がってくる風景。
(・・・・・・・秋葉さんも、そんなこと言ってたな。)
とある冬の日のこと。
「愛美ちゃん、オオカミ保護観察官は動物の感情を理解し、意思疎通をできることが必要条件だ。そして、オオカミ保護観察官にも、バリエーションがあるんだよ。知ってたかい?」
秋葉さんがコーヒーを淹れながら言う。
「バリエーション?」
わたしが問うと、秋葉さんは指を立てて数えながら言った。
「そう。簡単に説明するね。一つは、オオカミの鳴き声やボディーランゲージを完全に理解し、それを用いて会話するもの。中国から来たリー・ウェイイー博士はこれにあたるね。もう一つは、オオカミの群れを犬のように扱い、自分の意のままに操るもの。これは、オオカミたちと対等な立場になれないから、わが国では禁止されている。最後に・・・・・・」
秋葉さんは、わたしにコーヒーを渡しながら口を開いた。
「自らが霊力を持ち、その霊力を用いるもの。愛美ちゃんは、これにあたる。」
「えっ・・・・・・・・」
わたしのこの力の源は、霊力?
「そう。」
秋葉さんは、うなずいて続けた。
「霊力は、たぐいまれな物しか身に着けることができない。生まれた時からこれを持った愛美ちゃんは、本当にいい保護観察官になれると思うよ。そして、霊力は、自分に合ったアイテムを身に着けることで、増加したりするんだ。」
(増加?アイテム?もしかして・・・・・・・)
この刀「カムイオマンテ」が、わたしの霊力を増加させてくれる「アイテム」?
でも、今はわからない。そのうちわかるようになるだろう。
「では、お元気で。ヴェンカムイを討ち取った暁にはまた会おうぞ。」
山人の長がわたしのほうを見て言うと、背を向けてチセの中に入っていった。
「それじゃあ、行こうか。」
わたしはみんなのほうを見て言う。
『おう!』
『ウアオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!』
人間たちは拳を、オオカミたちは鼻面を天に突き上げると、一斉に叫んだ。
そんなわたしたちを、お天道様が見守っていた。




