家族とは
『ただいまー』
気だるそうなただいまを言い帰ってきたのは一番上の姉だ
『おかえり、ご飯できてるよ』
『おう、さんきゅー瑞樹と美姫は?』
『瑞樹は二階だと思う洋子の面倒見てるはず、美姫は帰ってきてないよ』
『マジ?もう10時すぎだぞ?明日学校だろ?』
中高生特有の連絡もせず遊び歩いて家族に心配をかける、普通って言えばそうだがちょっとウチの美姫の場合は度が過ぎていて心配している。
『花蓮姉さん、連絡とってみてくれないかな?俺はついに着信拒否された』
夕飯の会話はもっと楽しい話題にしたいが最近は美姫のあまり良いとは言えない話題ばかりだ
『駄目だ出ない必殺GPSアプリ使うから陽一君迎え行ってくれるよね?ねーちゃんは仕事で疲れたパス』
我が家の暴君らしいく強制的に迎え役にされる、これでも2歳になる洋子の母親なのだ。
『はいはい、瑞樹に夕飯の片付け頼んでくる』
二階から戻ると携帯をいじりなっていた姉が渋い顔をし始めた・・・やな予感が・・・
『繁華街にいるわ、いい加減マジに注意しねーとダメだなこりゃ』
花蓮姉さんの言う繁華街は、いわゆる大人の街であり日本語の通じない外国人が多くや風俗店が並ぶ地元の子供が立ち入ってほしくない場所なのだ、過去に犯罪に巻き込まれた例もあるらしい。
『私も行くわ、流石に未成年が夜に出歩いていい場所じゃないし。帰ったら美姫さんは説教!』
繁華街に向かう電車の中で花蓮姉さんの仕事と美姫の愚痴を聞きながら、まぁ大丈夫だろうとたかをくくっていた。
GPSの指し示す店につくと二人とも『うわぁ』という顔になる
『花蓮姉さんいてよかったわ、一人じゃこんな店は入れなかった』
『いや、私もこんな店初めてだけどな』
年の功といいかけたところで肘鉄を一発もらった
30分ほど探したが一向に美姫は見つからない・・・勘弁してくれ終電だぞ
『ビーーーーーーーーーーッ』
っという防犯ブザーの音で血の気が引いた、あるはずがない、美姫に限ってそんなことはない。
音のする個室の扉を開けた時からの記憶が曖昧で、現実との境界線が曖昧になった
頭が痛い、ここどこだ?、体がうまく動かない、思考がまとまる前に聞きなれた声で覚醒した
『陽一!陽一!目覚めました?わかります?先生呼んできますね?』
ここ病院か・・・体痛いし動かない、なんか重要なこと忘れてるような・・・
『こんにちは、主治医の山内です早速だけど・・・』
主治医の先生の話を話し半分で聞きながらメディカルチェックを受ける、今日は何日だとか、怪我の程度とか話しているうちに途中で重要な懸念事案を思い出して、早く終わってくれと願う、完全に治るまでは三ヶ月くらいかかることはちゃんと聞いていた。
『瑞樹、美姫は?花蓮姉さんは?』
『姉さんは無事ですよ怪我もなにもしてませんよ、美姫に付いて違う病院にいます』
『姉さんは?じゃあ美姫は?病院ってことは・・・まさか』
『美姫は怪我はたいしたことはないんですけど・・・』
最悪の展開が頭をよぎった、同時に怒りがこみあげてくる
『犯人は捕まったんですけど、乱暴されたって聞いてます・・・・』
居間で寝ていた俺は、微かな物音で目を覚ました、美姫だ・・・
事件後退院した美姫は部屋に引き篭もっていた
姉二人の言葉には反応するが俺が話しかけても無視一辺倒で、空腹の限界を迎えてどうしようもなくなった夜に冷蔵庫を漁ることは知っていたので待ち伏せをしたのだ。
こうでもしないと会話すらできない
『ご飯テーブルの上にあるよ、灯りつけなよ、ああそうだ暖めて食べる?』
『うっざ』
蚊の鳴くような声で美姫が答える久々にした会話だった
『ごめん、邪魔だよな俺部屋に戻るからそれとも部屋で食べる?』
『兄貴面してんじゃねーよ!!!!』
怒号とともに皿が飛んできた
『あんたがもうちょっと早く着いてれば私はこんな目にあわなかった』
『そもそもなに?その怪我?一生懸命がんばりましたってアピール?』
あまりの豹変に何を言っていいかわからず『ごめん』という言葉しか出なかった
『なにがごめんなんだよ!!!』
女性に殴られたとは思えない衝撃だった、傷を攻められたこともあり悶絶する
『どうせ怪我も嘘だろ痛い振りなんかすんなよ!!!』
『美姫、手から血が出てるから・・・・』
『そうやって馬鹿にして!』
神経を逆撫でしてしまったようで、近くにあった瓶で殴りかかってきた
『気持ち悪いんだよ!!!』『死ねよ!』
頭の中で何かが弾けた音と、口の中に鉄の味が広がるその繰り返しだった
何回か殴られた所で異常に気づいた花蓮姉がやってきた
『なしにてんの!』
姉の制止の声にもかかわらず殴り続ける美姫を姉が押さえつける、押さえきれず叫んだ
『瑞樹、ちょっと瑞樹!起きろ!おい!なにしてんだよ!!!』
寝ていた瑞樹が慌てて二階からおりてきて止めに入る
『ごめんなさい、熟睡してました・・・!?陽一血だらけじゃない!』
『俺はいいから美姫を落ち着かせて』
二人掛かりで美姫を落ち着かせて部屋に押し込んだようだ、機をうかがって瑞樹が戻ってきた。
『陽一大丈夫ですか?遅れてごめんなさい最近よく眠れていなくて、手当てを・・いや救急車ですか?』
『瑞樹落ち着いて、大したことないから手当てお願い』
動揺するのも当然である、瑞樹は普通の高校三年生なのだ、こういう場に慣れておらず混乱して当然である。
『肝心な時にいつもあの母親はいないんだよな、電話も出ないし、自分の娘が心配じゃないのかよ』
かなりイラついているらしく花蓮姉さんが二階から降りてきた
『あーあー酷い怪我だな、一応病院行こう夜間病院は・・・』
『大丈夫だから病院は明日でいい、二人とも疲れてるだろうから寝てくれ』
『そんだけ頭殴られて大丈夫じゃないだろ』
『大体瑞樹もこの騒ぎで起きないとか・・・そもそも陽一はどうしてこんなことになったの?』
閥が悪るそうに小さな声で瑞樹の『ごめんなさい』が聞こえた
『姉さんも落ち着いて、瑞樹に当たるのはお門違いでしょ、美姫がああいう状態だから疲れてるんだよ』
『あーわかったから、で?なんで殴られてたの?』
『いや・・・俺が悪い』
『それじゃわかんねーよ』
会話が止まり夜の静寂があたりを包む
『もういいや、とりあえず病院行こう、明日起きたら死んでましたってのは頭はあるからな』
『わかった』
この日以降美姫の容態は日々悪化の一途をたどっていった
食事もろくにとらず、ひどく痩せて、風呂も入らず、死んだように寝ていた・・・
病院に行くのも頑なに拒否し家族はどう接していいかわからなかった
一日中ベットの上で天井を見つめながら、私は『苦しい』『死にたい』『どうやって死のう』『外が五月蝿い』『気持ち悪い』『死にたい』『安楽死が認められてる国あったような』『死にたい』『死にたい』
『死にたい』『死にたい』『美姫。入っていい?ご飯もってきたよ』『死にたい』『死にたい』『死にたい』『飛び降りってすぐ死ねるのかな』『死にたい』『いらない、ほっといて』『死にたい』『死ねば楽になれる』『死ねば楽になれる』『しねばらくに』
そしてその日はやってきた
『ただいま』
学校から帰って帰ってくるはずのない帰宅の挨拶をする
『コンコン』と美姫の部屋の扉をノックする、返事がないのが当たり前なので十分待ってからゆっくりと扉を開けたが美姫の姿はなかった。
気になって家中を探したところ風呂にいる様子だった
『ただいま』
夕食の準備をしていると瑞樹が帰ってきた
『お帰り、美姫風呂にいるみたいなんだけど長すぎるからちょっと様子みてくれない?』
『わかりました』
直後の悲鳴と共に俺が見た悪夢の様な光景は一生忘れることはないだろう
美姫が血だらけで風呂に横たわっていた・・・・