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この手を離す前に

「お前、まだ私に用が有るの?」


「テッカハテッカナノデアリマス」


「……どうでも良い。消えてくれる?」


「テッカニハガルダ=ムゥニツイテデトネイターニレクチャースル義務ガ有ルノデアリマス」


「ふーん……。じゃあ、とっとと済ませて消えてくれる?」


「ドウシテデアリマスカ? オウカニハ十分ナ時間ガ用意サレテイルハズデアリマス」


「私が他人を嫌いだからよ」


「テッカハ人デハナイノデアリマスガ……」


「同じよ。どうせ、お前も私を嫌いになる」


「テッカハロボットデアリマス。ロボットニ好キ嫌イノ概念ハ無イノデアリマス」


「がいねん……?」


「テッカハ決シテオウカヲ嫌イニナラナイトイウコトデアリマス」


「……そうなの?」


「ハイ」


「本当に……私を嫌いにならない?」


「ハイ」


「そっか……」


「それじゃあ、私の側に居ても良いよ」


「了解デアリマス」



 ……。



「うううううっ……!」


 ガルダ=ムゥの操縦席が真っ赤に染まっていた。


 警告文の紅と、暴走するリメイクちからの紅。


「ありえない……ありえないのであります……」


 オウカはか細い声でぶつぶつと呟いた。


「最強の力を……神にも等しい力を手に入れたこのオウカが……」


「オウカ、残念デアリマス」


 テッカが言った。


「オウカニハ、デトネイタートシテ、相応シイ操縦者ヲ選ンデ欲シカッタ」


「え……?」


 オウカは震えながらテッカへと振り返った。


「操縦者……? 何を言っているのでありますか……?」


「オウカはガルダ=ムゥのデトネイターに選ばれたのであります」


「オウカこそがガルダ=ムゥの操縦者なのであります」


「ソレハ違ウノデアリマス」


「デトネイタートハ、デュアルソウルノパワーデガルダ=ムゥノ動力トナルモノ」


「ガルダ=ムゥノ主兵装ルナバスターヲ放ツタメノ燃料デアリ『起爆剤』」


「操縦者トハ異ナル存在デアリマス」


「え……?」


「ガルダ=ムゥノ操縦者ハ、狂気ニ耐エウル勇気ヲ持ッタ、勇者デ有ルベキダッタ」


「邪悪トノ決戦ヲ前ニガルダ=ムゥガ破壊サレルトハ、本当ニ残念デアリマス」


「オウカはガルダ=ムゥの持ち主じゃない……?」


「だったら……オウカ達は今まで何のために……」


「最早、ガルダ=ムゥノ暴走ヲ食イ止メル手段ハアリマセン」


「ベイルアウトシテ下サイ。直チニコクピットヲベイルアウトシテ下サイ」


 テッカは繰り返し言った。


「脱出……!? そんなの駄目であります……!」


「この機体が無いと……オウカは……」


「お兄ちゃんを殺せないのであります……!」


「理解不能。脱出シテ下サイ。直チニ本機カラ脱出シテ下サイ」


「ダメ……殺す……殺さないと……」


「ベイルアウトヲ……」


「お兄ちゃんに嫌われちゃう……!」


 ……。


 オヴァン一行とガルダ=ムゥの決戦よりも百年以上昔……。


 オウカとオウガは貧しい砂漠の村に産まれた双子だった。


 だが、双子であるにも関わらず、二人の能力には大きな隔たりが有った。


 理知的で何でも器用にこなし、人当たりも良いオウガ。


 愚鈍で不器用で、ひねくれた性格のオウカ。


 ひょっとすると彼女が捻くれていたのは生まれついてのことでは無かったかもしれないが……。


 両親は当然のようにオウカよりもオウガを可愛がった。


 気付いたら、オウカは村の嫌われ者になっていた。


 オウカを好きな者は村に存在しない。


 ただ一人、兄のオウガを除いては。


 オウガだけはオウカに優しかった。


 オウカは思う。


 オウガは誰にでも優しいのだ。


 だから、自分にも優しい。


 嫌われ者の自分にも優しいのだ。


 もし優しい彼に嫌いな人間などというものが出来るとしたら、自分が最初だろうと思った。


 嫌われ者の自分が、一番最初に嫌われる。


 そう思った。


 ……そして、その日がやって来た。


 両親が突然にオウカを麻袋に詰め込んだ。


 オウカは暴れたが、大人二人が相手ではどうしようもない。


 オウカを入れた袋は猫車へと詰め込まれた。


 猫車は走り出した。


 山へと向かって。


 山道をしばらく登ると、オウカの入った袋は放り捨てられた。


 袋の布ごしにオウカの体が地面へと打ち付けられた。


 オウカの耳に猫車が遠ざかっていく音が聞こえる。


 オウカは暴れたが、袋の口はぎゅっと縛られていて開きそうに無い。


 ここで死ぬのだと思った。


 どうしてこうなったのかはわかっていた。


 今年は水が不足したから、口減らしに捨てられたのだ。


 可愛げの有る兄よりも、可愛げの無い自分が。


 嫌われ者には生きることすら許されないのか。


 惨めだった。


 オウカの目から涙がぽろぽろとこぼれた。


 その時……。


「動かないで」


 聞き覚えの有る声がした。


「ナイフで紐を切るから、じっとしててね」


 兄オウガの声だった。


 すぐに麻袋の口が開けられ、オウカの目に光が飛び込んできた。


 オウカは袋から這い出た。


 視線を巡らせると、見慣れた兄の姿が見えた。


「どうして……?」


 オウカは問いかけた。


「猫車に隠れてついてきたんだ」


「そんなことしたら、お家に帰れなくなっちゃう」


 オウカはそう言った。


 猫車で長い時間をかけてやってきた山だ。


 子供の足で同じ道を歩くのは困難だった。


 それに、両親がオウガを好いていたのは彼が物分かりが良かったからだ。


 彼等は意図に背いたオウガを許さないはずだった。


 水も食料も無い。


 二人は死ぬ。


 オウガは無駄死にだった。


「良いんだ」


 オウガは平然と言った。


「え……?」


「あの人達はオウカを捨てた。それはひょっとすると仕方のないことなのかもしれないけど……」


「俺は、あの人達が嫌いだ」


 オウカの胸に衝撃が走った。


 皆に愛される兄が、人を嫌いだと言った。


 兄が嫌いになる人間が居るとしたら、自分だと思っていた。


 けど……違うのか。


 この人は……ほんの少しかもしれないけど……。


 オウカの事が好きなのだ……。


 オウカは両親の愛情を受けずに育った。


 友達も居ない。


 誰にも愛されずに育った自分を好きな人が居るということがオウカには不思議だった。


 オウカには自分が好かれる理由というものが何一つ思いつかなかった。


 それで、こう考えてしまった。


 この人が自分を好きなのは、何かの間違いなのではないか。


 間違いというのはいつか正されるものだ。


 だから、いつの日かオウガはオウカを嫌いになる。


 寒気がした。


 いっそ、自分を嫌いになるその前に……。


 オウガが死んでしまえば良いのに。


 ……。


 ガルダ=ムゥの操縦席の片隅に、プロトガルダの姿が映っていた。


 ガルダ=ムゥはプロトガルダに向けて手の平を向けた。


 ガルダ=ムゥの手の平には砲門が設けられている。


 照準が合った。


 オウカの眼前にロックオンの文字が表示される。


 そして……。


「助けて……お兄ちゃん……」


 オウカは泣いた。


 その数秒後……。


 ガルダ=ムゥは巨大な爆炎と共に消滅した。




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