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五百年後の君に

 ガルダ=ムゥは背中から生えた紅い光の羽によって遺跡の上空を浮遊していた。


「圧倒的でありますね。オウカはついに神に等しい存在になったのであります」


 ガルダ=ムゥの操縦席にオウカの姿が有った。


 操縦席の周囲は装甲で囲われている。


 だというのに、オウカの前には外側の景色が広がっていた。


 ガルダ=ムゥの各所に設置されたカメラが操縦席の壁面に外の景色を映し出しているのだった。


 まるでガラス張りの箱の中に居るかのように、オウカには地上の様子がはっきりと見えていた。


 オウカの視界にはオヴァン達の姿も有った。


 オウカは遥かな高みからオヴァン達を見下ろした。


 究極の力を手にしたオウカには地上の人間は豆粒のように見える。


「下界の人間どもがゴミのようであります」


 オウカは神を気取って笑った。


 一方で、オヴァンはガルダ=ムゥに敵意の視線を向けていた。


 普段はデッドコピー相手にすら向けたことが無い、露骨な敵意だった。


「あれを知っているのですか?」


 ハルナが尋ねた。


「あれは俺の敵だ。宿敵だ。大分小さくなってはいるが……間違い無い」


「前世で俺は鉄巨人の攻撃に晒され、世界樹にまで撤退した」


「世界樹の頂上で俺達は鉄巨人の群れに包囲された」


「勝ち目は無かった。せめて一矢報いようと思った」


「俺は敵の指揮官らしき巨人を道連れにすることにした」


「敵の砲撃を受けながらも、俺は敵の指揮官に食らいついた」


「周囲の巨人は俺に攻撃を加えたが、俺は食らいついた牙を決して離さなかった」


「翼を失い飛ぶ力を無くした俺は、指揮官と一緒に世界樹から落下していった」


「そして死んだ。敵の指揮官も死んだのだと思う」


「奴は……俺が殺した指揮官と同じ外見をしている」


「あれがオリジナルだと……? 何の冗談だ……?」


「オリジンはあなたが敵対していた世界の技術者だったということでしょうか」


 ハルナは仮説を綴った。


「あるいは……」


 さらに別の仮説を綴る。


「あなたが言う指揮官とオリジンは同一人物なのでは無いですか?」


「彼は前世での自分の武器をこの世界で再現しようとしたのです」


「何をバカな」


 オヴァンは即座に否定した。


「オリジンは『五百年前』の人間だ。俺とあいつは同時に死んだはずだ」


「この世界に転生した時期が違っていたのでは無いですか?」


「彼は死んですぐに、あなたは五百年経ってからこの世界に生まれ変わった」


「それは……」


「ありえないことでは無い……のか……?」


 オヴァンはかつて我がした話を思い出した。


 我がオヴァンの魂を捕まえる前、オヴァンの魂は狭間の世界という所を彷徨っていた。


 そして、魂だけでいる間は、時間の感覚などが曖昧になる。


 転生までにどれだけの時間がかかったのか、オヴァンにはわからなかった。


 オヴァンは再びガルダ=ムゥに視線を向けた。


「俺は……あの時より弱い……」


 オヴァンの顔が苦悩に翳っていた。


 我はそれを見て口端を吊り上げた。


 強い魂の輝きが苦悩する様は我にとって大きな悦びとなった。


 ガルダ=ムゥはゆっくりとオヴァン達の方へと降下してきた。


 そして地面に足を付けることなく20セダカほど浮いて滞空した。


 たとえ高度を下ろしてもガルダ=ムゥの身長は人間の十倍ほども有る。


 依然変わらずオウカはオヴァン達を見下ろしていた。


「ごきげんようであります。地上のゴミども」


 ガルダ=ムゥからオウカの声がした。


 人間が普通に話すよりも遥かに大きい声だった。


 ガルダ=ムゥには拡声器もつけられているらしい。


「オウカ! お兄さんに心臓を返しなさい!」


 ミミルがオウカに呼びかけた。


「死人に心臓を返してどうなるでありますか?」


 オウカはオウガが生きていることを知らない。


 それで馬鹿にしたようにそう言った。


「お断りであります。欲しいなら力づくで取りに来いであります」


「そうさせてもらおう」


 オヴァンは金棒を構えた。


 かつて自分たちを虐殺したパワーに対して。


(あんなものは鉄だ……)


(ただの鉄の塊だ……!)


(遺跡のガラクタどもと同じ……鉄屑にしてやる……!)


 オヴァンは金棒を持つ手にぎゅっと力をこめた。


 その時、オヴァンの腕が光った。


 躊躇なく加護の力を使ったらしい。


 授けられた力で戦うのは卑怯。


 仇敵を前にしてそんな美学は跡形もなく吹き飛んでしまったらしい。


 次の瞬間、オヴァンは高く高く跳び上がっていた。


 高さ20ダカールにまで跳躍し、ガルダ=ムゥの頭部へと金棒を叩きつける。


 ……そのはずだった。


 オヴァンの体がガルダ=ムゥから3ダカールほどの距離に迫った時……。


「があっ!」


 オヴァンの体が弾かれた。


 ガルダ=ムゥの周囲に紅い光の膜が出現し、オヴァンの体を弾き飛ばしていた。


 オヴァンは脱力して地面へと落下した。


 頭部からごしゃりと地面に叩きつけられる。


 そして……ピクリとも動かなくなった。


「ブルメイ……?」


 ミミルがかすれた声を出した。


「ブルメイが……負けた……?」


 ミミルは信じられないといった目で地面に倒れたオヴァンを見ていた。


 たしかにオヴァンは絶対無敵の存在では無いのかもしれない。


 苦戦したことはあるし、危うく命を落としかけたことだってある。


 だが……それでも……。


 彼の加護の力まで使った本気の一撃が……敵に傷一つつけられないということが有っただろうか。


「フフッ。口ほどにもないであります」


 ハルナはオヴァンに駆け寄った。


 オヴァンは鼻と口からだらしなく血液を垂れ流していた。


 手足は本来曲がるべきでは無い方向に曲がり、竜面には大きな罅が入っている。


 ハルナは目を閉じて回復のフレイズを綴り始めた。


「もう終わりでありますか!」


 恐るべき超人を攻撃することもなく退けた。


 ガルダ=ムゥの絶対的な力がオウカの心を高揚させていた。


 オウカは感情のままにガルダ=ムゥを操った。


 ガルダ=ムゥの手の平がミミルに向けられた。


 手の平の中央には紅い球体が見えた。


 恐らくはノート石だろう。


 オヴァンの敗北にショックを受けたミミルはぼんやりとその光景を見ていた。


 その時、ミミルの体が側面から押された。


 ガルダ=ムゥの手の平が紅く光った。


 ミミルは尻もちをついた。


「え……?」


 気がつけば、ミミルの前に倒れるレミルの姿が有った。


 レミルは背中から血を流していた。


 ミミルを庇ってガルダ=ムゥの攻撃を受けたらしい。


「お姉ちゃん……?」


 それを見て、朦朧としていたミミルの意識が覚醒してきた。


「お姉ちゃんっ!」


 ミミルはレミルの体を抱き起こした。


「どうして……」


 今まで散々冷たく当たったのにどうして自分を庇ったのか。


 ミミルはそう問うたつもりだった。


「どうしてって……何がだ……?」


 レミルにはミミルが何を疑問に思っているのかわからなかった。


「何でもないよ……。お姉ちゃん……」


 ミミルはレミルをぎゅっと抱きしめた。


「いてぇよ」


「ご、ごめんね。お姉ちゃん」


 そんな二人を見たオウカは不機嫌そうに顔を歪めた。


「気色の悪い茶番であります」


「もうお前らごときには用は無いのであります」


 ガルダ=ムゥはミミルに背を向けた。


 ガルダ=ムゥが高度を上げて飛翔していく。


 ガルダ=ムゥはオヴァン達に背を向けたまま、遺跡の外へと飛び去っていった。


「ごほっ……!」


 やがて、気道に詰まった血を吐き出しながらオヴァンが目覚めた。


 命に別状はないようだ。


(……完敗ですね)


 ハルナは思った。


(あの時に彼女を仕留めておけば……)


 その気になればハルナはオウガの部屋でオウカを仕留めることが出来た。


 だが、彼女が子供の姿をしていたので攻撃を躊躇してしまった。


 自分の甘さがこの事態を招いたのかもしれない。


 ハルナはそう思いながら、レミルを治療するためのフレイズを綴り終えた。


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