表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/190

ロボットガール

 森から出てはいけない。


 それがミミルの姉、レミルの口癖だった。


 いや、レミルだけではない。


 森の大人達は口を揃えてそう言った。


 ナーガミミィ族は呪われている。


 森から出たナーガミミィは呪いによって死んでしまうのだと。


 幼かったミミルはそれを素直に信じた。


 優しい姉が嘘をつくはずが無いと思っていた。


 だが、同時に外の世界に興味も持っていた。


 いったい、どんな所なんだろう。


 そんな好奇心を我慢していたミミルはある日こう考えた。


(森のギリギリの所まで行って帰ってくれば良いんだ)


 森の中からでも外をちらと見るくらいなら出来るはず。


 ミミルはそれをとても冴えた考えだと思った。


 ミミルの行動は早かった。


 村の近くで遊ぶフリをして、森と外の境界を目指した。


「わぁ……」


 そして、ミミルは辿り着いた。


 そこは森と外界の境界。


 ミミルの眼前に、明るい平原が広がっていた。


 木々の無い世界というのはこんなにも明るいものなのか。


 そこはとても暖かそうで、まるで太陽に祝福されているかのようだった。


 ふらり、ふらりと。


 陽光に引き寄せられるかのようにミミルの足が前に出た。


「あっ……」


 本人も気付かないうちに、ミミルの足が平原の草を踏んでいた。


 死。


 その一言がミミルの脳裏をよぎった。


(い……一歩だけなら大丈夫……!)


 ミミルは慌てて森へ戻ろうとした。


 そして……。


「あうっ!」


 足をもつれさせて転んでしまった。


「あ……あぁ……」


 もう駄目だ。


 ミミルはそう思った。


 倒れたミミルの体は完全に森の外に有った。


 皆の言うことが確かなら、彼女はもう助からない。


 そのはずだった。


 だが……。


「あれ……?」


 死の恐怖に震えるミミルだったが、一向に何かが起きる気配は無かった。


 何の痛みも、異常も無い。


 ミミルの頭は急に冷静になった。


 ミミルはゆっくりと立ち上がった。


 彼女の全身を直射日光が照らしていた。


(どうして……? 森から出たら死んじゃうんじゃ無かったの……?)


 そして、ミミルはある一つの『答え』に辿り着いた。


「嘘……だったの?」


 そう思いたくは無かった。


 だが、そうでなければこの状況の説明がつけられない。


 ミミルはそう考えてしまった。


 ミミルはまっすぐに村に帰った。


 それから、ミミルは何事も無かったかのように村で過ごした。


 村の大人達は相変わらず同じことを言った。


 ナーガミミィは呪われている。


 外に出たら死んでしまう。


 実際は、ミミルが成長するにつれて、少しずつ言葉の内容は違ってきていた。


 だが、ミミルは既に大人達の説教を真面目に聞くつもりは無くなっていた。


 真剣に教えを説く大人たちの言葉をミミルは軽く聞き流した。


 大人達は馬鹿馬鹿しい迷信を信じている愚かな人達。


 ミミルにはそう見えていた。


 だが、ミミルは変わらずに村での日々を過ごしていた。


 理由は一つ。


 ミミルの体がまだ成長しきっていなかったからだ。


 世間知らずのミミルでも、子供の体力で外での生活を送れるとは考えていなかった。


 まずは一人前になり、自分で自分の面倒を見られるようにならなくては。


 そして……その時は……。


(外の世界に出ていくんだ)


 広く、輝かしい世界に。


 ミミルはそう決断し、その時は来た。


 ミミルは旅立ち……そして、英雄と出会った。


 ……。


 ミミルは駆けていた。


 もうかなりの距離を走っている。


 最初の地点から1ナダカは走っただろうか。


 姉に射抜かれた肩が痛んだ。


 治療も受けずに走り出してしまった。


 傷は塞がっていない。


 傷口の周囲が血で染まっていた。


 痛みのせいか、腹立たしいのか、とにかく不快な気分だった。


「っ……!?」


 建物の迷路を進むうち、ミミルは不思議な物を発見した。


「クロス……?」


 それは奇妙な生き物だった。


 いや、生き物と言って良いのかはわからない。


 その物体は、金属で形作られているように見えたからだ。


 高さは90セダカ程度。


 一片60セダカほどの赤い立方体から六本の白い脚が生えていた。


 全てのパーツが金属質。


 立方体のミミルに向けられた面に、白い直径30セダカほどの円形の枠が有った。


 枠の中に黒い円が有り、黒い円のさらに中央に小さな赤い円が有った。


 目のようだ。ミミルはそう感じた。


 その物体は赤い円をミミルの方へ向けた。


(見られてる……?)


 ミミルはそう感じた。


 用心として弓矢を構えた。


 射られた肩が痛むが、気にしてはいられない。


 矢に風の力を行き渡らせる。


 ミミルの周囲でつむじ風が生じた。


 ミミルとその物体の間には10ダカールほどの距離が有った。


 突然、その物体は走り出した。


 ミミルへ向かって。


「っ……!」


 ミミルは慌てて矢を放った。


 風の力を宿した矢が金属の立方体を貫く。


 物体の中央に直径2セダカほどの風穴が開いた。


 物体は穴からバチバチと火花を放出し、やがてガシャリと崩れ落ちた。


「黒い水にならない……。クロスじゃない……?」


「ひょっとして、悪いことをしてしまったのかしら……?」


 ミミルは弓を持ったまま、しばらくその赤い物体を眺めていた。


 その時……。


 ミミルを取り囲んでいた金属の建物……その扉の一つが開いた。


「開いた? どうして?」


 ミミルは恐る恐る建物の中を覗き込んだ。


 内壁は外壁と同じく金属質。


 窓のない建物であるにも関わらず、建物の中は明るかった。


 天井を見上げると、光源らしき物が見えた。


「明かりが有る……。人が住んでいるの?」


 ミミルは建物の中に足を踏み入れてみた。


 ミミルが建物に入った直後、入り口の扉が閉じられた。


「えっ?」


 ミミルは慌てて振り返った。


 扉を開けてみようとしたが、びくともしない。


 何か強い力が扉に働いているかのようだった。


「閉じ込められた……?」


「罠……? だけど……」


「私を誘い込んで、何の意味が有るの……?」


 その時ミミルが居たのは一辺5ダカールほどの部屋だった。


 入り口から見て右側の壁に部屋から通路につながる開口部が有った。


 他に部屋から出る方法は見当たらない。


 仕方なく、ミミルは通路を進むことにした。


 通路は曲がり角こそ有ったものの、分岐の無い一本道だった。


 しばらく進むとミミルは行き止まりに突き当たった。


 実際には大きな扉が有ったのだが、ミミルの力で開けられる物には見えなかった。


 実質行き止まりと同じ……。


 ミミルがそう思っていた矢先、扉が開き始めた。


 扉は高さ3ダカール、横幅1、4ダカールほどの二枚並んだ開き戸。


 中央からミミルとは反対側にゆっくりと開いていった。


 扉の向こうには広い部屋が有るようだった。


 これまでの部屋と比べると部屋全体が薄暗い。


 ミミルの位置からは部屋の中がぼんやりとしか見えなかった。


 一方で、部屋の奥ではいくつもの光源が光を放っているのも見えた。


 その光源の近くに人影らしき物も見える。


 ミミルは部屋に足を踏み入れた。


 そして、人影に向かって歩いて行く。


 恐れは有ったが、他にするべきことも思い当たらなかった。


「いらっしゃいであります」


 人影が声を放った。


 若い女性の声だった。


 次の瞬間、部屋全体が明るくなった。


 天井の照明が点灯したらしい。


 人影の正体が明らかになる。


 身長120セダカほどの背の低い少女が丸椅子に座っていた。


 少女の背後には光を放つ箱が幾つも置かれていた。


 箱の中には様々な絵や文字が描かれ、そして動いていた。


 少女の髪は紅いショートヘアで、衣服を身につけていなかった。


 かと言って、素裸だったわけではない。


 まるで肌の上に直接、薄い金属板を貼り付けたような……。


 そんな風変わりな格好をしていた。


 金属の色は赤く、関節部などは白い布地で覆われていた。


 布地は綿でも絹でもない。


 ミミルがこれまでに見たどんな生地とも違う。


 未知の素材だった。


 ミミルは少女の未知に惹かれ、言葉を失った。


 ミミルが黙っていると、少女は言葉を続けた。


「先程は、オウカの『ロボット』が迷惑をかけたであります」


「オウカ? ロボット?」


「ロボットとは、先程あなたに襲いかかった物体のことであります」


「あれ、あなたのだったの? ごめんなさい。壊しちゃったわ」


「いえ。オウカの監督不行届であります」


「オウカっていうのは……あなたの名前?」


「その通りであります」


「私はミミルよ。ミミル=ナーガミミィ。よろしくね」


 敵意を感じさせない少女に対し、ミミルは表情を緩めた。


「はい。よろしくであります」


「それで、あなたは何者? どうしてここに居るの?」


「その前に……」


 オウカがフレイズを唱え始めた。


 ミミルは身構えた。


 だが、それは攻撃のフレイズでは無かった。


 ミミルの周囲にサークルが生じると、ミミルの傷の痛みが和らいでいった。


「回復のフレイズであります」


「ありがとう」


 ミミルの肩は衣服ごと修復されていた。


 後にはほんの軽い痛みだけが残った。


「それではオウカの話を始めるのであります」


「ええ。聞かせて」


「オウカはデトネイター……」


「オリジン最後のオリジナルを継ぐ者であります」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓もしよろしければクリックして投票をお願いします。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ